表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

216/1334

33-5 アスベータの夜明け

 俺は商業ギルドのギルマスに挨拶をして御土産も渡しておいた。

 この大陸と同じ形をした、ひよこ型の御饅頭だ。

 こっちの住人には、ちょっと受けたな。


 たまには白餡も悪くはないものだ。

 ぱさぱさするので御茶が欲しくなるけど。

 この大陸には良い御茶が揃っていた。

 もちろん、それだって色々な種類を買い込んだのだ。


 あと、ハイド王国の現地事務所を訪ねたら、皆さんもう帰るところだったので恐縮してしまった。


「どうせなら、どこかで御食事でも如何ですか」などと誘われたので、是非連れていってもらう話になった。


「ハイドも、このパルシアもいいところですね。

 色々と見させてもらったので、いい勉強になりましたよ」


 この、俺の猫撫で声を聞いて気持ち悪いという奴がいるが、日本では普通にこういう話し方だったよ?


 だってサラリーマンだったんだもの。

 今みたいにヤクザな口を利いていていい訳がないだろう。

 内心たる心の声は別だけどよ。

 それは日本にいた頃の方がもっと酷かった。


 あと、貿易の話とかを色々と聞かせてもらった。

 こっちは散々体験した武勇伝や催しの話を御披露した。

 こっちへ来る道中のクラーケン退治の話は馬鹿受けだった。

 彼らには礼を言って早々に退散した。


 明日は早いので、早い時間に寝てしまった。

 ファルはとっくに寝息を立てている。

 成長期に入ったせいか、最近はよく寝ている事が多い。

 いや? 昔から、こんなもんだったか。



 そして、早朝。

 ファルはまだ寝ているので、毛布に(くる)んで連れていく。

 この子にも見せたいのだ。

 いや、この子だからこそ!


 商業ギルドへ転移したら、建物の前でドクターが手を擦りながらもう待っていた。


「おはよう、ブランドー。

 早いな」


「ああ、本当に来てくれたのか」


 はーっと白い息を吐きかけて手を温めながら、彼はそんな事を言っている。

 もしかしたら俺が来ないかもと思っていたのかな?

