26-2 建立
ここから俺は少し、一仕事を始めた。
今夜に必要な物を作るのさ。
そう、それは御寺だ。
やっぱり、たとえ異世界といえども日本人には除夜の鐘が無いとね。
さっそくトーヤがエディを引っ張って見学に来た。
好奇心旺盛な御稲荷様コンビだ。
「なにをやっているの~」
「御寺を建てているのさ。
まあ見てな」
「おてら??」
土魔法とネットの画像を合わせて、イメージ作成のスキルで生成して作り出していく。
アイテムボックスの中だけでなく、こういう使い方が出来るのを最近になって知った。
ぐいぐいと、その建設予定地に定めた場所が小山になり、階段が出来て全体が石作りになっていく。
そして頂上に境内を作り、鐘突き台と本堂の土台を作った。
そこからは、ゴーレム部隊を超大量に投入して、寺としての体裁をどんどんと作り込んでいく。
俺は画像映像からキャプチャーして、がんがんとパーツを作りだす。
コピー木材や出来合い瓦などで、どんどん寺を組んでいく。
まるで御城のプラモデルでも作っていくかのような感覚だ。
畳や障子に雨戸なんかは、もう縁側施設用に作ってあったし、突貫工事でもなかなかの出来映えとなった。
土台や建物には、しっかりと強化をかけて、とりあえず暫定で完成だ。
細かい部分は、また暇を見て弄るとしよう。
どうも歳を食うと、こういう物に興味が出てくる。
日本にいた頃も御寺回りとかに行きたかったけど、体を壊していたし、世を捨てて引き籠っていたしね。
「わ~い、えんちょうせんせい、すごい~」
トーヤはケモミミ園を作った時も見ていたものな。
ケモミミ園に来て間もないエディは、びっくり眼だけど。
そういう顔も可愛いな。
甘酒を出すための屋台も配置してっと。
トーヤ達には、さっそく甘酒を出してやった。
ジェシカも下で建設を見学していたので、上まで上ってきた。
階段の数は控えめにしてある。
あんまり階段を増やして、子供が転げ落ちると困るし。
そういう特殊でマニアックな寺は、どこか別な場所へ作ろう。
アニメに登場するような、見上げるばかりに一直線の階段が山頂まで続く奴とか。
この辺で山というと、山頂に大神殿のあるアルバ山しかないのだが。
王国騎士団の鍛練場の真ん中に、気が遠くなるほど段数のある奴を作ってやったら喜ばれるかもなあ。
強面騎士団長に。
まあそんな真似をすると騎士団の連中に恨まれそうだから、そいつは止めておくか。
イベントを通じて仲良くなったので、連中とは良好な関係を保っているのだ。
「呆れた~。
これって、多分宗教施設よね。
よく、あっという間に作っちゃうわね」
「ふふ、魔法様々だ。
うちのゴーレムは働き者だし。
これは俺や初代国王の住んでいた国にあった御寺というものだ。
そこにある鐘を今夜百八回鳴らすのさ」
「それ、ならしたい~」
さっそくトーヤが強請った。
「お前らは、ちびっこいから大人と一緒に突こうな。
すげえ音がするから、ミミは調節しておけよ」
ふと頭の中に、突いた反動で鐘突き棒と一緒に自らも飛んでいく、ケモチビっ子の姿が浮かんでしまった。
それはそれで楽しそうだけどな。
こいつらに何をされるかわからないので、怪我の無いようにさせないと。
けがを防止するシステムを組み込んでおかないとな。
ジェシカや御伴の精霊達にも甘酒をやっていると、他の子達もやってきた。
みんなで、わいわいと甘酒タイムだ。
子供達が新築のお寺の本堂に上がりこんで走り回った。
日頃の躾の成果で靴は脱いでいたが、あっという間に新品の障子が餌食になった。
やれやれ。
子供達を回収してから障子に再生をかけた。
障子にも強化をと思ったが、子供が突き指しそうなんでそれはやめにしておいたのだ。
「大変ねえ」
「あはは。まあ君のところの精霊と、どっこいじゃないの?」
それを聞いて苦笑いするジェシカ。
そしてミレーの頭を愛おしそうに撫でる。
「あたしね、小さな頃は孤児院にいたの。
物心ついた頃には、そこにいたわ。
それでも、いっぱい我儘を言ってた。
でも、ここにいられない子だっているんですよ、ってよく怒られた。
ケモミミ園を見ていると、本当にそうなんだってよくわかる」
ああ、神官になる子は孤児院から連れてこられる身寄りのない子も多いんだって聞いたな。
この間、帝国の司祭共に玩具にされていた子達の姿が思い起こされた。
『大掃除』の季節が過ぎちまったな。
まあ最近は大掃除っていうものは年末にするだけじゃないみたいだし。
「ねえ、何か不穏な事を考えてない?」
「いや? 別に」
また顔に出てしまっていたか。
こんなもの、このアルさんにとっては不穏のうちにも入りませんが、それが何か。
ジェシカが鐘突き台に登ってあれこれと検分している。
ちょろちょろと、それについていっているミレーが可愛い。
俺もひらりっと飛び乗って、鐘突き棒を手にした。
「こうやるのさ。耳を押さえていろ」
ゴーーーーン。
異世界に諸行無情の鐘が鳴る。
おお、いい感じだねえ。
我ながら、うっとりしちまうな。
「きゃあ、凄い音。
ここって…… 宗教施設よね?」
「うん、そうだよ。
俺の街には、市内だけで京都にある寺社と同じくらいの凄い数の寺社があった。
子供の頃は、そんな物は当たり前なんだと思っていたんだけど、普通じゃなかったんだな。
何故か俺の家の近所には無かったけど。
昔の家に住んでいた頃にはよく鐘の音が聞こえたもんだ」
「京都?」
「うーん」
なんて言ってあげたらいいのかな。
いつか、日本と行き来できるようにでもなったら連れていってあげよう。
あそこは外人さんなんて珍しくないだろうしな。
何故か精霊達が鐘の音に痺れているようだ。
ミレーも、うっとりとした表情をしている。
俺の作ったエセ寺に、こんなにも精霊を魅了する力があるなんて。
やはり、またおかしな何かが宿ってしまったとでもいうのか?
魔力バッテリーみたいになってしまっていて、鳴らした音にも魔力が籠っているとか。
精霊の森とも繋いでみようか。
俺はジェシカ達も連れて、精霊の森へゲートを繋いだ。
むろんファルも連れていく。
「あら、アルさん。
今日はどうしたの?」
レインが不思議そうに訊いてきた。
「いや、今晩うちと精霊の森を、ちょっと繋げてみないかと思って。
ゲートの警備はうちでやろう。
ジェシカのところの精霊が妙に御寺を気に入ったみたいなので、そっちもどうかなと思って」
「そうなの?」
レインはファルを頭に乗せながら、物問いたげに大神殿の精霊達に顔を向けた。
一緒についてきていた精霊共はぶんぶんと頷いているようだった。
なるほど、そうか。
きっと精霊も煩悩が祓われるんだな。
煩悩の中身は、おそらく御菓子と魔力で占められているんだろう。
今夜の鐘は目一杯突いておくとするか。
顔馴染みの精霊どもに魔力をやりながら、俺は密かに気合を入れていた。




