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34-3 お見合いアイランド

 御見合いはブルーアイランドリゾートで開催された。

 無論、フライングパレスによる送迎から始まり、御見合いムードたっぷりだ。


 例の特殊空間の空港からスタートして、豪華な機内で優雅なティータイムを楽しんでもらった。

 そして機内食の軽食は和食で攻めた。


「この御料理って美味しいわねー。

 窓の外の眺めも最高だし」


 どうやら御姫様も和食を気に入ってくれたようだ。

 王子様の方は食べ慣れたいつもの味だし。


 それを聞いて、サロンの入り口で調理担当である山本さんもにっこりしている。

 俺も右手で「いいね」を作って返す。


 このフライングパレスは簡易なギャレーなどではなく、ちゃんと本式な厨房も備えているのが地球にある他の機体とは異なるところだ。

 もちろん、ただの厨房ではなくて山本さんの全開使用に耐えられる『本式』な奴をね。

 新婚旅行専用にセッティングした、内部スペースの四割を厨房に割いたという怪物美食機なのだ。


 さすがにフライングパレスといえども、これほどまでの美食専用機は地球にさえ一機もなかろう。

 そこまで食に拘る大富豪がいるとしたら、そいつは日本人くらいのもんだからな。

 日本人で金食い虫であるフライングパレスのオーナーになっているような奴は、さすがに一人もいない。


 あれはアラブの石油王のような、超ド級の大富豪御用達の代物だ。

 半端な金持ちが見栄を張ってあれを買おうとしても笑われて、バックオーダーを抱え捲るメーカーから相手にされないのではないか。

 維持費のかかりまくる金食い虫だしな。


 今回の面子は、葵支配人・俺・ファル・カルロス君、エミリオ殿下と護衛の子爵令嬢と侍女さんだ。

 向こうの面子は、シスコン太子エクードにナターシャ姫で、それに御見合い当事者である両者の御付きの侍女さんが各一名つく。


 カルロス君の護衛は当然のように俺だ。

 俺がセキュリティを統括する企画なので、本来の護衛役や王国騎士団などの御邪魔虫もついてきていない。

 もう王族の御見合いには、山本さんとエリなんかは当然の必須アイテムだ。


 そして見えてくるリゾートアイランド。

 白亜の城ならぬ、ビーチリゾートホテルも神々しい。


「すごおーーい。

 ここ最高のロケーションだね! アル」


 エミリオ殿下が大絶賛だ。

 そんな子供らしいノリに、ナターシャ姫も顔を綻ばせる。


 うん、さすが齢五歳でハイド国王夫妻のキューピッドになっただけの事はあるな。

 いい仕事してはる。

 ついでにもう一丁、不肖の実の兄も頼むわ。

 兄っつうか、もう殆どパパみたいな歳の差だけどな。

 日本でも普通に親子だわ。



 そして初顔合わせで、 いきなりナターシャ姫がやられてしまっていたのだ。

 ちょっと美化しすぎたからな「アレ」。

 すまん。

 これはちょっと詐欺かもしれん。


 初めに野暮ったい三十男と聞いていたので、実は見た目のノリほど乗り気でなかったようなのだが、現物が完璧王子様だったのだ!


