46-1 荒涼な丘のフローラ
神父様の結婚式は無事に終了した。
さすがに子供達が多いので新婚さんではしばらく大変だろうから、神殿の神官とかうちのスタッフとかが交代で御手伝いに行く事にした。
あと、教会に離れも作ってプレゼントしてみた。
あのままじゃ新婚夫婦でゆっくり出来ないからな。
そして王宮の中庭で御花見をやる予定にしている。
一応、どこかにサクラが咲いていないか、ゴーレム隊にあちこちを偵察させているが、そっちの方は芳しくない。
バルドスの爺にも聞いてみたが、よくわからんらしい。
一応ネット画像とかも見せたのだが。
念のために精霊の森へも行ってみたが、残念ながら判明しなかった。
それでもまだ諦め切れなかった俺はジョリーに訊いてみた。
「なんか、サクラっぽい木の精霊とかいないの?」
「サクラですかー。
よくわかりませんね。
それで、そのサクラとかいうのがいると、何か具合が宜しいので?」
あー、精霊に花見って言ってもわかんないか。
こいつも武のいた時代から精霊の大神官をやっているらしいのだが、殆ど精霊の森から出た事がないんだろうしな。
むしろ、放浪していたっぽいミレーの方が知っている可能性は高いが、この世界自体に花見の習慣が無いからな。
地球にだって、日本式の花見は基本的に日本にしかないのだ。
せいぜい同盟国アメリカのワシントンに植えられた桜並木のある場所で、日本文化の紹介のような春の友好フェスタみたいな行事をやる程度だろう。
後は日本人そのものにしか見えない容貌をした純日系人の集まりでやるくらいか。
アメリカは世界で一番日系移民が多い国なので花見もそれなりにやられているはずだ。
どこの国もそういう傾向にあるが、日系人って日系人同士でくっつく事が多いらしいので、醤油顔が結構子孫に残っちゃうみたいだ。
他にも友好国では日本国との友誼のために、あるいはどこかの移民先にて日系移民の手により植えられている可能性はあるが、俺のような一般の日本人にはそう知られていない。
「じゃあさ、これこれこういう風な感じの種族みたいなのはいないの?」
俺は写真を見せながらサクラの特徴を伝えて、駄目元で訊いてみる。
すると意外な答えが返ってきた。
「ああ、それならばドライアドでしょう」
「それって、確か武が精霊の森に行った時に出迎えてくれた奴だよな」
「そうです。
しかし、ドライアド自体はそう珍しいものではありません。
もちろん精霊の森におる者は世界でも有数の者ではありますが、その辺の木に取り付いている者とか、あるいは気に入って植物に滞在しているような者ならいくらでもおりますよ。
彼らは、ある程度自由に植物の姿を変えられるので、御望みのサクラとかにも姿を変えられるかもしれません。
気ままな奴らなので、あなたの素晴らしい魔力や御菓子を対価に頼んでみたら言う事を聞いてくれるかもしれませんよ。
心当たりはありますので、もし宜しければ御案内しますが」
俺は是非もないので御願いする事にした。
変身サクラちゃんか。
まあ、花見の日に一日だけ頑張ってくれれば大丈夫なんだし。
そういう事で、俺はなんとも気楽な気持ちでいた。
そして、ジョリーはそいつらのところへ案内してくれた。
そのアルバトロス北方の、またなんとも荒涼とした風景の中に彼らはいた。
確かに桜のような感じの木だった。
実際に花が咲いたらどうなのかは知らないのだが。
だが微妙に形が違う気もするな。
花はまだ咲いていなくて、まだ蕾の状態だ。
やはり蕾の形も微妙なものだった。
うん、それにまだこの北方までは桜前線が来てないものね。
ちゃんと咲いたら、少しはそれっぽくなるかもしれない。
「いるかっしら~。サックラちゃあ~ん」
俺は、のほほんと呼んでみた。
「なんじゃあ、われ~」
いきなり、豪くドスの効いた声が返答してきて、俺は思わず沈黙した。
明らかに女の子の声なんだけどな。
これまた、かなりヤサグレていらっしゃるようだ。
「えーと……ジョリー?」
俺から困ったように問いかけられた精霊の森の大神官は頭を抱えた。
そして、桜の木? の蔭から声がした。
「あー、ジョリー様だ。
こんにちは~」
「こんにちはじゃありませんよ、フローラ。
ちょっと、こっちへいらっしゃい」
「あいたたた」
ジョリーに耳を引っ張られて、そいつは顕現した姿でやってきた。
薄桜色の衣に身を包み全身に花弁をあしらった、ピンク色の髪をした妖精のような美少女だったが、俺は理屈ではなくセブンスセンスで既に確信していた。
こいつは残念な問題児だと。
しかも、頭の悪い系の。
これが外に出してある一時保管のゴミ箱の蓋を開けて出てきたというのなら、そのまま蓋を閉めて外からガムテで封印でもしておけば済むのだが。
しかし、他に桜の代替が利かなそうだとすると、如何にすべきか。
そして一秒とかからずに俺の心は決まった。
アイテムボックスから、でっかいゴミバケツを取り出して、そいつを強引に押し込んだ。
片手にガムテープを持ち、もう一方の手でHP3200万のパワーにより蓋をぐいぐいと閉めにかかる。
「やめれ~、この糞親父~!!」
あっはっは。
こいつめ、見た目の若さに胡麻化されずに俺の正体がわかるらしいな。
さすがは精霊だけの事はある。
面白そうなのでゴミバケツ封印は勘弁してやった。
「フローラ。
こちらは、かの悪名高き精霊魔王だ。
死にたくなかったら絶対に逆らったりしないように」
おい、ジョリー。
「ええーー‼」
おや? 俺の事を知っているのか?
「それって、だあれ?」
やっぱり頭の弱い系のキャラだったか。
ジョリーも困っているようなので、俺は助け舟を出す事にした。
「おい。
御手伝いをしてくれるなら御駄賃をやるぞ」
そう言って、そいつの口に御菓子を放り込んでやった。
「ピヒュウー」
こいつも、こういうリアクションなのな。
ついでに魔力もふわっと投げかけてやったら、一瞬にして大勢のドライアドの入れ食いになった。
こいつら一体どこから湧いてくるんだよ。
バシャバシャバシャバシャというような、鯉が餌に群がってくるような擬音が聞こえてくるような気がした。
「それで、お前らは何故こんな場所にいるんだ?」
「それは……」
奴は言いかけてから拗ねてそっぽを向いたので、もう一度ゴミ箱に押し込めようとしたら喚きだした。
「痛い痛い。
助けて、ジョリー様~」
「だから言ったでしょう、フローラ。
その方に逆らってはいけません。
あなたは船橋武の事を忘れてしまったのですか?
こちらは、彼と同じ異世界からやってきた稀人の方だ。
彼と違って色々と容赦が無いし、性質が悪いので口の利き方には気を付けるように」
こいつはまた豪い言われようだな。
まあ特に否定はせんけど。
そういえば、ジョリーは武と会った事があるんだったな。
「いやあ、忘れるわけが無いですよ。
あんなに魔力の美味しい方の事を。
でも、この人の魔力も甲乙付けがたいです。
ちゅうちゅうちゅうちゅう」
なんだか精霊版エリーンみたいな奴に出会ってしまった。
せめてエリーンの半分くらいでも使える奴ならいいんだが。
まあ背に腹は変えられない。
とりあえず今年は、こいつに頼むしかあるまい。
直に御花見シーズンは終わってしまう。
もう御時間は待ったなしなのだ!




