44-6 留学スペシャル
やがて大会は終盤を迎え、決勝はテキーラ姫の鮮やかなオレンジ色をした機体サンライズ対和菓子海だ。
両者、ここまでの厳しい戦いを潜り抜けてきたのだ。
どっちが勝ってもおかしくない。
躊躇いなく開始の合図と共に突っ込んでいくサンライズ。
それを受け止めようと腕を伸ばす和菓子海。
サイズ的には、サンライズが捕まったら完全に御終いという組み合わせだ。
だがスルリっと体を落とし、和菓子海の足にタックルをかますサンライズ。
互いに異世界では変則スタイルともいえる二種目、相撲対レスリングの対決になったのだが、いかんせん相撲競技専用機ではない汎用機体の和菓子海は猛烈タックルの急襲に踏ん張る事が出来なかった。
堪らず倒れこむ最中に、さっさと足を引っこ抜かれて和菓子海はあえなく敗北した。
この世界初の異種格闘技戦は、相撲よりもレスリングに軍配が上がった。
まあ本物の競技でやったら、ちょっと厳しいかもしれんけど。
親方みたいなパワーと体格を持った連中に相撲を取られたら、他のスポーツ選手じゃ絶対に勝てっこない。
いっそ、エルドア王国春場所とか開催してみるか。
大迫力間違いなしだ。
その場合、もちろん優勝は無敗の親方で決まりだな。
サイラス・ヒナダム大会の優勝は三歳のテキーラ姫で決まった。
また豪く嬉しそうだ。
俺が即席で作った子供向けの、鮮やかな原色旗地に金房を奢った優勝旗を持って振り回し、部屋中を走り回っていらっしゃる。
侍女さん達もそれを微笑ましそうに見守っていたが、時間的に丁度いいようだ。
「御夕飯の御支度が出来ました。
どうぞ、大広間へおいでくださいませ」
御夕飯……兄弟国の王子たるエミリオ殿下が来たのだから、普通は晩餐って言うものなんじゃないの?
だが会場へ行って理解出来た。
うん、これは確かに御夕飯だわ。
そこには、直に床へ座れるように茣蓙と言った方がいいような敷物が誂えられていて、会場へは靴を脱いで上がるようになっていた。
なんていうか、窓は開きっぱなしの吹き抜けのようなところだ。
東南アジアっぽいオリエンタルな空気が部屋いっぱいに漂っている。
たくさん机が並べてあり、そこに大皿の料理が並んでいるのだ。
子供達には専用の「島」が作ってあり、そこで食べる。
大体、大きい子が小さい子の面倒を見るようだ。
ウォッカ姫はプリー君の面倒を見るのに夢中だ。
侍女さん達が何人かテーブルの傍についてはいるようだが、敢えて子供同士で自由にやらせているようだ。
ついている大人は、あくまで御手伝いなのだ。
王も臣民も家族のように一緒のテーブルの前に座って食べる。
こいつはまた大家族だなあ。
子供の頃にあった親戚の集まりとかを思い出す。
大人になってからも、従兄弟会とかがブームになっていた時に二度ほど出させてもらって、楽しく過ごした記憶がある。
後ろにある子供の席に座っているエミリオ殿下も楽しそうだ。
「殿下、気候的にはどうですか?