 何せ、元から持っていた神々しさに加え、若さと美貌、それでもって威張り散らすところなど微塵もない穏やかな性格。

 その所作は、元々聖人に限りなく近いオーラを放っている。


 ついに中身に外面が追いついたのだ。

 単に再生して昔の肉体に戻しただけなんだけど。


 神聖エリオンたるファルの実態があれだから、神々しい王太子様とのギャップがより強烈だ。

 本日は比較のため、ファルを横に並べておきました。

 もちろんファルの口の周りはエリのケーキのせいでクリームだらけだ。

 今日は敢えてそれは拭かないである。


「やってくれたな、【魔王】!」


 そんなエクードの心の声が聞こえてきそうなくらい、ちょっとシスコン野郎の目付きが鋭い。

 俺は素晴らしい笑顔で、それに答えた。

 いや、それはもはやドヤ顔。

 それに対して苦笑いを返すしかない草原の太子。


 到着した島にて、俺はにっこりと笑って見合いでの定番の台詞を宣言する。


「では、後は若い御二人に任せて」


 そして、にこにこして二人を送り出してから、俺はエクードに対して向き直るとコロっと態度を変えてやった。


「おい、エクード。

 おまえ、いい加減にしろよ。

 王国同士で行っている見合いを王太子本人がぶち壊すつもりか。

 これだからシスコン野郎はっ!」


 俺はもうぶつぶつぶつと、そんなような事を呟いておく。


「そうだよ、シスコンで何か悪いか、この野郎。

 俺はなあ、絶対に妹を国の道具なんかにしたくなかったんだよ!

 国民もみんな同じ気持ちさ。

 だけどなあ、あれは、あれは反則だろう。

 なんで、あんな……あんな。

 妹が夢に描いていたような貴公子を持ってくるのだ。

 不意討ちだったから、むしろ妹の方が熱を上げている始末なんだからな」


 貴公子~~!!

 すまん、関係者よ!

 元の彼の姿を知っている俺は心の中で大失笑を堪え切れない。


 しょうがないな。

 召還、御仲間のシスコン王子!


「グホエーッ!?」


 椅子に座って優雅に御茶を飲んでいたのに、いきなり机の支えすら無しに空気椅子筋トレを実施する羽目になったミハエル殿下がティーカップ片手に奇天烈な声を上げた。

 これで無様に倒れてしまわないだけ、実にたいしたもんだ。


 そして、さっそく俺を見つけて睨む。

 最近、こいつも目付きが悪くなったな。

 まあ元から諜報担当のヤバイ方面の王子様なのだが。


「また、お前の仕業か~。

 転移させる時は前もって……」


 そしてすぐに、手を上げて同類に挨拶するエクードに気が付いた。


「ああ、事情は聞いているよ。

 僕もあなたと共に語らいたい気分だ。

 どうも貴公子は好きになれないな」


 絵に描いたような貴公子本人にそう言われてしまっては、さしもの『草原の黒狼』も苦笑を返す他はない。


「お前らなあ。

 この面子で足りないのなら、今すぐドワーフの大王達を呼んでもいいんだが」


「「呼ぶな!」」


「本当にこいつと来た日には」

「ええ、全くです」


 さすがシスコン王子同士、話が合うようだな。



 陽光照りつけるアイランドリゾートの浜辺で語らう、恋人ならぬ御見合いカップル。

 俺が用意した真っ赤なビキニに、今度は魔法使いの王太子がズコンっとやられてしまったようだ。

 ちょっと魔法使いには刺激が強かったかね。


 エクードの野郎ときた日には、俺に向かって抜刀しようかカルロス君にしようか、二十回ほど迷っていた。

 終いにはミハエルにポンと肩を叩かれて振り返り、「諦めろ」という無言のメッセージを表情から送られた。


 そこへ俺のゴーレム音楽隊演奏による「ウクレレ」の登場だ。

 更に、俺のビキニ姿ウイズパレオのフラダンスで南国ムードを盛り上げた?


 バックダンサーが同じく、真っ赤なビキニのドワーフ達(男)だ。

 そいつは草原の姫君には馬鹿受けだった。

 王太子殿下にも笑っていただけたし。


 そして苦虫を噛み潰すミハエルとエクード。

 ドワーフ達の到来から、この後の展開を容易に予想しているのだろう。


 そして、ついに召還されたハンニバル大王(ウイズ赤ビキニ)。

 女将さんも御揃いの水着を着ているので、その対比があまりに酷すぎた。


 親方は、はち切れそうな悩殺水着で何故かノリノリだった!

