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36-2 チョコレート狂想曲

 次にジェシカのところへ行ってみる。

 ファルの御神籤を置く事にしたので、平日はキャンセルも出て少しは繁忙さも改善したそうだ。


 大神殿とコラボ企画にして、トップクラスの商人達にもチョコをばらまこうというわけだ。

 当然、大神殿の精霊達にもチョコの御裾分けをする。


 そして驚いた。

 ミレーが大人の姿で顕現していた。

 今までは人を威圧するのを恐れ、子供の姿でいただけなのだという事らしい。

 なんとジョリーと同格というか、むしろ奴の先輩的な立場だそうだ。


 本来ならば、精霊の森の長と共にレインの傍務めをしていてもおかしくないような高位精霊なのだ。


「ジェシカ。

 誰かチョコをあげたい人とかはいないの?」


 ミレーはそう訊いたのだが、はにかんでミレーに向かってそっとチョコを差し出すジェシカだった。


 もう可愛いな。

 そんな思いで、俺とミレーは顔を見合わせて笑ってしまった。

 この子に、おかしなちょっかいをかける奴がいたら死んでもらおうと御互いに考えたらしい。

 精霊相手に、つい思考を同期させてしまったようだ。


 俺は目でこう語った。

「案外と黒いな、ミレー」


「いえいえ、あなた様ほどでは」という笑顔を返してくるミレー。


 他の精霊達にも大量のチョコと魔力を振舞ってやってから、再び王宮へ戻った。

 行先はエミリオ殿下のところだ。


「アルー、また何か楽しい事を始めたの~?」


「そうですよー。

 エミリオ殿下に主役を務めてもらいますからね!」


「えー、本当? 嬉しいなあ」


 その様子を見たルーバ爺さんも笑っていた。

 この人って昔は騎士団長だったらしい。

 なんと、あのオルストン事件でバイトン公爵家に突入しキルミスを捕縛した張本人だという。


 その時に御伴をしていたのが、今の騎士団長のケインズだ。

 奴も豪く爺さんに心酔していた。


 それが今はこの笑顔。

 なんかこう、ほっこりするムードだ。

 オルストン事件も今は昔の物語なのだ。


 おっとアントニオを忘れていたぜ。

 最近、あいつは子煩悩一直線で領地に引き籠っているからな。



 久しぶりのオルストン領へ向かった。

 前に比べると人の営みも華やかな気がする。

 なんていうか、あっちこっちで「御腹のおっきい」女の人を見かける。

 発展著しいオルストン領にベビーブーム到来なのかな。

 いい事だ。


「よおー、御久」

「どうしたい? 今日は」


 奴の足元には、もう勢いよくハイハイして親父の足で捕まり歩きしそうな勢いのレオンがいた。

 それを見下ろしながら本当に嬉しそうな様子のアントニオ。


 うーむ。

 この子って、まだ生後二か月も経っていないよな。

 その異常さに、初子を迎えたばかりのアントニオは気付いていないようだったが。

 今までは冒険者をやっていたので、そう赤ん坊なんかに気をやっていなかったから、これくらいが普通だと思っているんじゃないだろうか。


 もう何も言わんでおこう。

 絶対に気にしたら負けだ。

 というか、この俺がそれを成したであろう張本人なんだもの。

 あまりその話題に触れたくないの。


 あの時の苦しい思い出が喉元に込み上げてきたが、あっさりと飲み下す。

 こんな事は日本でもう慣れっこなのさ。


「ああ、ちょっとアルバトロス初代国王所縁のイベントをやろうと思ってな。

 熱々カップル募集中だ」


 そこへレオンが、いきなり魔道鎧を展開する。

 それを指一本で軽くじゃらしながらプランの説明をする。

 重力魔法でレオンをあやしながら。


 この子って、魔道鎧を発動中は風魔法なんて受け付けないからな。

 空中でくるくる回してやると、もう大はしゃぎだ。


 ひょいっと抱き上げてやると嬉しそうにむしゃぶりついてくるのに、ちょっとほっこりしながらアントニオに訊いてみる。


「どうだい、一緒に来ない?」


「そうだな、久しぶりに行ってみるか」

「楽しみですわね」


 あれから、無事に貴族社会へと復帰したオルストン家。

 アントニオも王族貴族のいる場所へ出る事に以前のような逡巡はない。

 転移魔法ですぐに領地へ帰ってこれるしな。


 復権を果たした王国の剣オルストン。

 そしてベルンシュタイン帝国の現皇帝を守るために滅びたパルミア家。


 若き皇帝より要請を受けて、「ベルンシュタイン帝国パルミア家の血筋の者に対するアルバトロス王国からの支援の要請」がアルバトロス王国において即時承認された。


 事ここに至ったのだ。

 それが磐石な平和への道だった。


 アルバトロス王国国王とベルンシュタイン帝国皇帝の名において、現オルストン伯爵家に対して、パルミア家がらみの中傷・揶揄は一切認められないという両国の宣誓が行われた。

