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41-1 楽しい雛祭り

 葵ちゃんの楽しそうな歌声が響く。

 御馴染みの雛祭りの歌だ。


 彼女も卒業式を終えて、何か心の区切りがついたかのようだ。

 昨日頑張って相互映像システムを萩原家のリビングに繋いでおいた。

 映像だけとはいえ、いつでも家族に会えるというのは、まだ未成年である彼女にとっては大きな事なんだろう。

 ある日突然家族と引き離されてしまったんだからな。 


 山本さんのところへも同じく繋げてみた。

 俺の家だけは他に誰もいないので、日本サイドで対応してくれる人がいないから無理だ~。

 仮に繋げられたとして、無人のリビングで一体どうしろというのか。

 まあ日本の自分の部屋が眺められるんだから、多少は気持ち的に……いや、どうなんだろうな??


「あ、園長先生。

 雛祭りの準備は進んでいますよ。

 山本さんも張り切っていましたしね」


 うん、御正月には園長先生の不手際で餅つきをやり損なってしまった。

 ここは気合を入れてやっていくシーンだな。

 王家にも派手に宣伝しておいたし。


 ちなみに、この雛祭りの歌は太平洋戦争前に発表された日本の童謡なのだが、これをメキシコ人のグループがカバーしたため、北米ではメキシコ音楽としてヒットしたとか。


 元祖クールジャパンかよ。

 現地でのタイトルからすると、孤児について歌っているっぽい。

 元は雛祭りの歌なのに、なんでなんだろうかね。


 うーん。

 この孤児院兼幼稚園という立ち位置の施設であるケモミミ幼稚園では、ちょっと微妙な内容だ。

 ま、まあ、ここでは、あくまで日本の雛祭りの歌なんだから細かい話はいいや。


 特に王宮ではハミル王女が、わくわくして雛祭りを待っているらしい。

 まあ、そういうのが一番楽しみな御年頃だよね。


 雛人形も少しリキを入れて作ってあるのだ。

 井上人形店の開店だ。


 これもそのうち、エルフさんのところでやらせよう。

 あそこの扱い品目も相当増えた。

 やってほしいと思って回した仕事は必ずスマートにこなし、それが更に洗練されていく。

 伊達に長生きはしていないというか、もうそれ以前の問題なのだが。


「山本さん、御菓子類の具合はどう?」

「やあ、それはもうバッチリですよ」


 彼も作った御菓子を並べてはアイテムボックスにしまっていく作業に追われていた。

 色々スキルで出してみて、納得がいかなければ実際にこしらえてみると。

 いつも彼がやっている作業ではあるのだけれど。


 よく見たら、足元でちょろちょろしているファルが、久しぶりにハムスターモードだった。

 そういや、これ山本さんと出会った頃にもやっていたよな。


 俺も失礼して雛あられをパクっと一口いただいた。

 うん、美味しいな。



 ケモミミ園においても雛壇が並んでいて、それに赤い布がかけられているのだが、男の子達がひっぺがしてマントのように背負って走っていこうとする。

 当然の事ながら、御雛様は床に散乱する羽目になっている。

 すかさず、カミラのドロップキックが綺麗に決まった。


「えんちょうせんせー。おとこのこたちがひどいのー」


 赤布を取り返し、もうぷりぷりである。


(みんな元気があって大変よろしい)


