48-5 宣戦布告
なんだ、こりゃあ。
舞踏会?
武闘会じゃなくて?
せっかく敵方の大使なんかが揃い踏みだというのに。
やや混乱中の俺を引き立てながら、王妃様はにこやかに挨拶をした。
「御来場の皆様、ようやく主役の登場ですわ。
こちらが第二王女シルベスターの婚約者となりますグランバースト公爵、つまり魔王様です」
ねえ、王女たる娘の婚約者という触れ込みなのに、その紹介でいいの?
というか、今から殴りこみじゃなかったんだ。
聞いてないよ。
まあいいや。
それならそれで、今日の俺の目的は決まっているのだから。
それ以外はどうでもいいのだ。
俺は笑顔で凄みとドスを効かせた挨拶をしようとしたが、そいつは断念した。
ある事をしなければならないからだ。
それは奴らを検索する事だ。
この場にいる敵方の奴を。
そして情報収集を行うためにマーカーを付ける事。
いやあ、こいつは手間が省けたな。
検索しつつ、マーカー用のウインドウをどんどん追加していく。
その作業に没頭していて、やっと終了した頃合に声がかかった。
「アルさん、何か挨拶を」
おっと御指名だ。
笑顔で王妃様は仰ったが、俺はしゃらっと言ってのけた。
「やあやあ、十六か国連合の皆さん、私が魔王アルフォンスです。
この度の私への宣戦布告大変ありがとうございます。
最近(読者の方も)退屈していたところで、丁度いい余興だ。
精霊魔王並びに神聖エリオン、そして全世界の精霊軍団は諸君らエネミー16(勝手に命名)による宣戦布告を受諾した。
ロス教大司祭である大司祭魔王アルフォンスと主神ロスの祭神たる神聖エリオンのファルは、始めるのならいつでもいいぞ?」
一瞬会場は静まり変わったが、次の瞬間に響いた。
「それは、アルバトロス王国が宣戦布告を受諾したという事なのか!?」
ゲルス共和国の大使が、眼に怪しげな喜びと若干の期待を込めて訊き返してきた。
「馬鹿だな、俺の話をちゃんと聞いていたのか?
お前達が喧嘩を売った相手は主神ロスそのものだ。
俺達は神の地上における代行者としてこの喧嘩を買った。
ただ、それだけだ。
アルバトロス王国?
そんなものは関係ないな。
お前達は神の軍勢を率いる魔王に喧嘩を売ったんだ。
なあファル?」
俺はそう言うや否や、マントの裾から神聖エリオンを取り出した。
「十六か国連合、お前ら全員はも~ん」
ファルの宣告を受けて、十六か国連合の関係者全員が強い衝撃を受けた。
こいつらは別に宗教関係者ではないので、ファルから破門なんて食らっても痛くも痒くも無いはずなのだが。
中々ノリのいい連中だな。
「では神の代行者達からの挨拶も終わったようなので、今回の主役である娘を紹介しますわ。
シルベスター」
「あ、どうもアルバトロス王国第二王女シルベスターです。
皆さん、大変御疲れ様です。
あー、戦争どうか頑張ってください。
えー、今回の騒ぎはアルバトロス王国とその同盟国には全く関係がありませんので、まあ何と言いますか、そういう事で一つ宜しくお願いいたします」
ああー……なんかマイペースな人達がいるな。
別にいいんだが。
だが驚く十六か国の面々。
アルバトロス王国を中心とした国々相手に喧嘩を売るつもりだったのだろう。
この程度の連中に喧嘩を売られるなんて、俺の悪名がまだ足りなかったようだ。
せっかく、あれこれと生中継をしてやったというのに。
その場にいないと、実際の現場の内容は理解出来ないらしいな。
まあ、ああいう映像そのものに免疫がないから驚きの方が勝ってしまって、よくわかっていないのかもしれない。
それにゲルスの連中は大陸の反対側にいたから、対帝国戦の全容がいまいち理解できていなかったとみえる。
メルス大陸の連中に至っては、この大陸での出来事は噂で聞いた程度だから、大した事ないとか思っていたのかもしれない。
魔法中継も他人事だと効果が薄いのかな~。
当てが外れたらしい連中は大騒ぎをしている。
俺は馬鹿どもは放っておいて宴会を始める事にした。
もうドワーフには話をつけてあるので連中を大量に召還した。
あの連中は業腹な事に、大王以外の奴らもこの上級社会の場にいる事が許される身分の人間、つまり貴族だったのだ。
他の国の貴族から見たら、それはもう最悪な連中だけどな。
さあ俺の奢りだ。