 ついでに俺とファルも一枚噛ませてもらったので、両国関係者は誰も反対しなかった。


『神聖エリオンの名の下に』

 神の子の名において、「王国並びに帝国の恥」の幸せな結末は庇護される事となった。


 俺と帝国、そして現オルストン夫妻との因縁の絆は、最早吟遊詩人達が諸国で歌い継いでいた。

 仕込みは俺で、プロデュースは葵ちゃんだ。

 拡散希望は両国の国策として正式に認められた。


 そんな物語も背景の一つとしてベルギーデーは進められていった。


 帝国の話も出たついでに舎弟のところへも顔を出したが、なんと奴がいなかった。

 フランチェスカさんに聞いたら逃亡したとの事だ。

 なんだ、それは。


 そして、ついでという事で、いきなり皇帝捕獲の依頼を受けてしまった。

 一応は冒険者としての仕事だ。


 やれやれ。

 御互いに苦笑いで見詰め合う。

 この人も凄い美女なんだけどね。

 バレンタインデーにて見詰め合うには理由があんまりすぎる。


 ドランの奴にマーカーは付けっぱなしなので、そいつを頼りに転移魔法により追尾していったら、奴は海辺で蟹と戯れていた。

 海辺の村の子供達と一緒に。


 なんかその様子が俺の心に来てしまった。

 一国の皇帝ともあろう者が、あまりにも素朴で自然な状態なので。

 そして凄く嬉しそうにしていたので、なかなか声をかけられなかった。

 あいつめ、相当追い詰められていたとみえる。



 俺は一旦帝国へと舞い戻り、フランチェスカさんに「皇帝の年次有給休暇」を申請してやった。

 彼女は驚いたようだったが、俺が送ってやった映像に少なからずショックを受けたようだった。


「人間にはリフレッシュというものが必要なんだよ」


 そうフランチェスカさんに言っていて、なんだか血を吐きそうな気分だ。

 ああ、あの頃の俺。

 思いだすと、今でも胸が苦しい。


 人間、とことんまで体を壊すところまでいってしまうと、少々休んだくらいではどうにもならなくなってしまう。

 後は崩壊一直線だ。

 むしろ、その後に体は癒えても心の方がもっとヤバイのは経験済みだ。

 そして俺が仕事に出る事は二度となかった。

 この異世界へやってくるまではな。


「よお、皇帝陛下。

 チョコレートでも一緒にどうだい?」


 奴は、いきなり現れた俺に驚いたようだが、それを手にとって子供達に取り分けてやっていた。

 そして、初めてのチョコ体験に大はしゃぎするその子供達をみて、思うところも色々あったようだ。


 しばし子供達との何気ないような時間を過ごした後に奴は振りかえり、こう言った。


「帝都まで送ってくれないか。

 俺にはやらねばならん仕事がある」


 奴の短い年休は終わった。

 だが、心のリフレッシュには充分だったようだ。


 戻った奴を待っていたのは、鬼のような顔をした御姉さんではなく、笑顔でチョコを渡してくれる美しい女性だった。 



 本日のベルギーデー会場はアルバの王宮中庭だ。


 貴族や大商人・王族などを中心に、初代国王とその生まれ故郷の日本、そして「親日国」と呼ばれるベルギーの国を称えた。

 ベルギーチョコを食べながら。

 主にその賞賛はチョコに向かったのだが。


 日の丸及びトリコロールなベルギー国旗を掲げた会場で、アルバトロスの国旗も当然掲げられた。

 見も知らぬ異世界でこんな事になっているなんて、ベルギー国王もベルギー国民も夢にも思わないだろう。

 一応はネットにアップしておいてやったのだが。 


 そして本番は王都の街並みの中で行なわれた。

