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33-4 空を夢見た男

「おにいちゃん、すごーい」


 チビ御姫様は大喜びだ。

 魔王対クラーケンのバトルショー。

 まあ、滅多には見られない興行だよね。

 船上アクティビティとしては、まあまあの内容だったかな。


 なんというか、コブラ対マングース的な感じか。

 あれ、比較的地元にあったヘビセンターの施設でやっていたんだけど一度も見なかったな。

 なんかこう秘宝館みたいに胡散臭くてよ。

 もうとっくに興行どころか、転業した施設そのものが廃業し無くなったくらい寂れてしまったんで、一回くらい見ておけばよかったか。

 更地にされて駐車場になった上、その後も特に利用されなくてそのまんまになってたわ。

 

 それから御部屋で色々と遊び道具を出して遊んだ。

 トランプ、すごろく、リバーシ。

 特に、揺れる船上での積み木崩しはスリル満点だ。

 まあ、殆ど揺れない船なのだが。

 得意の大道芸(インチキ)も御披露した。


 クラーケンとの遭遇で遅れた分は、障害物なんかの危険が少ないゾーンで少しスピードアップして取り戻したとは船長の談だ。



 船は翌日に何事もなくメルス大陸へと到着した。

 俺は船が港からの出入りする風景は大好きなので、日本にいる時も必ずデッキから見ていた。

 本日も、もちろん被り付きで!