 生憎な事に、はち切れそうなのはビキニの布地の方だったけど。

 まあ、その演出は俺から頼んでおいたのだがなあ。


 ついにあの人が来ちゃったなっていう感じの二人だったのだが、安全保障の問題でこの人は避けて通れない。

 何しろなあ。

 帝国をはさんで、この両国を繋ぐ唯一の国がエルドア王国なのだから。


 なんというかな。

 一種の『同盟のための担保』といってもいい存在なのだ。

 それも、すべてこの滅多に人の言う事には耳を貸さないドワーフの大王あっての事。

 この俺が、それを一瞬にして召喚出来る荒業をやってみせたのだ。

 普通なら絶対に無いウルトラCのような物凄い話なのだが、それをやれてしまう俺がいるので仕方がない。


 このロス大陸の中心に在って、まるで自国が世界の礎であるかのようにその存在を力強く主張するエルドア王国を間にかますか外すかで、今回の同盟力は数倍変わってくるものなのだ。

 両者とも絶対にやらない訳にはいかない案件なのだからな。

 二人とも御通夜モードで覚悟を決めたようだ。


 一応、最低限の安全装置として、武士の情けでトーヤとエディを呼んでおいた。

 エディは大好きな女将さんに会えて、これまた大喜びだ。

 それを見て女将さんが嬉しそうに微笑むのを見て、親方もこれ以上ないような笑顔だ。

 惜しみなく晒した超ド級の筋肉達磨の赤ビキニ姿で。


 むろん、この俺も御揃いで赤ビキニのままなのだ。

 ここまでして体を張って御膳立てしてやったんだからなあ。

 本日の俺の相棒として指名したドワーフの大王込みで。


 後は頑張れよ、エクード。

 ついでにミハエルもなー。


 俺と親方は、御互い赤ビキニのまま、延々と飲み交わした。

 エルフさんのバーテンダーを召還して、カクテルの試し飲みの嵐が浜辺に吹き荒れた。

 ミハエルとエクードは諦めたような達観したような実にいい飲みっぷりだった。



 そして、なんと!

 あの朴念仁(おうたいし)め、姫と会ったその日に『魔法使いを卒業』したそうだ。

 いくらなんでも、さすがに王族を野放しにし過ぎじゃないかと思ったのだが。


 普通なら絶対にやっちゃならねえ狼藉だよな。

 結婚式前に御姫様の御腹を膨らませるような事にでもなったら一体どうするんだよ。

 つうか、まだ見合いだけで婚約すらしていないだろう~。


 本当にもう、緩いにもほどがあるぞ。

 まあいつもと違って御付きの連中が誰もいない秘密のリゾートの中なんで、二人とも弾けちまったのかもしれないが。


 二人で盛り上がり過ぎたようで、翌朝には二人とも寝不足気味の顔で、この上なく晴れやかな空気を纏っていた。


「あれ?

 公爵、まだ島にいらしたのですか?」


「あ、御兄ちゃん。まだいたの?」


 こ、この連中ときた日には、なんという言い草だろうか。


 みんな、やれやれという感じに頭を振った。

 ミハエルなどは、疾風のお株を兄貴に取られちまった有様だ。


 ミハエルの奴は激しい二日酔いを眷属として、今更ながらに青春大爆発中な兄王太子に対する呆れ顔を残像として残し、ブンっとハム音を残すかのように、そそくさと(二人分の)山積みの仕事が残っているアルバ王宮へと転移していった。


 いきなり寝込んでいないだけ、ミハエルもいい具合に根性がついてきたようだ。

 まあ大国の王子様も、今までの散々な体験から経験値は稼いできただろうからなあ。


 そして哀れ『御兄ちゃん』の方は、うちのゴーレムに送られて泣きながら家へ帰っていった。


 悪いが、俺は心の中で噴いた。

 噴きまくりだった。

 どうやらこのロス大陸に、新たな春の息吹が吹き荒れる事になりそうだ。


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