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38-3 先生のお話

 そして学園長先生に、そのまま高等部の子のところのクラスへ連れていかれて紹介された。


「皆さーん、喜んでくださーい。

 この春から、臨時魔法講師をやっていただける事になあった魔王様ですよー。

 現役の最高峰たるSSSランク冒険者様から、しーっかり学びましょうね~」


 学園長のハイテンションな紹介に、晴天の霹靂といった面持ちで顔を引き攣らせる生徒達がいた。


「きゃあー。魔王よ~」

「うお~。貴族殺しだ~、お助けー」


 おいおい、今からそんなんで大丈夫かい?

 俺はやるとなったら、とことんスパルタでいくからな?

 諸君らを立派な一人前の戦士に鍛え上げてみせよう。


 高等部は学年別に十クラスあって、それらを順繰りに回った。

 出来れば、日頃から相手をしなれているおチビさん達のいる初等部を受け持ちたかったのだが、まあいい。


 回っていく間にシルベスター王女の顔も見えた。

 ベルベット嬢や各々の侍女さん方も一緒だ。


 王女様方は笑って手を振ってくれていた。

 まあ、大体先の話がどうなるかわかっているのだろう。

 さすがだ。


 それから学園長はこんな事を言い出した。


「せっかく来ていただけましたので、学園中の子供に何か御話をしていただけませんか?」


 というわけで、急遽全校生徒が講堂へ集まって俺の話を聞く事になった。

 うーん、一体何を話せって言うんだろうなあ。


 とりあえず、ジュースと御菓子を出して全員に配った。

 まあ、みんなそれには喜んでいたが。

 特に初等部の子達は大喜びだった。


 この学園には、ちゃんと魔導マイクがあった。

 魔導スピーカーも完備されているし。

 これってハウリングも起きるのかな?

 あれは俺も思いっきり苦手なのだ。


「あー、諸君。

 今度臨時の魔法講師を務める事になったグランバーストだ。

 まず最初に魔法と言葉についての御話をさせていただこうかなと思う。

 特に稀人が残した言葉について、というテーマで簡単に」


 俺は、ちょっと御茶で喉を潤してから続けた。

 こういうのって本当は苦手なんだよね。


「言葉は大切なものだ。

 私もこの世界にやって来て、命を狙われたりとかの荒事も多かったので、舐められないように乱暴な言葉を使ってしまう事も多い。

 今こうして話している感じが、向こうの世界にいた頃は普通の言葉遣いかな?


