152-6 御式の時間?
「なあ、エドワード。
あんたはどうなんだい?」
「どうとは」
「アレの事だよ」
色気もへったくれもなく各種魔法素材の分析を行い探究心のみによるチェックをしている魔女を親指で指し示した。
「まあ、彼女はあんな感じだからね、いつも」
「それでいいのかいな。
あんたらも、もういい歳なんだろう」
「五十代半ばで、あんなに若い御嫁さんを貰った人に、そんな事を言われたくないものだね」
「ぐはあっ」
この男、あいつに似たようなところもあるな。
あいつとは、エリに求婚していたロレンスの事だ。
飄々としていて妙に掴みどころがないというか、糠に釘な雰囲気というのか。
奴本人も俺の戯言などたいして気にした風でもなく涼し気な顔で、ふらふらとあっちこっちを小突いたり撫で回したりしている。
よほど自分がデザインしたこの建物なんかが愛おしいとみえる。
まあそいつはわからんでもないのだが。
この俺も、この世界で創造してきた数々の物達には、それなりに愛着があるのさ。
「さあ、お次は『貸衣装』だ」
そう、フランネルの花嫁衣裳を! ではなくて、ただのコスプレサービスだ。
この世界の王族貴族や冒険者に神官の服、さらに魔物着ぐるみなどもある。
次回のハロウインは盛大に催すとするかね。
アトランティス風の衣装もあるが、露出部分も多くて体の線が出てしまうので、これは体形に自信のある奴しか着られないな。
「お、フランネル。
こいつなんかどうだ」
「魔王、私を馬鹿にしているのか」
それは小さな女の子用のウエディングドレスだ。
他にシンデレラ風ドレスに魔女の装束などもある。
「いやこういう物は、お前の店にも置いてあるじゃないの」
「そりゃあハロウインは一年の間で一番の書き入れ時だからな。
英国滞在中のアメリカ人なんかも買いに来てくれるのだし」
それから魔女の装束や実物大のウエディングドレスも出してやったのだが、即座にカウンターで突き返された。
「これ、本物の王族結婚式に使った奴なのだがなあ」
正確には、そのコピーなのだが。
英国ハンボルト本家を通してコピーさせてもらったものなのだ。
縫い目の一つ一つや全ての原子の配列まで一切違わぬ、俺のアイテムボックス謹製の逸品なのだ。
「むう。
そんな華麗な物は私には無用の代物だよ」
そう言いながらもチラっと横目でドレスを見ていたフランネル。
おや、このおばさんも、まだ多少は結婚に未練があるのかね。
「やあ、せっかくだから着てごらんよ。
僕も付き合うからさ」
そう言って彼は純白のタキシードを手にしている。
そしてチラチラと部屋の入口から覗いている大量のミミ達があった。
見れば、みんな裁縫グループの子供達だ。
沖田ちゃんあたりが『イベントの開始』を告げて回ったとみえる。
何しろ、あのケモミミ園のイベントでは御馴染みのプロフェッサーたる『フランネル先生』のイベだからな。
あのおばさんへの遅すぎた春の到来に、女の子達も興味が尽きないものらしい。
「もうしょうがないな。
付き合ってやるが、少しだけだぞ」
それを聞いて怒涛のように駆け寄る、今では六十人くらいに膨れ上がった裁縫チーム。
昔は二十人くらいだったのに、今はこれが三チームもあるのだ。
あっという間にミミ付きの子供の群れに飲み込まれていったフランネル。
獣人の子は女の子でも非常に力が強いので、フランネルはまるで蟻に運ばれる蝉のように担がれてしまった。
見事なプロフェッサー神輿の出来上がりだ。
もう初期メンバーは小学校に上がったので、これだけの人数がいれば大人一人くらいどうっていうことはない。
あの元気印のカミラなんかは女の子でも力があるので、やろうと思えばフランネルくらいの大人なら一人で強引に蟻のように引き摺って運べてしまう。
「おいおいおい、お前達ー」
小さな悲鳴と困惑の声を残して、彼女は無事に搬出されていった。
顎髭を生やした小粋な俳優風の顔でニヤリという感じに笑いながら、おっとりと後をついていくエドワード。
そして、いつものようにドタバタと取り組みが終わり、花嫁姿で若干目を回した感じのフランネルが連れてこられる。
いつもと違うのは、奴の悲鳴があちこちの段階で聞こえてくる事だったろうか。
ちょっと時間がかかっていたのも、奴の体形があまり既製品の高級ウエディングドレス向きじゃあないためだろう。
今まで俺が手掛けてきた結婚式の花嫁達は皆スタイルがよかったので、このような事はなかったのだ。
獣人の子達が容赦なく『花嫁を』ドレスに合わせるべく奮闘したのだ。
やろうと思えばドレスを花嫁に合わせる事も、彼女達の技量であるならば充分に可能なのだが、きっとそれだと綺麗なドレスが台無しなので、即決でそうする事を選んだらしい。
いかにも裁縫グループのリーダーであるカミラらしい決断だ。
この子は一々悩まない。
すっぱりと躊躇いなく決断を下すので、よく明後日の方向にいってしまうのだが、まあフランネルも死んでいないようだし今日はそれでもいいか。
人間へのエリクサーの威力を試すのには丁度いい機会なのかもしれない。
「へえ、綺麗じゃないか、フラン」
付き添いから戻って来た彼は、そう言って彼女に軽く曲げた左腕の肘を差し出した。
「うるさい。
なんで私がこのような格好を。
今日だけだからな」
ぶつぶつ言いながらも、白い手袋をした手を彼の肘に添えるフランネル。
エドワードの方は、裁縫グループの黒一点である男の娘が担当したようだ。
相変わらず女装したままというか、この子に男の格好をされていると他の女の子達が落ち着かないのだろう。
まあ花婿姿役の方は、元々割とパリっとしているので手がかからないしな。
結婚式の定番で、念入りに化粧をされると孫にも衣装的に少しは見られる感じになっているフランネル。
そして満面の笑顔の花婿。
「じゃあ、行くか」
「え、どこへだ」
転移魔法によりフランネルの声は宙に掻き消え、俺達は結婚式場に出現した。
そこには、たくさんの『参列者』とメイドなども溢れていた。
「な、なんだ、これは」
「それは、もちろんあなたの結婚式に決まっています」
「は、はあ?」
まあそうなるのも無理はないだろう。
だって、そこに居てそう告げているのはうちのおばはん、我らがシャルロット王妃様なのだから。
「この歴史と伝統ある空中庭園の再建に尽力なされたあなた方は、もはやこの国のVIPなのですわ。
そういう訳で、あなた方カップルの結婚式は、我々アルバトロス王国にて開催させていただきます」
まるで、いつものとんでもイベントを始めるかのように宣言した御義母様。
「へ?
け、結婚式!?」
そして、ホケっとするフランネルを尻目に次々と入場してくる貴族王族達。
さっきちょっと話しただけなのに、みんな結構暇なんだな。
何かイベントがあると耳にして、なんとなく物見高く集まってきただけらしい。
これから始まるのが、形だけとはいえ結婚式と言うのもよくわかっていないらしいが。
みんな普段着というか、王宮内でのいつもの格好だわ。
まあ、伊達に王侯貴族などと呼ばれていない方々なので、それでも十分過ぎる格好ではあるのだがね。