 御子様達とおやつしながら、その光景を楽にされて駐車場にしんでいた。


 船を下りる時は豪快なハイド人船長としっかり握手してから、俺とファルは再び陸の住人となった。


 港は活気があって、たくさんの帆船が並んでいた。

 日本では見られない、中々壮観な眺めだ。

 帆船マニアが見たら絶対に涎を垂らしまくりだろう。


 船舶関係のサイトに写真をアップしたら、興奮しまくった外人からの書き込みが多数あった。

 おそらく地球で使われていたその手の船とは多少構造が違うのではないだろうか。

 だが十分に大航海時代にしかなかったような趣はある。


 これらの殆どはハイドの船で、船乗り達も一見荒くれ者にしか見えないが、実は善良な者ばかりだ。

 漁師さん達と一緒だな。


 うん。

 これなら新しい国との貿易はなかなかいけるかもしれない。

 色々といい視察になった。


 ひよこ大陸の入り口の国はパルシア王国といった。

 大陸最北端のこの国の上端は北海道を越え、樺太の先くらいの緯度だが、なんとこの国でも米が作られている。


 食い物は美味いと評判の国なので、ここは食い倒れるしかあるまい。

 ハイドの船乗りの間でも、それは大評判なのだ。

 へたをすると、それが故にハイド・パルシア間の航路が発達したなどという眉唾物の逸話さえ(まこと)しやかに語られているほどなのだ。


 港はひよこ大陸の嘴の下の辺りにある。

 日本で言えば津軽海峡より少し下の緯度だから、このあたりの海は冬でもまだ凍らない位置にある。


 パルシア中央港は中々に立派な港だ。

 埠頭に大型の帆船が犇めき合い、人々がひっきりなしに行きかう。

 運ばれる荷物は、果物・香辛料・ドワーフの工芸品や装飾品、アルバトロスの魔道具にザイードの酪農畜産品、サイラスの農産物など様々だ。


 この世界には、収納の魔道具や状態固定などの魔法があるので、新鮮な食物なども陸上長距離輸送や長期の海上輸送に耐えられる。

 昔の日本みたいに、山奥では海の魚は鮫くらいしか食べられないという事はない。


 もっと色々と回ってみたいのだが、幼稚園の卒園式や小学校開校準備もある。

 今回は向こうの商業ギルドに挨拶して、おみやげをたっぷりと仕込んで、現地のハイド事務所やらなにやらを回って早めに帰る事にした。

 次回は転移魔法で来られるしな。


 MAPを見ながら商業ギルドを探していく。

 道中は物見遊山だ。

 ファルがあっちこっちの屋台や露天を覗いていく。


 最近、この謎生物は何故か御飯も普通に食べている。

 魔力の消費量も右肩上がりだ。

 完全に成長期に入ったとみえる。


 ここハイド王国は海の幸が豊富で、醤油系も含めて調味料も豊富だ。

 匂いがもう堪らない。

 俺も色々と食い物を買い漁る。


 子供達だけでなく山本さんやエリに渡す心づもりもあって。

 味の再現というか、更なる発展を目指して。


 特に和風食材が豊富なメルス大陸国家から山本さんへのフィードバックに期待がかかる。

 更に、それをメルスへ再輸出すればウインウインの不動の関係を築く事さえ夢ではない。

 旅するレシピのキャッチボールは、この世界の人々の胃袋に対して一体どんな夢を見せてくれる事だろうか。


 ここは雑多な港町の風景そのままだ。

 これもまたよし。

 なんていうか、石材も自然のまま生かすような素朴さがある。

 それでいて単に原始的っていうわけでもないし、それなりの調和がある。


 わざとそのような趣にしたタイプの日本庭園の、西洋版みたいな感じであろうか。

 いいねえ、実にいいねえ。



 かなり道草を食って商業ギルドに辿り着いた頃には、もう夕暮れだった。

 そして『猫の算盤塾』で騒いでいる奴が一人いた。


「クラーケンの素材がどうしても欲しいんだ!」


「おいおい、ここは冒険者ギルドじゃないぞ。

 来るところを間違えているんじゃないか?」


 辟易した商業ギルドの職員が、お手上げ状態で対応している。


「冒険者ギルドは、もう回ってきた。

 後はこちらへ入るしかないはずなんだ。

 あれを入手した船はここへ入港しているんだ。

 その船の船長に直接聞いてきたから間違いない」


「そんな事を言ったって、無い物は無いんだ」


 そんな押し問答をしている。

 何か職人風の格好をした三十代くらいの男が、声を張り上げて職員と揉めているようだった。


 悪いな、こいつの素材は売るつもりは無いんだ。


「すいません。

 ギルドマスターは、おられますか」


 遠巻きにして見ていた職員さんを一人捕まえて、取次ぎを御願いした。


「は、はあ、ちょっとお待ちを。

 えーと、お名前は」


「アルバトロスのグランバースト公爵です。

 ここにハイドのシド国王からの『あんたがグランバーストか~』


 おい!