 この世界には、過去の稀人が残した色々な言葉が残っている。

 例えば、この大陸の貴族王族は名前にフォンというミドルネームを入れている場合が多いが、あれもこの国の初代国王がその走りだ。

 元はおそらく稀人の国のどこか適当な物語から、それっぽい名前を引っ張りだしてきてとってつけたようなものだ。

 決して由緒正しいようなものではない。

 向こうの世界で実際に貴族が使ったりもしているが、こちらの世界のようにこればかりを使っている訳ではない。

 こんなに流行るとは本人も思っていなかったはずだ。

 そう思っていたら、もうちょっとくらい考えて違う名前にしていただろう。


 この世界の貴族王族名は、稀人世界から見たらやや不思議なものに見えるかもしれないな。

 それら稀人が残した言葉は英語という、このロス大陸で言えば大陸共通語のようになものに当たる物が多い。

 これを英語風にいうなら、初代国王の名もヤマト・オブ・アルバトロスとでもいうのだろうか。

 英語発祥の国である英国という国の王の名などに使われた形式のものだ」


 少し言葉を切って子供達の反応を見た。

 彼らが敬愛する初代国王についての話題なので、興味深く聞いてくれているようだ。


「例外はある。

 例えば、この国の国名だ。

 アルバトロスというのは、稀人の世界のアホウドリという鳥の英語名だが、アルはあのアルフォンス、主神ロスの肩に止まっている鷹の事を指している。

 それは、この私の名前でもある。

 それは私の本名の一部からとって、この世界の言葉に当て嵌めたものなのだ。


 アルバトロスという国名を稀人の国の人が聞いたら、あれ? と思うような内容になっている。

 これは初代国王が語感だけで国名を決めてしまったので、そうなっているのだと思う。 

 私は稀人の世界の人と情報のやり取りができるのでああはならないが、初代国王はそうでなかったので気が付かなかったのではないかと推察している。

 また当時の情勢は、細かい事など言っていられないような厳しい時代でもあった。

 あるいは他に何か謂れがあって、わざとそのように付けたのかもしれないが。


 アルフォンスというこの世界の主神ロスと共にある鷹を指す言葉と、異世界でいう闘いを意味する英語のバトル、そして主神ロス。

 これをくっつけて、アルバトロスという語感のいい言葉にした。

 それが当時国王と行動を共にした生き証人達の言葉だ」


 聞いている人達は感慨深く、自分達の国名の由来を聞いていた。

 どうやら王国史には書いてない事らしい。


「私や初代国王の住んでいた日本の国では、昔から英語が苦手だ。

 国中に英語は溢れているが、間違った物もたくさんある。

 また和製英語といって日本国内でしか通用しない言葉もある。

 それはもう完全な日本語であるといえる。

 例えば、さっき皆さんに配ったジュース。

 最近うちのアルフォンス商会で販売しているから御馴染みになってきているかもしれないが、ペットボトルという容器に入っている。


 これが、まさにそうだ。

 英語ではプラスチックボトルとか呼ばれている。

 ペットボトルは日本人である初代国王もそう呼んでいただろうから、そのままの名称を使用している。

 ペットという言葉は、そのボトルの素材であるPETという物から取られている」


 おチビさん達はペットボトルを顔の前に持ち上げて繁々と見ている。


「また、言葉の意味や用法が時代と共に変わっていってしまう場合もあり、昔の魔法の呪文が今の人には理解出来ないという事もあるだろう。

 諸君、魔法はイメージだ。

 型通りの呪文を詠唱していては、おそらく君達一人一人が最高の魔法を放つ事は出来ないだろう。

 自分の持っているイメージ通りに放てる呪文を考える課題も考えている。

 呪文はイメージを得るための補助的な役割を持っているだけだ。


 稀人なんかは、そういう事をあまり気にせずに自然体に魔法を使っているだろう。

 冒険者なども、魔物と戦っている間にそんな物を一々唱えていては命に関わるので、呪文を詠唱で唱えている奴など見た事がない」


 貴族も多い生徒達の中には、俺の話に少なからずショックを受けた者もいたようだ。

 魔法は貴族のような一部の人のためのものであり、広く一般に対するような教え方はしていないのか。


「ただし、複雑な魔法を行使する場合は詠唱も有効かなとは考えている。

 私は呪文の詠唱をする人がいるなんていう事を、この学園の仕事を引き受けて今さっき初めて知ったよ。

 ハイド王国の国王は氷雪の貴公子と呼ばれるような方だが、呪文どころか魔法名さえ唱えたりはしない。

 あの国は海の魔物と闘い続けてきた歴史がある。

 仕事自体が常に命がけだ。

 ぶつぶつ呪文を唱えている間に御陀仏になる愚は犯さない。


 諸君、言葉は大切なものだ。

 だが魔法における言葉や呪文は、あくまでイメージを喚起するため、集中するための補助的な役割を果たすためにある。

 呪文が魔法を引き出しているのではないという事だけは頭に入れておくように。


 だが呪文を唱えるのが決して悪いというわけではない。

 それは強いイメージを与えてくれるだろう。

 魔法使いは、いつも戦闘にばかり駆り出されるわけではない。

 例えば、土魔法を使える土木技師はひっぱりだこで高収入の職業だ。

 魔法を行使する際には魔力を相当消費するのだから、命のやり取りをするような緊急の場でさえなければ、魔力消費を抑えてくれる性質を持つ呪文詠唱はとても役に立つ。


 また治癒魔法士は少ない魔力消費で効果的な治療を行なうために、呪文詠唱が効果的であるとも言われている。

 魔力量には限界があるから、怪我人などが大勢いる場合などは非常に有効な手段となるだろう。

 そして、それらの資質は個人個人によって異なるだろう。

 そういった魔法を学ぶ方向性のようなものを見極めて、それを生かして自分の力を伸ばしていくように学んでもらえたらいいのではないかなと考えている。

 以上で、本日の私からの話はお終いだ」 


 生徒達は俺の話にかなり思うところがあったらしく、盛大に拍手をしてくれた。


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