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14 助っ人現る

 そして狸どもは『勝手に御見合い作戦』の協力者を募った。

 だが、彼らは異世界で隠れ潜んで暮らしているのだ。

 それは当然ファルしかいない。


 後は精霊くらいしかいないのだが、連中が当てになるかどうかは、限りなく連中に近い存在となってしまった狸達から見ても大いに疑問符がついた。

 この時期には、まだキューピッド仕事が得意なプリティドッグはケモミミ園にいなかった。


 だが、ファルが意外な応援を連れてきたのだ。


「こ、これはまた奇天烈な事になっているわね……。

 山本さんの影の中にこのような謎の空間が!?

 山本さんって、あんなにのほほんとしていて、よくこの世界で無事だったなって思っていたんだけど、やっぱり何かの加護があったのね。


 まあどう見ても、うどん神社の神様には見えないけど。

 えーと、こんにちは。

 あなた達は、えー、日本の民話に出てくるような狸さんで合っているのかしら⁇」


 それは当然のように副園長先生なのであった!


 彼女もまだ狸さんを見た事がない。

 ケモミミ園にまだ狸獣人の子はいないし、ケモミミハイムのタヌキ大使であられるエルム公爵も当時はまだやってきていない。


「うどん神社ねえ……まあ、あいつはうどん県の住人なんで、わしらが愛媛から越境して憑いておるんじゃが」


「えーと、あんたは!?

 前から思っておったのだが、一体何者なのだろうな。

 かつて見た事も聞いた事もないような。

 はてはてはて」


「うむ。生き物ですらない。

 だがロボットでもサイボーグでもない。

 しかし、魂は持っておるような不思議な感じがするのお」


「しかし善なるものよの」


「あのゴーレムどものように子供達から懐かれまくっておるしのう」

「というか、この御仁自身が、しょっちゅうかた子供を大量に拾ってきておるのではないか」


 そして刑部の方から切り出した。


「ああ、あんた確か真理さんとか言ったかな。

 悪いけど、わしらの事は内密にしておいてもらえると助かるんじゃが」


「ええ、ファルちゃんからそう聞いているから秘密は厳守するわ。

 それにしても、山本さんと葵ちゃんの組み合わせかあ。

 まあ、あの二人って仲もいいし、割といい感じじゃないのかしら。

 少なくとも園長先生と葵ちゃんのカップルよりはね!」


 菓子職人の影空間の中で、八百九匹足す二の笑い声が木霊した。


「改めて御挨拶申し上げる。

 我らは四国に名高き大妖怪、隠神刑部と八百八狸に候。

 かつては愛媛松山城にて、人の世にも名を馳せし剛の者よ。

 どうか御見知りおきを」


「あたしは魔導ホムンクルス。

 地球の錬金術の世界では人工生物ホムンクルスを作るのが夢らしいけど、ここでは魔法の塊として造られた人工生物なの。

 まあ限りなく人間に近い何かだと思ってくれればいいわ。

 造物主のたった一人の家族を丁寧に模して造られたから、我ながらとっても人間臭く出来ているしね」


「はあ、ホムンクルスねえ」


 何気に、ここには影を提供してくれている山本昭二以外の人間は只の一人もいなかった。

 もっとも、その人外共が彼に御嫁さんの世話をしようと集まっていたのだが。


 すかさず超速でインターネットにより隠神刑部と八百八狸について検索する真理。

 もはや収納されたパソコンやインターネット回線も体の一部のような物になっている真理なのであった。


「あらあら、あなた方って結構な有名人、いや有名大妖怪じゃないの。

 そういう存在から自分でも知らない内に、一緒に異世界まで来てくれるほど懐かれているのが、いかにも山本さんらしいわ。

 それで、あなた達。

 彼の結婚の御世話をしたいというわけなのね」


「そうや。

 あいつ、ほっとくと独身で終わりそうなんでな。

 今までは見合いなんかもそう乗り気やなかったんだが、あの姉ちゃんには気が有りそうなんでなあ」


「ふふ、そうね。

 そういう将来の話を葵ちゃんからも相談されたりするのよ。

 やはり、この世界の人とは難しそうね。

 日本の女子高生はカルチャーなんかに敏感だし、葵ちゃんは結構おたく女子だから、この剣と魔法の世界の人と結婚するのは彼女にとって難しいかもね」


 萩原葵。

 彼女はおたくなのだが、BL系とか昔の特撮や時代劇、そういった方面の成分が圧倒的に多いので、剣と魔法とファンタジーなどの方面は些か管轄外なのである。


 ここへ来る前のベルンシュタイン帝国において、危険な人間から何度も襲撃されていたのも、この世界の男性への強い忌避間に繋がっている。


 それを助けてくれていたのが元高ランク冒険者であったので、葵ちゃんも冒険者に対しては比較的好感を持ってはいるのだが、本来そういう荒事系の人間自体が苦手であったのだ。


 日本でもそういう人種との付き合いは一切なかった。

 葵ちゃんも、あの園長先生は例外として受け止めている。

 なんといっても、あの人が世界一高ランクの冒険者という事自体がよく理解出来ていない。


 いつも子供の世話ばかりしていて、冒険者ギルドの関係者からも園長先生としか呼ばれていないし、冒険者らしい仕事をしているのを見た事もない。

 本人も自分が冒険者である事を時々忘れているらしいし。


 むしろ彼女は、裁縫や料理・茶華道や着付けなんかの方が興味ある人だった。

 洋食よりも和食の方が好きだし。


 そういう和風な観点から見ても彼女から見た山本昭二という人物は、たとえ日本にいたとしても相当魅力のある男性なのだった。


 ただなんというか、朴訥というか、少々卯建の上がらない感じの男性と美人女子高生の組み合わせなので、本人的にはやや微妙な部分もあるらしい。


 ただ彼女は、この歳にしては賢いと言うか現実的というか、結婚に関しては妥協も必要という事も理解している。

 ましてや、この世界で日本人男性と結婚しようとしたら選択肢は非常に限られており、実質的に御相手になるのは一人しかいないという話も彼女は理解出来ている。


 真理がそんな話を狸連にしてやったところ、全狸が唸っていた。


「うーむ。和風かあ……」

「あら、どうしたの?」


「いやな、どうせなら恋人達の季節たるクリスマスにかこつけて二人をくっつけたろと思ったんやが、あいつらの共通点が和風なのか……」


「あっはっは。

 それならクリスマスは仲良くなるだけにして、正月の準備でぐっと距離を縮めるなんていうのはどお?

 クリスマスもみんなでやるから、クリスマスをよく知るあの二人を責任者みたいにしてさ。

 園長先生はクリスマスや御正月、その他の行事なんかの準備で大忙しだから、あの二人には大いに手伝ってもらいたいはずよ」


「さよかあ。

 じゃあ、姐さん。

 そういう段取りで行ってもらってええやろうか」


「任せなさーい。

 こう見えて、あたしは副園長先生なんだからね!」


「ファルも手伝うよ」


「そうかい、そうかい。

 ありがとうよ、ファルスの御嬢ちゃん。

 さすがは、明日のこの世界を担う事が決まっている逸材だ」


「ふっふっふ、任せてー」


 とにもかくも、そのようなキューピッド的な計画が、何も知らない本人の影の中にある謎空間でケモミミ園の副責任者や神の御使いなんかも絡めて静かに進行中なのであった。


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コミカライズ連載サイト

https://comic-boost.com/content/00320001


コミックス紹介ページ

https://www.gentosha-comics.net/book/b518120.html


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