まだ春先で、穏やかな暑さだと思うけど。
夏にまた来てみたほうがいいかもしれませんね」
「今のところ快適だよ。
アルバはまだ寒いくらいだし」
あと湿度が高いのではないかと推察されるので、体調的にそのへんが問題だよな。
今の所、それほど問題はないようだ。
まあ、大きくなってからなら体もすぐ慣れるだろう。
御料理も気に入ったようでパクパク食べている。
ここはインドではないので、料理が全部カレーっていうわけじゃない。
生春巻き風の食い物や串焼きなんかもある。
シチューなんかも非常に豊かな味わいだ。
どっちかというと、地球でいえばタイに近いような雰囲気なのかもしれんな。
俺はルーバ爺さんと飲みながら談笑していた。
ここの酒は美味しい。
持ってきたアルバの酒も上等だ。
さすがに、最初の頃に放浪していた村々の酒はいただけなかったがな。
ただ、美味い酒は高いな。
その割高感は地球よりもかなり上だ。
ちょっといい酒だと金貨が飛ぶ。
「明日からの予定なんじゃが、気候に慣れるために来たので探検に行く事になった。
まあ、うちの騎士団もおることだし、この国の者もついてくる。
多分、御主の出番は無いとは思うがの」
そうか、じゃあ俺ものんびり魔物狩りと洒落込むかな。
翌朝、準備を整えた一行はジャングルへと旅立った。
馬ではなく、何かトカゲっぽい魔物が馬車を引いてくれている。
大人しくて人によく慣れるので、この辺ではよく使われている魔物なのだそうだ。
ああ、日本でも温暖な気候のところへ行くと、動物もそんな感じがあるものね。
こいつは結構足が速く、通常の馬が引く速度の四倍のスピードで走った。
そのくせ、かなり持久力もあるのだ。
馬車本体も速度に合わせた工夫はされていて、吊り下げ式の座席になっていた。
これも結構揺れるので、人によっては落ち着かなかったりするが、俺的には気持ちよく寝られたかな。
半日走って王都から百キロメートルくらい離れた場所へ着いた。
馬車を降りて、そこからは道無き道を往く徒歩だ。
そこは、なかなかの魔物パークぶりだった。
熱帯雨林のジャングルだな。
足元は朽ちた植物の残骸があり、踏み締めながら歩く感じだ。
シダのような植物や枝を切り払いながら進む。
まるで、懐かしのテレビ特番に登場する探検隊のような趣だ。
あるいはB級映画の世界だ。
辺りには、いろんな種類の蛇や昆虫がひっきりなしに現れる。
何故こんなところに将来の王様を連れてくるのか不思議に思ったが、そういう事も含めて留学なのだそうだ。
相変わらずスパルタだな、あの陛下。
まあ、これくらいの事はこなさないと、この緩い国の王様だって務まらないっていう事なのかな。
そのジャングルの下生えを、なんなく捌く現地の騎士団。
やっぱり兜はバンダナなんだけど。
なんかこう亜熱帯系アジア人っぽい雰囲気で、藪を掃って、ざっざっと進んでいく。
キメラやドラゴンの出てくる雰囲気ではなさそうだ。
俺も狩りを楽しませてもらった。
初めての食材(魔物)が多くて、なかなか楽しめた。
そして、進むうちにハッと気が付いた。
これは!
この辺りは何か微妙に不思議な雰囲気があるな。
これは結界のような物なのだろうか。
なんというか、自然体で空気のように自然な感じのするカムフラージュというか。
俺はこの手の物は何度も経験しているのでわかる。
元々妙な感覚を持ち合わせているのもあるし。
そして、そこへ現れた決死の表情をした魔物達。
こいつらは猿というか類人猿というか、そんな風体であった。
逞しい筋肉は人類の祖先を思わせる。
だが眼はギョロっとしていて大きく、全身硬そうな毛だらけで、まるで何かのUMAであるかのようだ。
なんていうのかな、いわゆるトンデモ本に出てくる未確認生物の挿絵に向いているようなスタイルだ。
たくさんの尖った牙の覗く口は、一見すると凶悪そうにみえるのだが……。
こいつは初めて見るタイプだ。
そして『まるで何かを守ろうとしている』かのような様子なのだ。
俺は目の前を、思わず覚えた既視感に覆われてしまった。
アカンな、これは。
だがサイラス騎士団が攻撃を仕掛けようとするので、俺は素早く彼らの前へ進み出て、両手を広げて牽制する。
「何故止める、公爵!」
だが俺は意にも介さず、サイラス騎士団に対して柔らかく目線で牽制しつつ、にっこりと笑って魔物の前にファルを差し出した。
「やあ」
片手を上げて、にこやかに挨拶をするファル。
こいつにもわかっているのだ。
それを見て、即座に戦闘態勢を解く魔物達。
彼ら知的魔物にも、神聖エリオンという物は一目でよく理解出来るものらしい。
俺は感じたのだ。
こいつらからは、ブラウンゴブリンと同じ匂いがするのだと。
そして、俺は彼らに「チョコレート」を剝いて差し出した。
害がない食べ物である事を示すために、二つ差し出した内の一つを自分も口にしてから。
それを受取った代表の魔物は、一口食べて驚いた。
「ハリド、ハリド」
ん? なんだ?
「ハリド、ハリド」は「チョコ、チョコ」という意味です。
この解説を入れておかなかったのでコミカライズでは少し違う意味になってしまっています。
コミカライズの監修はしているのですが、そういうところは中々難しいので、修正しないでそのままになっています。