 そこは一番外側の第一外壁と第二外壁の間にある、三重ドーナツ構造となっている王都の一番外側にある一般国民ゾーンだ。


 俺とファル、それにエミリオ殿下とルーバ爺さんまで参加した。

 そして一口サイズで、いろんな味のあるチョコを国民に配って歩いたのだ。


 ルーバ爺さんが一声かけたので、王国騎士団も総出で配って回った。

 可愛いエミリオ殿下主催の催しでチョコが貰えて、国民達も幸せそうだ。


 ルーバ爺さんは今でも凄く尊敬を受けているらしい。

 その騎士からの崇拝はアルバトロス王国騎士からのみに留まらない。

 大陸中に名を馳せた騎士っぷりだったそうだ。


 だから騎士達もみんな張り切っていた。

 やるなあ、爺さん。 


 面白がって姫様達もついてきたので、更に騎士団連中が盛り上がった。


 ついでに精霊も召還してやった。

 こいつらは自分達も一緒になって食っていたのだが。

 石畳の上を、顕現した様々な精霊が闊歩しながらチョコを配った。


 大きな精霊が町並みを縫うように浮遊する様は、なんかNYで毎年やる、でっかい風船が街を練り歩くイベントみたいになってしまった。


 それを見て子供達が大喜びだった。

 大人達も、こんな風に顕現した大量の精霊を見るなど初めてなので、皆目を丸くしていた。


 そして貰ったチョコの味にまた目を見開いた。

 この世界には元々チョコなんて無い。

 ここは「もう一つの地球」みたいなものだから、どこかにカカオ豆くらいありそうなものだが。

 一般の人はチョコを口に出来るだけでも幸せなのだ。


 一方、ケモミミ園では手作りチョコを総出で作っていた。

 みんなで、きゃあきゃあ言いながら、チョコまみれになって作っていた。


 おっさん渾身の作である芸術的なチョコレートファウンテンの前で、レミが固まっていた。

 自分よりも背の高いガラス容器の中で、尽きぬ泉の如くに次々と溢れ返るチョコレートの大洪水に魂を奪われてしまったようだ。

 そっと優しくミミをもふってレミの魂を奪還し、現世に生還させてチョコを与えておいた。


 チョコレートファウンテンは王宮の中庭や街中にも置いて、これまた人気を博した。

 俺が急遽作成した、いろんなチョコレートの色や形をした鎧をつけた冒険者も各所に配置してみた。



 その一方で、ケモミミ園ではロシアンルーレット風のチョコ作りが流行りだしていた。

 本当に子供っていうのは碌な事をしないものだ。

 山葵入りや唐辛子入りのチョコによるテロが行なわれ、あちこちで被害報告がもたらされた。


 その内に取締りを逃れるために、いかにもな色合いをした真っ赤なチョコの隣に置いてある無事そうな奴が「当たり」とか。


 また、やられた奴が報復のチョコを作り出したりと、もうキリが無かった。


 誰だ!

 昆虫入りチョコを作って園長先生に食わせた奴。

 どうやら悪気は無かったようなのだが。

 単に「自分が好きなもの」を園長先生にも食べて欲しかっただけらしい~。


 この子達にとって、以前は虫などが命を繋いでくれた貴重な蛋白源だった。

 だから生き延びられた。

 きっと今でも忘れられない味なのだろう。


「高級ドラゴン料理に飽きたら虫でも食うか」は、結構定番だそうな。

 うーん。


 更にはレミが作ってくれた「芋虫チョコ」なる物!

 キラキラした目で嬉しそうに差し出すそれを、俺はとうとう拒む事ができなかった。

 この子の泣き顔なんか見たくない。


 その代わりに、この俺が泣く泣く食べましたとも。

 味の感想は訊くな!


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