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32-3  エリクサーを求めて

 エリクサー、それは全ての体の損傷を治すとも、あるいは失われた命さえも呼び戻すとも言われる究極の魔法薬。

 いや、それはもはや霊薬と言ってもいい物なのだろう。


 このレシピの代物が、どんな効果なのかは知らないが、武が言い残したのだから真理には効果があるはずだ。

 ただ、武も「想定されるレシピ」と言っていた。

 ここは奴の、錬金魔王とさえ称えられた伝説の男の優れたセンスに賭けるしかない。


 材料の一つはふんだんに持っている。

 俺はレシピを鑑定してみた。


「エリクサーのレシピ(仮)」


 精霊の森のキノコ。

 鑑定によると、こいつが主原料だったよな。

 最も入手困難で普通の人にはまず手に入れられない、だと?

 はっ、こんな物は山盛り持っているし、コピーだって出来る代物さ。


 ドラゴンの生血。

 一本につき、約ドラゴン一匹分を要する。


 精霊樹の葉。

 異空間に生えている精霊樹の葉一枚。


 超魔力水。

 大量の魔力を分子の魔力保有限界までオーバーフローさせ続けたもの。


 ヒュージスライムのコア。

 魔力を吸いまくって飽和したヒュージスライムの真っ赤なコア。


 触媒としてオリハルコンの上位魔法金属。

 オリハルコンでは不足。


 むう。

 材料は、精霊樹の葉以外は手に入るな。

 あとはヒュージスライムを一匹狩ってくればいい程度だ。


 ああ、ドラゴンも生命力に溢れる『生き血』が必要なのか。

 ダンジョンでまとめて狩ろう。


 だが、異空間って一体なんだ?

 そいつの話は聞いた事がないぞ。


 レシピに添付されていた武の記述によると、奴もこの精霊樹の葉が手に入らなかったようだ。

 そいつは伝説の代物だそうな。

 奴は魔力量不足でベスマギルが作れなかったので、とうとうそいつを探すのは断念したらしい。


 おーい、武~。

 半端すんなー!

 まあ国を作っていたんだからしょうがないけれど、こっちは時間が無いんだ。

「お前の妹」が死ぬぞ!