諸君たっぷりと飲んでくれ。
ドワーフと一緒にね。
俺達は宴会場を後にした。
アルバトロスの王族達も。
こっちの陣営にいる人達は全員が退出を『許された』。
それ以外の敵方の奴らは、全員がドワーフ達による「俺の酒が飲めないのか」攻勢に遭っている。
そして扉は閉め切られた。
後に残された者達が向かう先はゲロの海だ。
だが、それに沈む事は許されない。
叩き起こされてまた飲まされるのだ。
それこそ延々と。
酒ならドワーフどものアイテムボックスへ超々大量に突っ込んでおいたので。
それらの最高の酒が連中への今回の報酬でもあるのだ。
そいつを全部飲み切ったって、後で数倍の追加報酬が贈られることになっているので何も問題はない。
王室ゾーンではアルバトロスの王族が集まっていた。
「また派手にやらかしたものじゃな」
いささか白い物も多くなった口髭を弄りながら、面白そうな口調で陛下が言った。
王妃様も始めから面白がっているようだ。
息子のミハエルの方は辟易したような顔だったが。
「まあ、一応私個人が喧嘩を売られたという体裁にしておきましたので、もし戦争になったとしてもアルバトロス王国は微塵も軍を動かさないでくださいね。
同盟国も一切関係ないで通してください。
それで実際のところはどうします?
好きなところからやっていいですか?」
「ふむ。それでよいが、どこから行くのじゃ?」
「まずは『ケモミミの防衛』からに決まっています」
俺は、にっこりと笑って転移で消えた。
「というわけなので、ちょっくら戦争に行ってくる事になった。
ここの警備だけは、しっかりしておいてくれ」
当然、俺はケモミミ園に戻って、またプチ防衛会議だ。
「了解しました」
エドが手短に返事をした。
常日頃から、こういう事を想定して色々と計画を立てているので、今更みたいな顔をしている。
もう毎回これなんだしな。
まったくもって呆れた世界だ。
ここは一介の幼稚園なんだぞ。
国家の軍勢で攻めてくるなよな。
これが日本なら法律で強力に護られていて、幼稚園の上空をヘリコプターで飛行する事さえ許されないほどの、病院並みの絶対聖域なのだから。
もちろん、近隣の土地へのラブホテルや風俗店の建設なんかも禁止だ。
「じゃあ、僕もしばらくはこっちにいる事にするよ」
アルスもいつも通りの、のんびりした口調で首を竦めた。
とても、これから戦争が始まるとは思えない。
そして何よりも、本格戦争よりこの拠点防衛が一番問題となるのだ。
頼りにしているよ、Sランク戦士。
今日のスピーチの応酬なんぞは所詮只の戯言なのだ。
あれで本当に戦争になるなどという事はない。
だが、いずれは順を追って連中が何かやらかしてくるのに違いない。
頭の痛い事だ。
他の連中も、あまり気にした様子ではない。
いつも通りに「いってらっしゃい」と言われて、俺はハイドへと向かった。
「やあ、派手にやりましたね」
シド陛下がにこにこ笑って出迎えてくれた。
もう知っているのか。
さすがだな。
「ああ、なんか知りませんが、いきなり喧嘩を売られたもので。
入学式が終わったところなんで助かりました。
次の行事に間に合わないといけないので、適当に終わらせますよ。
王都学院での講師の仕事もあるし、あまり遊んでおれませんので」
うちは幼稚園や小学校だから、イベントといっても、せいぜい体育大会や春の遠足くらいだが、王都学園の奴らには強化合宿も用意してやらないといけない。
中には学園を卒業後に冒険者になるような奴もいるのだ。
学園では剣や魔法の授業もあるから、いきなり農村から出て来たような能無しの小僧よりは遥かに使える連中だろう。
しかしSSSランク冒険者としては、魔法教師をやる以上は後で教え子の中から人死にが出るような悲惨な展開は避けたい。
今のうちに巣の中の雛鳥どもは鍛え抜いておこう。
ウルトラスパルタでね。
そういう訳なので、要らん仕事はサクサクと片づけにいこう。
「とりあえず、メルス大陸関係の資料をくださいな」
「承知した」
シド陛下は、てきぱきと指示を出して資料を集めさせた。
「まあ、その間に軽くお話を。
あの小国の集まりである国家連合は……」
メルス大陸特産品の御茶を片手に、氷雪の貴公子は貿易相手であるメルス大陸諸国に関して優雅に語りだした。