 それでも彼は来た。

 そして来ただけの価値があったと必ず言わせてみせよう。


「じゃあ、行こうぜ」


 俺は彼の手を取って、ある場所へ転移した。

 そこは荒野の只中にある、まるで飛行場のような広い場所なのだ。

 ガラスの園ではない。

 あそこは一旦長高熱で溶けた大地がガラス状に固まって出来ていて平坦ではないので、こういう用途には向かない。


「うわっ。なんだ?」


「ははは。

 転移魔法だよ。

 好奇心旺盛な君に驚いてもらおうと思ってな」


 そこで出した物はジャンボジェット。

 超お金持ち仕様のプライベート機、フライングパレスだ。


 それを見た男は息を飲んだ。

 これこそ、彼が望んだ『空を飛ぶ乗物』であるのを理解したのだろう。

 鳥に近い形状をしているからな。

 もしかしたら、彼もこのような形の空飛ぶ機械を夢想していたのかもしれない。


「さあ、ブランドーよ。

 この星の丸さを見に行くぞ」


 俺に促されるがままにタラップを登り、ブランドーは夢見心地で飛行機に乗り込んだ。

 ファルも起こしてみたが、まだ寝ぼけている。


「くじらさん、おはよう」


 どうやら、この間の鯨魔物の夢を見ていたようだ。



 ゴーレム飛行士が垂直離陸で機体を発進させた。

 この星の夜明けに向かって。


 この魔導の飛行機は、地球の飛行機と違って離陸中も座席に縛り付けられている必要はない。

 豪華なサロンに設けられた大型の窓から、見る見るうちに遠くなっていく地表を見つめているブランドー。


 ふう、とばかりに溜めていた息を吐き、こちらを振り向いて彼は訊いた。


「これから、どうするんだい?」

「夜明けに向かって飛ぶのさ」


 高度はオゾン層の手前、二万メートルまで上げる。

 この世界の大気圏の構造は地球と変わらない。

 大陸の形は違っても、ここは次元を越えた場所にある、もう一つの地球とも言える場所だ。


 日本の旅行会社がロシアの戦闘機を使って成層圏を飛ぶ観光ツアーをやっているが、あれは高度一万八千メートルだ。

 二万メートルが空の一つの区切りだから、安全マージンを見ているのかもしれない。


 あまり上空を飛ぶと燃費が悪いし、戦闘機は民間機みたいに快適なわけじゃない。

 あるいは空気が薄い方が速度は早くなるので、却って燃費がいいのかもしれないがな。


 うちは限界いっぱいまで行く。

 やろうと思えばもっと上まで行けるが、今日はこんなもんでいいだろう。


 機体の気密は魔法で一気圧に保たれている。

 魔法ならではの快適さだ。


 ベスマギル製の機体は少々乱暴な使い方でも全く問題ない。

 ジュラルミン製の安物飛行機とは訳が違う。

 いずれ『恒星間宇宙船』に使用する予定の材質で作られているのだから。

 たとえ真空中であろうとも、乗員のために一気圧が保たれないといけないのだ。


 この高さならば、かなりの丸さを感じられるだろう。

 地平線までの距離は約五百三十キロメートルある。


 普通の旅客機が飛ぶ高度一万~一万二千メートルくらいの高度でも、地球の丸さはある程度は感じられる。


 俺達はコクピットに移動した。

 これから始まるショーを見るためにだ。

 世界の端っこがもう(ほの)かに明るくなってきている。


 夜明けの惑星にて光の金環が世界を弓型に覆う儀式が始まった。

 闇と光のコントラストが微妙な曲線を演出して、それを浮かび上がらせてくれた。

 このために夜明け前の搭乗を指定したのだ。


 夜明けの地域へ転移すれば二十四時間見られる景色なのだが、それでは余りにも味気ない。

 ちゃんとブランドーの地元で見られるようにしたのだ。

 ブランドー は、それをじっと見ていたが突然叫んだ。


「丸い!

 公爵! やっぱり世界は丸いぞ」


 やがて完全に夜は明けて、俺達は雲海の住人となった。

 飛行機に乗って窓から景色を見た事がある人ならば理解出来る、あの幻想的とも言える雲の上の空の風景が広がっている。


 あの場所から見える地球を、気持ちもう少しだけ丸くした感じの世界が広がった。

 この異世界の、後の世の人はこう言うかもしれない。


「世界は丸かった。byドクトル・ブランドー」と。


 彼は、いつまでもいつまでも、窓の外の景色に齧りついていた。

 そして突然に振り向いて言った。


「なあ公爵。

 ここは高い場所だから、こんな風に見えるんだろう?

 もっと高くなると、どう見えるんだい?」


 俺は黙って、PCの映像を見せてやった。

 以前精霊パイロットに撮らせておいた、この星の写真だ。

 高度五百キロメートルからの。

 精霊搭載魔導衛星のテスト飛行の際に撮影したものだ。


「これが、この世界をうんと高いところから見た衛星写真というものだ」


 その高さからだと、水平線地平線までの距離が、実に二千六百五十二キロメートルもある。

 それは最早誰がどう見ても丸いとしかいいようがないものだ。

 宇宙から、この世界を写した映像だった。

 

 黙って目を瞠るブランドー。

 じっとノートPCのディスプレーを見つめる彼は、今何を思うのだろうか。


 ネットで宇宙から見た地球の写真を検索して見せてやった。


「これは、俺の生まれた世界。

 地球(アース)という。

 アルバトロス王国初代国王も、ここから来た。

 これはさっきの写真よりも、もっと遠くから写したものだ。

 こんな風景をこの目で見てみたいのさ。

 陸と海の形は違うけど、この世界もこんな風なんだよ」


「地球か……実に綺麗なものだな」


 吸い付いたように目を離せずに、ただただその場に立ち尽くす男がいた。

 俺は前に作っておいた地球儀を取り出して見せた。


「そいつを模型にしたものが、これさ」


 そいつを指で軽く回しながら見せる。

 そして、この世界のMAPを転写して地球儀のように作ってみた。


「これが、この世界を丸い形をした模型の地図にしたものさ。

 ほら、ここがハイド王国、そして海を挟んで反対側にあるのがパルシア王国だ。

 こいつは、お前さんにやろう」


「これが俺達の世界……」


「俺達の国では、こういう星を惑星、プラネットと呼んでいる。

 一見すると、この世界の中で太陽が天空を動いているように見えるが、それは違う。

 このプラネットが恒星である我らが太陽の周囲を周っているのだ。

 そして月という衛星が、この惑星の周囲を回っているのだ。

 面白いもんだろう?


 月と太陽が丸いのはわかるよな。

 正しくは球体だ。

 そして、この惑星も」


「星、惑星、プラネット……恒星、衛星……」


「ブランドー。

 よかったら、また話をしよう。

 宇宙は広いぜ。

 衛星、惑星、恒星、小惑星、彗星、太陽系、星間物質、銀河系、そしてその集まりが宇宙さ。

 おまけに、この異世界みたいな次元宇宙なんていう物まで存在するんだからなあ」


 地球をアースアルファとするならば、この世界はさしずめアースベータと呼ぶべきだろうか?

 ちょっと呼びにくいな、語呂よくアスベータとしておくか。


 魔法世界アスベータ。

 惑星アスベータ。

 うん、悪くない響きだ。

 

 それから成層圏の余韻を引きずるようにして俺達はパルシア王国へと戻った。

 その間、彼ブランドーはずっと考えこんでいた。


「いや、ありがとう。

 世界は本当に丸かったんだな。

 この目で確認出来て本当によかった。

 ではグランバースト公爵、また会おう」


「ああ、楽しみにしているぜ」


 彼の表情は、なんともすっきりしたという感じだったが、今回の経験で彼の好奇心は更に刺激され、おそらくこれからも探求の道を歩み続けるのだろう。


 次に会う時は、一緒に宇宙にでも行ってみたいもんだ。


最初はアスベータではなく、SFでよく使用されるテラを用いたテラベータにしようと思っていたのですが、版権に煩い某デ〇ズニーさんがその名称を使用しているのを見つけたので止めにしました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
[一言] 燃費がどうこうより、ジェットエンジンは構造的に空気が無いと飛べないからではないかと。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