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43-5 夢春の宴

 遊園地にはスタンドが付き物という事で、ゴーレムさんの売り子の軽食スタンドを営業させてあった。

 エルミアの子達が地響きを立ててスタンドに殺到した。

 まず、そっちからだったか。

 みんな思い思いに大量の食い物をせしめてから、俺について歩き出した。


 神父様はエルフさんがもてなしてくれている。

 あちこちにゴーレムの係員がいてくれるので、ここでは子供達の心配をする必要は無い。

 まあ、今日はゆっくりと休んでくださいな。


 遊園地は、そう大規模に作ったわけではないので、この人数だとほどほどの賑いかな。

 まだ設備を全部作った訳でもないし。

 あと、ワームホールとかミラーハウスが欲しいところだ。

 大きなエア遊具も欲しいな。

 アレは簡単に移動させて設置できるし。


 エルミアの子達も、あれこれと説明されて、あちこちに散っていった。


 ポールはマリーと一緒に250ミリゲージの汽車に乗っている。

 あの子は職人希望で、本当はあれこれ見たいだろうに、今日も妹の面倒を一生懸命にみている。


 エリは、この弟妹達を本当に誇りに思っているようだ。

 少なくとも、その幸せをこのアドロスで砕く奴は俺が許さない。

 とりあえず、この国の貴族や盗賊ギルドとかはもう手を出してこないだろうけど。

 元はと言えば、それが原因で俺が貴族殺しと呼ばれるようになっちまったんだからな。


 ポールには今度またゆっくり色々と見せてやろう。

 ドワーフ国のアトリエパレスの見学もいいかな。

 ポールはトーヤと仲がいいので、あの子に連れていかせるか。


 やがて夕日が綺麗な時間に差し掛かる。

 気分で今日はガーデンパーティにしよう。


 野外テーブルには、エリや山本さんにランドさん達ケモミミ園の料理人さんと勢揃いした料理人謹製の各種料理が立ち並んだ。


 今日は「手巻き寿司」があった。

 手巻き寿司には微妙な思い出がある。

 あれはラスベガスの最大手グループのあるホテルでの事だった。


 ちょっとそこのホテルへギャンブルしに通っていたので、ついでにバフェイ(ビュッフェ)に寄ってみた。

 名物の、御値打ちな茹で蟹とシュリンプカクテルが目当てだったのだ。

 蟹と海老は美味かった。


 そして、そこに手巻き寿司があった。

 見た目だけは美味そうだったのだが。


「だがわかる」


 理屈ではなく、そういう事もわかってしまうのだ。

 これは、きっとトラップ。

 そいつを取るのは止めにしておいた。


 そして御隣の席にいた女の子二人組。

 中国人なのか日本人なのか、最初は会話から判別がつかなかった。

 だがしばらく観察していたら、日本人のようだったので、ちょっと声をかけてみた。


「あのう、すいません。

 その手巻き寿司、美味しいっすか」


 彼女達の皿には、ほぼ手付かずの手巻き寿司があったのを俺は見逃がしてはいなかった。

 間髪を入れずに笑いながら返事が返ってきた。


「まずいです~」


 よかったぜ、取らなくて。

 年代的に食い物を粗末にするような教育は受けていないので。


 そうさ。

 セブンスセンスは正しい。

 まずくて食えない手巻き寿司を残すくらいなら、最初から取らなければいい。


 でも今も心に残るのは、まずいからと食べなかった、あの手巻き寿司だったりする。

 遊び尽くしたラスベガスで一番の心残りなのだ。

 まずいのも思い出の一つなんだよな。

 所詮はアメリカの食い物なんだし。


 みんな言うんだ。

「アメリカのハンバーガーまずい」とか。

 だが、日本に帰ってくると無性にあれが食べたくなるって。


 俺も、あれを食っておけばよかった。

 もう体を壊して、大好きなラスベガスへ行く事も出来なくなっていた。


 お金はあっても、航空機での長距離での移動などに、もう体が耐えられなかったのだ。

 さすがに何千万円もかけてビジネスジェットをチャーターしてアメリカへ行けるような大金持ちではなかった。

 ファーストクラスがせいぜいだった。

 それに向こうでは、つい歩き回ってしまうので、あっという間に体がへたってしまうのは目に見えていたしな。


 そして、今俺の前に異世界の手巻き寿司がある。

 一つ残念なのは、これが美味いのは最初からわかっている事だろうか。

 だって、こいつは山本さんが一生懸命に作ってくれた物だからな。

 材料は俺のゴーレムが頑張って集めてきた奴だし。


 おチビ猫と二人で美味しくいただきました。

 俺がくるくると巻いてやると、御目目をくるくると動かして両手でキュッと掴んで、ぱっくりといっている。


「おいし~」


 見るからに、すっごく美味しそうに食べている。

 遠足オニギリに続いて、またもやカップケーキの牙城を崩しかねない伏兵が現れたようだ。

 豪く気に入ったようで何種類もパクパクいっていた。


 王家の人達も手巻き寿司に夢中だ。

 王妃様なんて納豆巻きなんかまでいっちゃっているし。

 さすがは現役の『冒険』者だな。


 ベガスの寿司屋で聞いたら、やっぱり納豆巻きの手巻き寿司とかを頼むのは、アメリカ人でも日系人くらいだとか。

 それでもアメリカは世界一日系人が多い国なので十分な量の注文はあるんだろうがな。

 ああ見えて、あの派手派手ネオンの街では九十九パーセントの客がアメリカ国内から来ているのだ。

 ハワイからの客も凄く多いので、その分の日系人客もいる。


 純日本人である俺だってそんな物は頼まないのに。

 何故、寿司で納豆を巻く!


