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32-4 人並レベルの力押し

 幾つかの異空間に関する記録を見繕って、その中でも詳しい記述があるものを選んだ。


「そこは深い霧に包まれた山奥の場所だった。

 我々はある魔物を追ってやってきたのだが、どこか妙な何かいつもと違うような感じがした。

 どこまで歩いても、その違和感は消えない。

 もう魔物の気配すら感じない。


 遠くに薄桃色の葉をつけた木が茂っているのが見えた。

 興味を引かれ、そこへ近づいてみようとしたが何か良くない感じがして止めた。

 それはメンバー全員が等しく、そして強く感じ取ったものだ。

 俺達は薄気味悪くなって引き返したが、いつまで経ってもその場所から抜け出せない。


 やがて水が尽き、食い物も尽きた。

 俺達は必死に出口を探し、小便を飲み、革鎧を食って生き延びた。


 川の音がする。

 水、水だ!

 俺達は走り寄って川の中へ飛び込んだ。

 そして振り返ったら、そこにはなんという事はないような、ただの平凡な森が広がっていた。


 後になって、あの薄桃色の葉が精霊樹の葉と呼ばれるものなのかもしれないと知り愕然とした。

 それが本当なのだとしたら、その値打ちは計り知れないものだろう。

 しかし、パーティメンバー全員が確信していた。

 もしあの時、あの葉を取りに行っていたら、俺達全員があの場で墓に埋まる事になっていただろうと」


 レッグさんは関係資料を整理しながら説明してくれる。


「その後、欲に駆られた人々がその場所を求めて雲霞の如く群がったが、その場所は二度と発見されることは無かった、と」


「その場所はわかりますか?」


「ええ、この国の北西方向、帝国側寄りですね。

 大体の場所しかわかりませんが地図をお出ししましょう」


 俺は、その地図をコピーさせてもらった。

 園に戻ってまた真理の様子を伺い、アルスに後を任せて王宮へ向かった。


「……というわけで、 その場所に関する情報が何か無かったかな」


 ミハエル殿下は、手元の書類を持ち上げると読み上げた。


「丁度、その情報が上がってきたところだ。

 お前が言った記述以外にも遭遇したパーティはあってな。

 その葉っぱを木から毟った者がいたが、突如魔物に襲われてその冒険者パーティは一瞬にして全滅したと。

 臆病者で隠れていた荷運び人夫一人だけが生きて帰ってきたが、誰もそいつの話を信じてくれなかったという」


「ふうん。ギルドにはなかったな、その話」


「パーティは全滅したからな。

 報告する人間はいない。

 というか、冒険者ギルドすらまだなかった時代だろう。

 たまたま当時のその界隈の代官が耳にして、何気に書き留めた記録なのだ。

 これも今のアルバトロス王国成立以前の古い古い記録だ。

 そのパーティは、今でいうところのAランクパーティだった」


 ギルドの記録でも不穏な空気は確かにあったな。

 俺は目をぎらぎらさせて、その場所を思い浮かべる。


 千里眼発動。

 これは俺が自力で発動出来る唯一のESPだ。

 最後に使ったのって、いつの事だっけ。

 あれはまだ若い、好奇心に溢れる若者の時代だった。


 まだインターネットもなかった頃に、「まだ行った事のない比較的近場の場所」に関して千里眼を使っては、直接その場所へ出かけて確認するという遊びをしていた。


 俺が千里眼で見た物を書いたラフスケッチそのものの光景を実際に目にする度、千里眼という能力に驚愕したものだった。

 それはセブンスセンスで知り得た情報が現実になるのと似たような感覚であった。


 歳を食ったらそんな事に興味なんか湧かないからな。

 最近じゃ真理に説明するために使ってみた事があっただけだ。

 あれだけで真理は千里眼を覚えちまったようだが。


 本当にあいつは人間臭い奴だな。

『人間独特のスキルであるESP』まで覚えちまうなんて。

 いやESPなんて動物だって使えると思うが。


 そういやテレパシーなんて植物だって使っているよな。

 連中って自力で移動出来ないから動物よりもESPの能力は高いのかもしれない。

 特にテレパシーの能力は強いようだし。

 自分の種子入りの果実を食わせるためにテレパシーで動物へ呼びかけるとかしているかもしれない。


 しょせん、俺のESPは人並レベル。

 その存在を、幾多の実験成果により明確に確実に意識しているかどうかだけが、普通の人との只一つの違いだ。


 集中した頭の中に、夢で見たようなぼんやりとした風景が思い浮かぶ。

 モノクロだが、特徴的なシルエットのような、そんなようなものが浮かぶのだ。

 他の人の場合はどうなのかまでは知らない。


『千里眼能力者』と呼ばれるような能力の強い人には、はっきりと対象が視えるものなのかもしれない。 


 まあ俺は普通人なので、この程度の力しかない。

 死ぬほど精進したところで多分無駄だろうし、自分にとってはこれで十分なのだ。


 千里眼で視たイメージは山。

 しかも独特の形をした山。

 こいつは三連山か。


 俺は急ぎそれらを手帳に書き留めた。

 山の形、木々の形、特徴的な岩。

 昔ながらのボヤっとしたモノクロの映像の中で、際立った特徴だけを掴んだイメージだ。


 そして、これはなんだ?