 人の話に台詞を被せるんじゃない。

 自分の台詞の鍵括弧を閉じられなかったじゃないか。


「クラーケンの素材を売っ『断る』


 ふふ、速攻でやり返してやったぜ。


「何故だ!」


「自分で使うからに決まっているじゃないか。

 お前も欲しかったら自分で狩ってこい。

 それが、この世界の厳しい掟だ」


 言い切ってやった。

 ああ見えてクラーケンは結構美味いのだ。

 あれから船上でクラーケンを炙って戦勝(大漁?)パーティにしてみた。

 風魔法で風を遮り寒くないようにして開いたデッキパーティは大盛況だった。

 熱燗にした日本酒は皆に好評だったな。


「そんな事を言わずに頼む。

 アレの魔核が欲しいんだ」


「お前……あれが相場で幾らすると思っているのよ」


 どう見ても、こいつには払えそうもない。

 それはもう値が張るので、国家くらいでないと払えないような金額なのだ。


 クラーケンは多分SSランクに相当する。

 この太陽でも最強の存在だろうから下手をするとSSSランクだろう。

 あれが地に潜っている奴なら俺でも苦戦しそうだが、水から上がったタコなど何も怖くはない。


 浅瀬で上から丸見えの潜水艦を衛星で捉えて大まかな位置を推測し、一昔前の対潜哨戒機からミサイルに搭載した誘導魚雷を長距離から投下して沈めるくらい容易な作業だ。


 後は身動き出来ない海水に濡れそぼった奴を、大出力の原子力発電所並みの電力を用いて感電死させる、実に簡単な御仕事なのだ。


 多分、今の俺が放つ一発のゴッドサンダーレインが、最初にキメラへ食らわせたしょぼい奴の百万倍は威力がある。

 それをくたばるまで、ぶちこんで、ぶちこんで、ぶちこみまくるだけだ。

 もしかしたら普通の冒険者にクラーケンは、ちと討伐が難しい相手なのかもしれない。


 俺の場合は魔力が余りまくっているから全く問題はない。

 運よく出会えたらカモも同然さ。

 あのバランと比べたらどうっていう事もない相手だろう。

 そして御目当てはそいつの巨大魔核だ。


 さすがランクが高くて図体のでかい生き物だけあって、なかなかくたばらなかったが。

 火で炙ったりしたら食材としての素材が台無しだし、風魔法で切ってもなかなか骨がおれる。

 それにあまり強力な魔法を使うと、素材、殊に貴重品の大型魔核が損傷してしまう。


 超大型クラーケンの魔核なんて、それはもう滅多な事では手に入らない。

 あったとしても、どこかの王家が欲しがるのがオチだ。


 魔核はAランク以上の超強力な魔物が持っている。

 それ自体が一つの命といってもいい。

 普通の魔物が体内に持っているのは只の魔石だ。


 がっくりしている奴に、一応は欲しがる理由を聞いてみる。

 なんていうか、マーケットリサーチ?


「なんでそんな物が欲しいんだ?

 見たところ、あんたは職人っぽい感じだけど、そんな人間が普通あんな物を使わないだろう。

 使うとしたら俺くらいのもんだ」


「空を飛びたい。

 高い、高い、空を」


 俺はその言葉に驚いた。

 この魔核は、俺もまさにその用途に使おうと思っていたのだ。


 俺は『宇宙船』を作ろうと思っていた。

 前に作った衛星よりも、この星から離れた場所へ行ける奴を。

 安全に飛び、ちゃんと大宇宙から帰って来られる奴が欲しかった。


 日本にいたら絶対に見られないだろう、アストロノーツの夢を叶えるために。

 子供の頃はそんな事ばかり考えていた。

 だが、実際の宇宙飛行士への道は厳しいだけのものだった。


 スペースシャトルは3Gくらいにに耐えられればよかったはずだが、昔の訓練は凄まじい。

 7Gくらいに耐えられないと駄目じゃなかったか?


 普通の人が行ける世界じゃなかった。

 一般の軍人、あるいは民間人といえども、国家から命令を受けて宇宙事業に従事する最高の軍人さえ音を上げるような厳しい訓練をクリヤしないといけないのだ。


 宇宙飛行士なんて、SF被れを拗らせた只の子供の夢に過ぎなかった。

 本好きなんていう人種には、そんな厳しい訓練に耐えられるような、その種の人間なんてどこにもいなかったのだ。


 夢を見ていたのが、スペースシャトルなんていうものが、まだ影も形もない時代だった。

 日本は、まだカッパロケットの時代だ。

 子供だったから、カッパというのがギリシャ文字のKだったなんて知らなかった。

 正確にはカッパーっていうのかな。

 てっきり、あの河童さんから取ったのだとばかり思っていたよ。


 今は亡き糸川博士がまだ現役で、日本宇宙少年達の憧れの人だった時代だ。


 昔、真夜中に家族で最初のスペースシャトルの打ち上げの中継を見ていたっけな。

 何回も打ち上げを延期して、夜中になんとか中継を見る事が出来た。

 今はもう、華々しく活躍していたそいつさえも引退してしまった。


 前に宇宙船のコントロールシステム兼動力システムをドラゴンの魔核で試作してみたが、なんとなくパワー不足な気がして御倉入りにしていた物を、偶然手にした大型魔核で仕切り直そうと思ったのだ。


「なあ、あんた。何故、空を飛びたいんだ?」


「この世界は……丸い。

 俺は高い場所から見たりすると、水平線とかが丸くなっているのに気が付いた。

 笑いたければ笑えよ。

 でもな、ちゃんと測っていくと、どうしても世界は丸くなっちまうんだ!」


 なんてこった。

 この世界なんていう物よりも、俺の目の方が丸くなっちまった。

 剣と魔法が物を言う異世界で、よもやそんな事言い出す奴がいるなんて。


 いや、世界は広い。

 面白いな。

 この大陸へ来てよかった。


「お前。

 明日、この俺に付き合えよ。

 面白い物を見せてやろう。

 きっと気に入るぞ。

 少なくともこの広い世界で、お前ただ一人だけはな。

 早朝、夜明け前にここへ来い」


「なんなんだよ、あんたは。

 またいきなりだな。

 ま、まあいい。

 付き合ってやってもいいぜ。

 俺は知的好奇心が旺盛な男なんだ」


 はは。

 お前さんは科学者だよ。

 うん、異世界の科学者だ。


「いいな、必ず夜明け前に来いよ。

 あんたの名前は?」


「ブランドー」


 よし、ドクトル・ブランドー。

 また明日な。


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