32-6 スリーピングビューティ
俺は外へ出ると、世話になった精霊の頭を撫でて魔力をやり礼を言った。
「いやあ、お前の御蔭で助かったぜ。
じゃあな」
そいつに褒章として御菓子を袋ごと与え、俺はケモミミ園へと急ぎ転移した。
「真理っ!」
「あ、園長先生!
もう駄目だあ。
予定よりも崩壊速度が滅茶苦茶に早い。
繭がもう持たないよ」
アルスが慌てたような声で言った。
グスタフは蒼白な顔で、既に精霊の鎧を展開していた。
マジか!
俺は慌ててエリクサーを数本取り出してアルスとグスタフへ放り投げ、魔法の繭を開くと手分けして両手に持ったエリクサーを真理の全身にたっぷりと振りかけた。
この奇跡の霊薬なんていう超貴重な物を放り投げたらバチが当たりそうだが、そんな事は言っていられないのでな。
真理が消えてしまうか助かるかの瀬戸際なんだから。
どうせエリクサーなんて元本以外はコピー品なんだし、原料自体も概ねコピー品なのだ。
それよりも使い方がこれで合っているかな。
そいつも女王様に聞いてくればよかったぜ!
だが、ちゃんと効果はあったようだ。
真理は人間ではない魔法の塊なので飲ませるよりもこっちの方がいいかなと思っていたが、ビンゴ!
いかにも不安定そうに時折姿がぶれ初めていた真理の姿は、すぐに安定を取り戻し目を覚ました。
「おはよう」
そこにはまるで、今日の修羅場のような出来事などは、単なる日々の日常風景に過ぎないとでもいうように軽やかに笑う副園長さんがいた。
「おはよう、眠り姫さん」
俺も安堵の表情で笑顔を返した。
「ありがとう、アルス。
グスタフも悪かったな」
こいつら、本当に頼りになるぜ。
やっぱり仲間っていうのはいいもんだ。
「なあに、これくらいどうって事ないよ~」
相変わらずの軽さでウインクしてくれるアルス。
「ふう~。
ど、どうなるかと思ったぞ。
よかった、本当によかった」
グスタフはそう言いながら、祝福の鎧を解除してから両膝を床に着いて汗を拭った。
それから思いっきり息を肺から吐き出すグスタフ。
俺は改めて真理を鑑定してみた。
『魔導ホムンクルス。
整備状態良好。
耐久限界未定。
要定期メンテナンス』
うん、とりあえず大丈夫そうだな。
だが正規のメンテの方法がわからない。
「真理。とりあえず、これを」
俺は真理のアイテムボックスに、増やしまくった一千万本ほどの虹色に輝くエリクサーを転送して突っ込んでおいた。
「こ、こんなには要らないのじゃないかしら……」
うーん、という顔の真理。
これがどんな代物なのか、錬金魔王の助手を務めていた彼女には分かりすぎるほどわかっているのだが、本人ももう今更といった顔だ。
「先に何があるかわからん。
一応それだけ持っておいてくれ」
今回みたいな事は二度とゴメンだ。
俺はよく出かけている事もあるんだし。
「じゃ、俺は王様とかへ御礼がてらに報告してくるんで。
これのレシピは王様からいただいたんでな」
「うん、いってらっしゃい。
本当にありがとう。
みんなもね」
アルスとグスタフの他に、ケモミミ園のみんなも部屋を覗き込んでいた。
「まりちゃあん」
「ふくえんちょうせんせいー」
「よかったよおー」
子供達が真理にむしゃぶりついていったのを見ながら俺は王宮へ跳んだ。
俺はすぐに王宮に赴き、陛下に面会を申し入れて説明した。
そしてエリクサーの見本を渡した。
「これが伝説のエリクサーか。
むう、その凄さが見ただけでわかるほど凄いものじゃな」
陛下は虹色に輝く液体の入った瓶を手にして考え込み、警護の兵士に申し付けた。
「ミハエルを呼べ」
呼びつけられた第二王子は、それと俺の顔を交互に見比べてから、呟きのように洩らした。
「信じられん。
伝説のエリクサーを本当に作っちまったのか……」
「宝物殿のエリクサーの部屋へ保管するように」
陛下は即断であった。
やはり封印案件の代物だったか。
まあ、うちは使わせてもらうけどな。
そもそも、こいつは真理用に作った物なのだから。
俺も一緒に行き、十本ほど並べて一緒に材料も展示した。
触媒用のベスマギル以外は。
これについては、オリハルコンの上位魔法金属とだけ記しておいた。
ミハエルも、それについては敢えて追及しない構えのようだった。
まあ御神籤の件があったので、敏腕なミハエルにはこいつに関しても自由に作れることはバレちまってるんだろうが、俺もこの国の血族公爵扱いなので大目に見てくれているのだろう。
エリクサーとその材料には、御山の爺竜直伝の超強力な状態保存の付与がなされている。
製法は合っているが、おそらく調合は難しいだろう。
何かあったら、ここから出して在庫を使ってもらうとしよう。
俺が生きている間は俺が提供する。
真理には大量に預けてあるから、俺の死後はそれを使ってもらってもいいしな。
今回はスキルによって「合成」したので、正式な調合法に関しては不明とだけ記した。
俺の署名入りで、レシピへ新たに補足の説明も入れて、そこは再び開かずの間となった。
次に冒険者ギルドへ行き礼を言った後、レッグさんと一緒にエリクサーの詳細な記録を作成して、材料のサンプルと詳しい資料もギルドに渡しておいた。
「いやあ、あの伝説の代物を本当に作れてしまったとは。
まあ、あなたのやる事ですしね。
今更ですか」
レッグさんは、いつもの笑顔で真っ白な歯を見せた。
御山のバルドスのところへも顔を出した。
彼は俺の笑顔を見ただけで、すべてを察してくれた。
「そうか。
なんとか出来たか」
孫に見せる以外でこんな嬉しそうな顔が出来たのかというような笑顔が皺だらけの好々爺の面にはちきれた。
俺はエリクサーをバルドスにも幾らか渡しておいた。
この先何かあっても、彼ならばきっと善きように用いてくれるだろうから。
そして彼は真理のために用意していてくれていた健康祈願と家内安全の御守りを渡してくれた。
ケモミミ園に帰ったら、真理は大勢の子供達に取り囲まれて嬉しそうにしていた。
膝を着いて子供達の頭を優しく撫でるその姿は、まさに母親そのものだ。
いやあ、本当によかったぜ。
異世界で真理の御仏壇を作る羽目になんかならなくてよ。