 精霊樹の葉のキーワードでMAP検索をかけたが見つからない。

 異空間のキーワードも同様だった。

 俺のMAPで探索出来る時空以外の場所という事か。

 ここから地球上が探索出来ないのと同じ理屈なのだろう。


 そしてアイテムボックスの中で寝かせてある物があった。

 水に関しては色々な事に使えそうだったので、インベントリの中にある水に魔力を注ぎ込む仕掛けをしておいたのだ。

 凄まじい量の超魔力水が完成していた。


 俺はこういう物には地球にいた頃から興味があって造詣が深い。

 日本にある俺の地元で、そういう話が有名なのだ。


 俺はかつて地元の伝説を追うハンターだった。

 そっちの関係の本を出してみたいと思っていたのだ。

 生憎な事に、その夢は叶わなかったが。


 その中には特別な井戸や霊水に関する事など、古くは千三百年前の伝説にまで遡る話もあった。

 それに関しては、この世界で言うのであれば現アルバトロス王国成立以前にまで遡らねばならない。


 ありがとう、過去の俺。

 いや『セブンスセンス』よ。

 こういう物を理屈もへったくれもなく、何の理由も前触れもなく用意しておける能力、いや『者』がセブンスセンスという御都合主義な存在なのだ。


 将来要りそうだからとりあえず作っておくかというような、身も蓋もないような備え。

 これは小説のために考えたものではなく、本当に現実にそういう者なのだから仕方がない。


 これで材料は二つ。


 早速、迷宮へ飛んだ。

 四十九階のあの場所へ転移した。

 よかった。

 奴め、ちゃんと復活している。


 四十九階の主、「シーフ殺し」ことヒュージスライム。

 俺はそいつへ向かって魔力を遠隔でぶち込んでいく。

 奴はそれをぐいぐいと吸い込み、やがて飽和を表すようにコアが真っ赤に輝いた。


 更に魔力を流し込んだが、もう吸い込めないらしい。

 奴め、「御腹いっぱい」でジタバタしていやがる。


 遠慮なく、離れた場所から奴を武ばりに魔力糸で切り裂いて、真紅に輝くコアを抉り出した。

 元々が希薄感のある魔物が核を失ったので、奴は崩れるようにして床に吸い込まれて消滅していった。

 これで材料は三つ揃った。


 それから五十階のドラゴン牧場へ向かった。

 そしてドラゴンどもに向かってブラッドドレインの魔法を放った。

 アイテムボックスから、中空の魔力の糸というか、くねくね伸びる注射針のような物を大量に伸ばして突き立て、それはもう遠慮なく全身から採血した。


 奴らの足元は土魔法及び重力魔法で強力に拘束してある。

 その場から一歩も動けない中、Sランク魔物であるドラゴン三匹が理不尽な死の到来にのたうつが、毛一筋も容赦はしない。

 真っ赤に染まって躍動する魔力糸が畝り、命の根源たる紅血を無慈悲に吸い上げていった。


 断末魔の苦鳴をか細く漏らして、間もなく三頭は絶命した。

 ドラゴン達よ、献血どうもありがとう。


 もちろん死体も収容する。

 採血で綺麗に血抜きが出来ているから食材としては丁度いいな。

 今度から、これで仕留めるか。


 これで 精霊樹の葉以外の材料はすべて揃えた。

 最後の材料も早目に揃えないと、もしもレシピが不完全だった場合にまずい。

 その場合はセブンスセンスと相談するしかないが、果たしてそれで間に合うか。

 今はただ、レシピが有用である事を祈るしかない。

 とりあえず、真理の様子も気になるので一旦ケモミミ園へと戻った。



 真理は目を閉じて横たわっていた。

 どうやら、限界が近くなったので自動的に活動を休眠させる事にしたようだ。

 その眠ったままの死人のような青白い頬をそっと撫でてから、アルスに向かって言った。


「アルス、真理を頼む。

 初代国王の遺言によると、奇跡の霊薬エリクサーが効果あるらしいのだが、どうしてもその材料が一つ見つからん。

 お前、精霊樹の葉って何なのか聞いた事はないか?」


「わあ!

 それって伝説の素材じゃないか。

 そんな物がこの世に本当にあるというのかい?」


「ああ、初代国王がレシピの材料の一つとして書き遺したから、必ずどこかにあるはずなんだが……」


 うむう、Sランクのアルスにそんな風に言われてしまうと、俺もなんだか自信がなくなってきたな。


「それなら、レッグさんに聞いてみたら?

 あの人なら何か資料を持っているかもしれないし。

 それにあの薬学の名門ウィルストン家の人間なら、そういう物に関して何かを知っているかも。

 あと、ミハエル殿下なら情報を集めてくれるかもしれないよ」


 それだ!

 やっぱりアルスは頼りになるぜ~。


 

「ギルマス! レッグさんは?」


 俺はギルマス執務室に転移すると前置きもなく話しかけた。

 奴は相変わらず書類仕事に埋もれていたようで、やや憔悴したような表情を向けてきた。


「お、おお。

 おまえは相変わらず唐突にやってくるな。

 あいつなら、もうすぐ帰ってくるが」


 そうか、どうするかな?

 今は時間が足りないのだ。


「わかった。

 すぐ戻ってくるから、俺が戻るまで絶対どこにも行かないように言っておいてくれ。

 超緊急事態なんだ」


 そう言い残すと王宮の諜報本部へと転移した。

 第二王子様が、自分の部屋の机で部下と談笑しながら仕事をしていた。


「おーい、ミハエルー!