 黒いような、何か大きなもの。

 これは穴? それとも亀裂? 何かの染み?


 多分、現地へ行けば俺にはわかるだろう。

 並みの人間の持つ千里眼とは、所詮はその程度の能力なのだ。


 もっと視ようと思ったが、よく視えない。

 残念だが、今までの経験上俺の能力ではここまでだな。

 後は現地へ行ってみるしかない。


 俺の雰囲気を慮って、一言も発さずに見守るミハエル殿下達。

 そして俺は大きく息を吐いて彼に告げた。


「多分、場所は特定出来たと思う。

 行ってくる。

 ありがとう」


 ここまでは誰にでも出来るレベルのESP。

 俺が力押し(チート)するのは、『ここから』なのだ。


「ああ、頑張れよ。家族のためだ」


 俺は黙って頷き、ミハエルの部屋から消えた。



 それからケモミミ園へと戻り、アルスに訊いた。


「アルス、真理の具合はどうだ?」


「う、うーん。

 何か、こうよくないね。

 何て言ったらいいのかよくわからないんだけれども……凄く不安定な感じというか」


 ああ、それは俺にもわかるな。

 これは体を構成している魔法がバラバラになりそうな、そんな感じ。


 これは思ったよりも持たない。

 一週間は、完全に消えてしまうまでの時間なのだ。

 少しずつバラバラになっていくんだ。

 流氷の天使クリオネの体が、死ぬ時に少しずつ溶けていくように。


 俺はこんな時のために作っておいたものを取り出した。

 それは『魔法の繭』というものだった。

 こいつはアントニオの跡継ぎであるレオンの時に使った物を自動制御にした魔法だ。

 それで休眠している真理の体を包み込んだ。


 やはり効果はあるようだった。

 繭が魔力を消費して、バラけようとしていた真理の体を修復するような感じだ。

 拡張空間に内蔵されたベスマギル・バッテリーが、その性能を担保する。


 だが、いつまでもは持たない。

 真理の体は多分、無数の魔法パーツから成り立っている。

 その全てがバラけようとしているのだ。

 限界を越えれば一瞬にして魔素の海へと還り、真理の体は消滅するだろう。


 人間で言えば、全体的に積年のダメージを受け石灰化した血管が足の先まで一気に裂けていくような様。

 即死だ。

 それはどんな名医にもどうする事も出来ない『寿命』なのだから。


 虎の子の再生スキルにもどうしようもない事態だ。

 わかる。

 理屈でなくわかる。


 再生のスキルは、生物をも含めた『物体』を最高の状態に戻すスキルなのだ。

 真理は正確に言えば、物体ではないのだ。

 そして人でもない。

 言ってみれば、ただの魔法の塊に過ぎない。


 再生は……諦めた。



 そして俺はグスタフを呼ぶ事にした。

 やってきた奴も心配そうに真理を見ていた。


「いよいよとなったら、ブレッシングリングを使ってもらうつもりだ。

 だが今それを使うリスクは犯したくない。

 使った時に、不安定な状態にある真理の体が耐えられなくて消し飛ぶかもしれない。

 あれは最後の手段だ。

 これで最期だというなら、せめてあれで仲間からの祝福を以って送ってやってくれ。

 俺の帰還が間に合ったら、それでもどうしようもなかったら、俺が自分でやるよ」


 アルスとグスタフ。

 二人には真理の面倒を見るための膨大な量のベスマギル・バッテリーを預けておいた。

 これにはアルスも文句は言わなかった。


 だが、さすがのグスタフも悲壮な表情は隠せなかった。


「わかった。

 彼女には俺がずっとついている。

 安心して行って来い」


 祝福の騎士は、いつものように言葉短く見送ってくれた。

 こいつには本当に感謝しかない。

 俺は精一杯の、まるで泣きたいのを堪えたかのような、そんな不器用な首だけの礼をして感謝に代えた。


「いってらっしゃい」


 アルスは軽く微笑んで送り出してくれた。


 悲壮感をもって送り出した相手が二度と帰らぬ事もあっただろう。

 命懸けで留守を預かったにも関わらず、その絶対にしくじってはならない任務を果たせなかった無念な事も。


 だが、それでも彼は微笑で送り出してくれる。

 この男こそは真正のSランクであった。


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