 異世界は怪人赤マントの出没する季節だ。

 ケモミミ園設立当初の、隅っこで蹲っていた子供達の姿は、もう過去の物だ。

 そのうちに創立一周年の企画もやらんといかんかな。


 あれ? いっけねえ。

 もう一周年丁度を過ぎたとこだわ~。



 俺のうっかりも含めて、あちこち平常運転のケモミミ園を後にして、エリのところへ行った。


「こんにちは。

 体の方の御加減はいかがですか?」


「御蔭様でなんとか大丈夫です。

 ありがとうございます」


 エリの母親であるリサさんと、たまにこういう会話をする。

 回復魔法も一通り強化してあるので、そうそうやたらな事はないと思うけれど、自分は医者ではないので気にかかったりする。


 久しぶりに鑑定してみたが特に病気はぶりかえしてはいなかった。

 大丈夫そうだ。


 狭い家なので、ここには小さめの御雛様が飾られている。

 この家には御雛様に対してテロを行なうような不粋な男の子はいないので、御雛様も平穏に過ごされているらしい。


 マリーが雛壇の前にピクニックシートを敷いて、その上に陣取っていた。

 ずっと飽きずに御雛様を見ているようだ。

 手には俺が作った着せ替え人形を持ってはいるのだが。


 人形の御洋服は御母さんが作ってくれるらしい。

 さすがは元御針子さんだ。 


 リサさんには、ミシンと色々な布地や服飾素材をアイテムボックスごと渡してある。

 御蔭で子供達も今では昔のように、御母さんの作ってくれた立派な服を着ている。


 マリーは時折、御飾りしてある御菓子を食べては、また座り込んでうっとりと御雛様を見つめている。


 エリが結構稼いでいるので、やろうと思えばいくらでも、もっといい家に住めるのだが、御父さんの思い出の詰まった家から出たくないらしい。


 そんな様子を窺いながら、俺は満足してアドロスの商業ギルド前の広場へ転移魔法で跳んだ。

 そこには、かなり大きめの雛壇が鎮座ましていた。


 俺のゴーレム達が、そこで人間サイズの雛人形を演じていた。

 綺麗に御化粧してあるので、彼らもかなり人間っぽい感じになっている。

 着物はエルフ新町謹製の品だ。

 今日もたくさんの人が見物に訪れている。


 巨大な雛壇の前には、拡大コピーで巨大化したタブレットが、御雛様画像や日本の人形店の広告、動画サイトに上がっていた御雛様動画などを映し出している。


 希望者には御雛様衣装を着せてもらえるサービスもある。

 アドロスの雛祭りが盛況なのに満足して、エルミアの孤児院にも出かける。



 うん、予想通り御雛様が大変な有様だった。

 そこへ神父様がやってきた。


「いやアルさん、申し訳ない。

 せっかく綺麗な御人形のセットをいただいたのに、こんな有様で」


 彼は、ちょっと疲れきった表情で謝ってきた。


「いやいや、神父様。

 こんなのは予想の範囲内の事ですよ。

 うちだって、それはもう豪い事になっていますから」


 トーヤも自分が分解するどころか、人形の修理屋として女の子達に扱き使われていた。

 いい機会なので、そういう事もやらせてみようと思って、敢えてあの子に任せてある。


 俺は首の飛んだ御雛様と手足をもがれた御内裏様を拾い上げてから、アイテムボックス修復で綺麗に直して並べてやった。


 それから順繰りに他の人形を修復して並べていった。

 若干雛人形達が、ブラックな職場に抗議するかのように俺を睨んでいるような気がしたけど。


 人型の物は魂が入りやすい。

 何しろ俺の魔力で作った物だからなあ。

 この世界だと、それはまったくもって洒落にならない。


 俺はそれを笑顔で受け流し、雛壇へ御菓子をたっぷりと御供えしてやった。

 来年、また引っ張り出した時に御雛様達の髪の毛とかが伸びていなけりゃいいんだが。


 御菓子は瞬く間に子供の群れに食い尽くされてしまった。

 御代わりを置いてやったが、いつまで保つものやら。

 そろそろ神父様にもアイテムボックスの供与を考えないといけないかもしれないな。

 あれなら空間魔法でアイテムボックスから直接転送出来るからな。


 お雛様の歌も、なろうの著作権に関する規定にひっかかってしまうんですね。

 歌の正式名の記述も微妙に容疑がかかるっぽいですし。

 歌だけは一発垢バンですからね~。

 いやあ、桑原桑原。

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