 だが、おチビはチャレンジャーだった。

 狙いは王妃様が食べている納豆手巻き寿司だ。

 王妃様が、にっこりと笑って納豆を巻いてくれた。

 ヒヤヒヤして見ていたら、もりもりと食っていた。


「おいちい~」


 そうですか。

 レミは俺とは少し違う考えの持ち主だったようだ。


 最近は、この子もガツガツと御飯を食うようになったな。

 まあ昆虫よりは腐れ豆の方がいいのかもしれない。


 俺は別に納豆が食べられないわけじゃないけどね。

 子供の頃とかは、よく食ったよ。

 むしろ冒険者なんかには大いに勧めたい食べ物だ。


 昔、関東のJRAの騎手が落馬して、かなりの間意識不明の危険な状態だった。

 彼は、それなりにいい歳をした関東ジョッキーのリーダー格の人だった。

 若い人に比べたら、より危険な状態だったかもしれない。


 だが彼は見事に意識を取り戻した。

 彼は関東の人間の癖に納豆が大好きで、事故のあった日の朝も納豆を食べたそうだ。


「あの朝、納豆を食べていなかったら、もしかしたら俺は死んでいたかもしれない」


 そんな彼の言葉が今も耳に残る。

 異世界の冒険者にとっても馬は付き物なのだ。

 俺も冒険者なのだから他人事ではない。


 栄養価に関してなら、納豆はSランクの食い物かもしれない。

 でも、わざわざ手巻き寿司には巻きたくないんだが。


 と思っていたら、おチビが必死な手付きで手巻き寿司を作ってくれた。

 もちろん納豆巻きだ。

 なんか納豆がてんこ盛りで中身が零れ落ちそうな感じの凄い巻き方になっていたが、キラキラとした目でこっちを見つめている。


「ありがとうよ、レミ」


 ありがたくいただいておいた。

 なんというかこう、幸せの味だな。

 少なくとも、芋虫入りチョコよりはなあ。



 みんなが御腹一杯になる頃、「主神ロスの晩餐」の名を持つ街の空が茜色に染まっていった。

 そして遊園地では夜のイベントが始まった。

 ポツリ、またポツリと灯りが点いていく。


 淡いオレンジ色を基調とした照明に加え、遊園地の各施設にはイルミネーションの灯りが(とも)って、ふわ~っと広がっていく。


「わあ~」

「きれいー」

「ピカピカだあ」


 静謐に夜の帳が下りる頃、ケモミミ遊園は静かに輝きを増していった。

 異世界初となるナイトアトラクションの始まりだ。


 ここでキャラクター達の登場だった。

 エルフ、ドワーフ、ドラゴン、色々な獣人達、ブラウンゴブリン、キメラもいる。


 可愛い制服に身を包んだエルフさんは本物だ。

 ナイトパレードのプログラムなのだ。


 ステージ付きの大きなゴーレム馬車を先頭付近に置いた。

 各キャラクターが愛嬌のある踊りというか振り付けで行進する。


 子供達が走ってパレードを追いかけた。

 先頭にいるのは当然アルスだ。

 いつのまにか、親方と兄貴がドワーフ役で踊っていた。


 そのうち海賊王の演目も入れたいな。

 水の上を走る列車とか、船に乗って水上コースを回る奴もいい。

 あの人が主人公ならば、いっそ空中庭園の物語をアトラクション化するか。


 俺はやろうと思えば、あの伝説の空中庭園を再現してしまう事も可能なのだ。

 中身はどうなのか知らんのだが、外観はどこかの尖った感じの大きな岩山を切り取ってくれば、ほぼ出来上がりだ。


 一際美しいのは、エルフの芸術的な作品であるメリーゴーランドだ。

 元々素晴らしく色鮮やかな工芸品が、見事な照明やイルミネーションに彩られ、更なる高みに達している。


 そして極めつけは観覧車だ。

 そいつを見上げてボーっとしている人間がたくさん、そうまるで人形のように佇んでいた。

 皆、一種の恍惚とした表情で見つめている。

 生まれて初めて観る「イルミネーション観覧車」を。


 幻想的に聳え立ち、神秘的な輝きを次々に繰り出して回り続ける巨大な永遠の輪。

 いつしか、人々はふらふらとそれを目指してゆっくりと足を踏み出した。


 魅入られたように体を小刻みに左右に揺らしながら、やがて観覧車前に集結した。


 俺は用意していたものを点火した。

 そう、アドロスの街中に張り巡らせておいた「街灯」を点灯させたのだ。

 これがまた素晴らしい意匠の代物で、エルフとドワーフの技術の粋を注ぎ込んだ逸品中の逸品なのだ。


 なんていうか、鹿鳴館の時代をイメージした感じか。

 ガスと呼ばずに瓦斯燈なんて呼んでいた頃の。

 それでいて、自然に異世界風味を薫らせる秀逸なオリジナルデザインを採用してある。


 今回は数が多いので数タイプを丁寧に作ってもらい、後は俺のコピースキルで数量を揃えさせてもらった。

 無論、仕事に見合う代金はたんまりと支払った。


 それは美しい輝きの群れとなり、観覧車上の人になった彼らの心を鷲掴みにした。


 こちらから見られる王都の城壁全周にも照明は取り付けられており、観覧車のトップからは、そのシルエットが美しく飾られている事が観てとれる。


 その夜はアドロス中の人達が、春の呼び声を肌で感じながら街灯の光の中を楽しげに散歩した。

 そしてケモミミ遊園のイルミネーションによる夢春の宴を楽しんだのであった。


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― 新着の感想 ―
[気になる点] 関東人が納豆好きなのは当たり前だと思うが
[気になる点] 納豆苦手は西の方ではありませんか?
[気になる点] そして、【極めつけ】は観覧車だ。 ではなくて、【極め付き】ですね。
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