 ちょっと教えてくれ!」


 うっかりと「殿下」の敬称を省略したので奴も苦笑いしている。

 彼の部下共も忍び笑いを堪えていた。


 ちっ、この俺め。

 経験豊かな年寄りのくせに、なんて心に余裕がないのだ。

 こういう時こそ歳相応に冷静沈着にならねばならんというのに。

 馬齢を重ねるとは、まさにこの事だぜ。

 この件が無事に片付いたら、きちんと心の年輪も刻めるように精進しよう。


「なんだ、君ともあろう者が、また豪い慌てようだな。

 一体何なんだい?」


「おまえ、精霊樹の葉って聞いた事あるか?」


 疾風の王子様が目を見開いた。

 くそ、うっかりとまた王族を「おまえ」呼ばわりしちまった。

 だが、彼はそのような些事は気にも留めていないようだ。


「その名をどこで聞いた」


 少し眉を顰め、少し真剣な表情で問い質してきた


「宝物殿のエリクサーのレシピからさ。

 レシピは陛下からいただいたんだ」


「むう。

 そいつは伝説の中の代物だ。

 その存在は王国とて確認出来ていないな。

 何故、お前がそんな物を作ろうと?」


「うちの指輪の番人が、もう寿命で消えてしまいそうだ。

 救うのにエリクサーが必要なんだ。

 初代国王が、そう言い遺したという」


 その雲を掴むような話を聞いて、さすがの国家諜報最高責任者も息を飲んだ。


「情報は当たっておこう」


 その王子は、予想もしていなかったような緊急事態にも、落ち着いて言葉短く答えてくれた。

 こういう人間は好きだぜ。

 俺も見習わんとな。


「あと、異空間ってなんだ?」


「うーむ、それもはっきりとはわかってはいないが、異世界とはまた違うものらしい。

 なんていうかな。

 もっと狭い、特別な関係の場所を指して言う。


 例えばダンジョンのようなものが、あるいは(あぶく)のような空間が我々の世界とは違う場所として、この世界に点在していると伝説にもある。

 我が先祖初代国王も探したが、(まつりごと)も多く、捜索は断念したと伝えられているな」


「ありがとう……」


 俺は力なく返事をして、ギルマス・アーモンのところへと戻った。

 約束通り、サブマスのレッグさんが待ってくれていたのでホッとした。


「私に何か御用ですか?」


 彼は少し不思議そうな声で聞いてきた。

 俺がここへ来る時は大概ギルマスのところへやってくるからな。

 俺が話のあらましを語ると、さすがに彼も驚いて、少し考えてから木製のキャビネットへと向かった。


「うーん、関連する資料があったような、なかったような。

 あ、これかな?」


 彼が見せてくれた資料、そこにはこう記されていた。


「精霊樹の葉。

 かつて、一度だけ人里にもたらされたと伝説にはある。

 それは長さ三十センチ幅十二センチほどで薄桃色をしていたという。

 五歳の子供が拾ってきたもので、煎じて重い病気の母親に飲ませたところ、たちどころに治った。

 その評判を聞きつけ大商人が残りを買い取ったが、それがその後どうなったのかは不明。

 商人の鑑定により、 精霊樹の葉という名前だけが判明している」


 うーん、さすがにこれだけではな。


「何しろ、大昔の事で国の形さえ大きく変わってしまっていますから、場所の特定は不可能です。

 そもそも、小さな子供が拾ってきたものなので、どこからというのも当時から不明だったそうで。

 今から千五百年は前の古い伝説なのです」


 うわあ、そいつはまたしても雲を掴むような話だが、武が存在を認め材料として書き残したというのなら、彼もその異空間という奴と出会った事があるのかもしれない。

 あるいは精霊樹に関する何らかの情報を持っていたか。

 ああ、上級ドライアドの加護を持っていたんだったな。


「あと異空間って何だかわかる?」


 念のために聞いておく。


「それなら、いくつかそれらしき記述が冒険者によって残されています」


 ほう。

 それは興味深い。


 冒険者は命がけの商売だ。

 異変とか違和感のようなものには敏感なはずだ。

 そういうものはギルドへの報告義務もある。

 彼らの報告は古かったり少々おかしな報告でも、それなりに信憑性は高いはずだ。


地元中を車やバイクで走り回って取材して臨んでいた「その夢」とやらはとうとう叶いませんでしたが、当時のあれこれを思い出して書いたこのお話は、見事に本になってしまいましたね。

当時は本を出すなんて一般人には思いもよらぬ事でした。

作家なんて本当に特別な人間だったのです。

中学で社会科を担当していた教師が地元の歴史的な研究をしていて、新発見があったので本を出版していました。

彼がその話をする時、物凄く楽しそうにしていたのが影響したのかもしれません。

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