15-5 異世界転移の原因
レインボーファルスほどの超生物が、その力を使い果たしてしまうような事態。
その時期的なものからして、まさか!
彼女の説明によると、次元の歪み自体は珍しい事ではないという。
極稀に、こういう事が起きるというのだ。
地球でも、歪みの原因になりそうな重力が異常を起こしているような場所はある。
それどころか重力なんていう物は均一なものではない。
特に高い山脈の付近などでは大きな重力異常が観測される。
きっとグランドキャニオンのような深渓谷でも重力異常が観測されそうだ。
地球だって完全な球体ではない。
縦横で二十キロメートルくらいは差があるようだ。
惑星各所の分布により質量のばらつきはあるだろう。
惑星の中身もゆっくりと動いてるんだし、各所でその構成物質の単位あたりの平均質量は微妙に異なるはずだ。
地球のコアの部分には、太古の時代に地球に衝突した星の巨大な欠片が幾つも眠っているという。
当然、それが原因となる重量のバラつきもある。
真球のような形をした惑星の内部に、重量のあるコア部分とは別で異なる天体の組成を持つのだからな。
「それは、非常にまずい場所で起こってしまいました。
まるで、この世界全体が歪むかのように撓み、次元の亀裂を生みました。
そうなれば森が飲み込まれる。
いや、それよりも世界の撓みの影響で精霊の森が破壊されてしまう」
その影響で裂け目が出来て、俺や葵ちゃんはこっちへ来ちまったのか。
もしかすると、他にもこちらの世界へ来ている奴がいるのかもしれないな。
そして、そいつが自分の利益のために帝国に与していないなんて誰に言えるのか。
日本人には善良な奴が多いのは確かだが、世の中は善人ばかりじゃあないのだ。
これまでにも、その可能性についてちらっと考えた事はあるが、今は具体的な可能性として浮上してきてしまった。
「細かい亀裂は、大規模な次元変動ではない時にも、瞬間的にあちこちに出来ていたようです。
細かい亀裂は数分で塞がってしまいますが、大きなものはしばらく消えずに、辺り一体が飲み込まれてしまいます。
ここは特別な土地。
捨ててしまえば代わりはありません。
失ってしまえば、世界中の精霊に莫大な影響を与えるでしょう。
最悪はこの世界が滅びます」
なんて間の悪い話なんだろう。
あれはキャンプ場の管理棟で御風呂にでも入っていれば、やり過ごせたようなもんだったのか~。
いや、そんな場所に微妙でタイトなタイミングで居たという事は、この日本では不遇な扱いしか受けなかった俺を異世界へ送るために『あいつ』がわざわざタイミングを測ったというか謀ったようにしか思えん。
だから、あんなに買い物をさせていたのだろうから。
今までも、そういう事はあったのだ。
さすがに今回は超弩級の代物といえるのだが。
「私はファルスとしての力を使い、精霊の森を包みました。
生物であり、そして同時に生物でない存在である膨らむものファルス。
だが、それだけでは脅威は去りません。
不幸な事に、今回の次元嵐の一番の中心が森を襲ったのです。
幸いにして、私はただのファルスではなく、かつてないほどの強大な力を持ったレインボーファルス。
強引に裂け目の修復を行い、事無きを得たのです。
千年前に起きたそれは私の親が封じましたが、それと引き換えに命を失ってしまいました」
それが、こちらの世界へ武の来た原因かー!
武は、ファルスが命を犠牲にしないといけないほど強烈な次元嵐のど真ん中に転移してしまったのか。
俺や葵ちゃんは、細かい裂け目を通り抜けただけだから時間は元のままだけど。
武の時は時空がもろに歪んでいたってわけか。
すぐにそこから戻れれば日本へ帰れたかもだけど、帰れなかったんだな。
そしてファルス不在の時代が訪れた。
残された卵は孵化せず、世界中の精霊が震え、恐れ慄いた。
このままファルスが一旦消えてしまうのかと。
過去にもファルスが消滅した時代は在った。
アルファの話では、そういう時は再びファルスが現れるまで、世界は永く荒涼としたものとなったという。
世界も荒れた。
そんな時、武が精霊の森へとやってきた。
精霊に請われて。
また、元の世界へ帰る手がかりをも求めて。
そして彼の強大な魔力によりファルスの卵は孵化した。
レインボーファルスとして。
それは精霊達にとっても驚天動地の出来事であったらしい。
やがて精霊達も力を取り戻し、世界の秩序も急速に回復していったという。
「私はファルスとしての力を一時的に失いました。
私は新しいファルス、しかもレインボーファルスを、もう一度世界にもたらそうと決意しました。
あなたがいてくれたから。
私は力を振り絞り、卵を産んだのです。
ファルスは単体で卵を産みます。
それで親と全く同じになるわけではないのですが。
個体によって差違が大きいのです。
それで私は完全に力を失った状態となりました。
完全な復活までどれくらいかかるかもわかりません。
あの次元嵐はそこまで私にダメージを与えたのです」
「それで跡継ぎの成長を確かめたかったから呼んだわけね。
後、娘にも会いたいと」
ちらと見ると母親の頭の上で欠伸をしているファルを見た。
実の親に、だいぶ馴染んだようでよかったことだ。
「そうです。
丈夫に育っているようで何よりです。
この子こそ、世界の未来を託された次代の希望なのですから。
あとあなたにも御礼と御詫びを。
いきなりファルスの卵を押し付けてしまって申し訳ありません。
しかし緊急事態だったものですから。
先に御話をしてからでも良かったのですが断られると困ってしまうので、半ば無理に押し付ける形となってしまいました」
そしてアルファは、ちらと真理を見やり、こう言った。
「あなたは人間ではないのですね。
そしてあなたからは船橋の魔力を感じます。
懐かしくて、暖かい……。
もしや、あなたは彼に作られた者なのでは。
私は精霊の森へ帰らざるを得なく、そして森から出られないため彼の存命中に会いに行く事も、国を立ち上げた国王として忙しい彼が会いに来れる事も、とうとう……ありませんでした」
「え、ええ。
あの、もしかしたら、あなたが……レイン?」
「そうです。
彼はまだ幼体だった私をそう名付け、可愛がってくれました」
「そう……彼はあなたの事を話す時、まるで人間の子供であるかのように話すので、てっきり彼が育てた人間の事なんだと思っていました」
それを聞いたアルファ、いやレインは嬉しそうに笑った。




