150-14 冒険者カードと魔法
昨日行ったギルマスの執務室で、彼は魔導具をいくつか持ち出してきた。
「まず、お前の冒険者証を作る。
普通は受付で作るんだが、うちはこういう訳あり案件に対応するために、この部屋にも事前にあれこれと調べる道具を用意している。
こいつは滅多に使わん代物なのだがな。
これを持ち出すと言う事は、それだけで大変な事案だという事だ。
それだけはよく認識しておけ。
こいつはアルバトロス王国で稀人の初代国王が作った物なので、使う側で細工はできん。
カードに隠蔽をかけられるが、それは本来の姿ではないのだ。
元データはちゃんとカードに記載されているから、ランクアップの時には解析されて新カードはそれで登録されてしまう。
もし、ここを出てどこかへ行ってからランクアップしたいのなら、必ず俺のところまで戻ってこい。
いいな?
あるいは完全に信頼出来る関係のギルドで、俺のような特別な対応をしてくれるところでやるか。
だが、それはよっぽどの関係でないと出来ない事だから、それをやるのは、お前にとって危険がつきまとう事なのだとしっかり認識しておけ」
それを聞いて、いかにこのギルマスと出会えたのがラッキーだったか、よく理解出来た。
そして出来上がったカードを矯めつ眇めつ眺めてみた。
いや、こっちの字はまったく読めないけどね。
俺のその様子を見てギルマスが解説してくれる。
「稀人とかいうような特殊事案は通常は機械を通してしか見られん。
カードに普通に書いてあるわけではないからな。
隠蔽は、その機械で読み取った表示をも胡麻化してくれる。
ただ最初にカードを作る時には機械に記号で表示されてしまうので、ギルド職員が見れば特殊な冒険者はわかってしまう。
稀人だけではなく、王族や貴族なんかもな。
そっちは特別配慮をするためにだ。
本来カードに稀人の記号が入るのは、稀人が見つかった時に冒険者ギルドで保護をする約定があるためだ。
そいつはこの機械をアルバトロスから導入する際の決まり事でな。
だが今では、それはほぼ守られていないので、稀人にとっては却って危険をもたらすシステムになってしまっているというわけだ。
まあ千年も経ってしまえば、そんなものだろうなあ。
こうやって作る時に隠蔽をかけておけば、その記号は他のギルドでも機械には表示されん。
ただし、そのまま迂闊に作り直せば記載されてしまってアウトだ。
わかったな」
俺はただコクコクと頷くだけだった。
そうかあ、そういう話があったんだなあ。
俺なんかカードを見たって何もわからないわ。
そもそも、ここの字が読めないのだし。
「ああそういえば、お前。
ここの字は読めるか?」
「読めないっす」
「じゃあ、しっかりと覚えろ。
油断すると、性質のよくない契約書にサインさせられて、騙されて売り飛ばされる場合もあるぞ。
この世界には、お前のように字の読めない人間なんて幾らでもいるからな。
そういう無知な人間を騙そうとする奴らなんか五万といる」
「うわあ、精進します」
そして彼は引き続き、次の魔道具を持ち出してきた。
中央が窪んだ四角い箱のような形状の物だ。
「こいつに手を翳せ」
「うーん、こうっすか?」
「魔力を通してみろ」
「はあ?」
魔力を通すねえ。
よくわからない。
俺は、うーんと唸ってみたが一向に通った気配がない。
「うーん、うーん」
「おかしいな。
稀人は魔力が強力な奴が多いから反応するはずなんだが」
「あはは。
この人って魔法は愚か、意図的に魔力の放出をした事もないだろうから。
でも結構強力な魔力の自然放射を放っているから、凄い魔力を持っているはずだよ」
そのような怪し気な物を、俺みたいなモブ野郎が強烈に放っているのだと?
そういやフィーも、それを見て俺のところへ来てくれたと言っていたような。
そんな物は自分じゃ見えないぞ。
「そうか、それだと困るな」
「何がでしょう」
「魔法適性の有無をチェックできんではないか」
「魔法!
俺にも魔法が使えるんですか!」
ちょっとやる気が湧いてきたんですけど。
そして俺は渾身の力を込めて手の平を突き出して叫んだ。
「ファイヤーボール!」
もちろん炎は出なかった。
その俺の痴態を見たギルマスとフィーが失笑している。
ちぇっ。
「魔法もいいが、無闇な場所でぶっ放すな。
我が家の騎士団が飛んでくるぞ」
「えー、でもぶっ放すどころか魔力すら計れないのが現状ですが、これどうしましょうかね」
「もう、しょうがないな。
フィーが手伝ってあげるよ」
「どうやって?」
「こうやって」
言うが早いか、フィーが俺の手を引っ張り魔道具の前に持っていくと、ぐいっと魔力が流れる感じがした。
なんというのか、満タンだった電池に何らかの負荷が繋がって、電流が流れていくような感じだ。
「なるほど、精霊が魔力を吸い出しているのか」
「けふう。
いや御馳走様。
ねえ、計れた?」
「ギルマス、どうですか?」
「ああ、今の強制的な魔力吸引だけでメーターが振り切れているな。
具合はどうだ」
「どうかと言われても、なんだか何かがチョロっと流れたのかなという感じで」
「そうか、やはり稀人と言うのは大したもんだな。
おまえは常識では考えられないほどの莫大な魔力の持ち主のようだ。
後は自力で魔力を制御できるようになれば、いい魔法使いになれるかもしれん。
魔法使いは数が少ないから引っ張りだこだぞ。
貴族の御抱えに、高ランク冒険者への道、更に使える魔法の種類によっては土木建築で有用だし、その他にも仕事口はたくさんあるはずだ。
やはり稀人が生活費を稼ぐならこれか。
ただし、相手が貴族の場合はわかっているとは思うが」
「ああ、はい。
気を付けます。
あと収納があるんですけど」
「お、そうか。
そいつは貴重なスキルだ。
商会で働いてもいいし、自分で商人になってもいいが、おかしな連中に目をつけられる可能性もあるから、そうする場合にはやはり腕っぷしはあった方がいいな。
お前、喧嘩の腕とかどうだ」
「からっきしです」
フィーの笑い声がけたたましく響き渡った。
「だめだめ、醍醐はそういうのはさっぱりなんだから。
せっかく魔力をたくさん持っているんだから、あんたが魔法を教えてやりなよ」
「そうか。
では適性検査といくか」
そう言って彼は何か丸い水晶のような物を持ってきて、さっきの魔道具に嵌め込んだ。
「ちょっと、この上に手を翳して魔力を流してみろ。
できるか?
今度は適性を見るだけだから、ちょっとでいい」
俺は一生懸命に電流が流れるイメージを喚起した。
そして強力乾電池を機器にセットしてブウンとハム音を鳴らすイメージが見事に唸った。
「お、いいぞいいぞ。
ん? 何だ、こりゃあ」
「え、なんです」
だが、ギルマスが息を飲む気配があった。
俺はなんだか不安になってしまった。
「こ、これは!」
「これは?」
「む、無適性だ。
こんな事はありえないな。
ええい、もう一度測るぞ。
これだけの膨大な魔力があって魔法を使えないなんて事が普通あるもんか。
貴様、何かインチキをしていないか?」
「インチキってなんすか、インチキって!
えー、俺って魔法が使えないの~?」
そんな殺生な。
しかし、それから何度も何度も測定し直したが、やはり無適性と出るらしい。
「うーむ」
「えーと」
「ぷふっ」
唸るギルマス。
困る俺。
嗤うフィー。
適材適所の見事な対応となった。
「よし、実地で魔法を試してみようか」




