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143-2 血統書作り

「よーし、今日は犬の血統書を書く授業をするぞお!」


 別に本物の血統書を作るわけではない。

 ただの幼稚園の御遊びだ。

 絵日記ならぬ絵血統書だな。

 まあ、ほんの御楽しみという事で。


 発表で教室というか、離宮の大広間に張られた後で本人達にプレゼントされる。


「じゃあ、フェルドのものをかくー」

「じゃあ、ぼくはアズールにしようかな」

「あたしはミニョン!」


 俺はPCを使って写真付きで作成する事にした。

 写真はワンコ達が子供達と一緒に玩具で遊んでいる可愛い奴なんかだな。


 えーとフェルドは、「フェルディナント・アドロス迷宮生まれ・フェンリル(雄)Aランク(SSランク相当)」と。

 これで終了だな。

 だってこれ以上書きようがないし。


 メルも同様に「キャラメル・アドロス迷宮生まれ・キメラ(雌)Aランク(SSランク相当)」で終了だな。

 あの子は犬じゃないけれど、それらを父母として、その子供達を書くのでね。


 フェメラだけ書くとキメルどもが拗ねるので、ここは全員分書く。

 子供達もそうしているし。

 あれの区分も厳密には犬猫じゃないしな。


 いや、犬と猫じゃなくて『犬猫』ないしは『猫犬』なのか。

 犬や猫と呼ぶには、やや微妙なもの同士でのハーフだがなあ。


 プリティドッグの子犬達は、子供達の血統書作りを熱心に見学していた。

 血統書は自分で作る物じゃないからな。


 プリティドッグなのだが、子供達は特に疑問に思わず、ジョニーとマーガレット(ミニョンママ)から書き始めているが、はて連中の先祖はどうなっているのだろうな。

 ケモミミハイムのシュテルン公爵は兄だったはずだが。

 俺は傍らで見物していたジョニーに訊いてみた。


「なあ、ジョニー。

 なんで、お前の兄貴はあの国で公爵なんかをやっているんだい」


「そりゃあ、彼がプリティドッグの王族だからさ。

 うちの国と、あの国とはいい関係だからな」


「なあんだ、そうか。

 えっ」


 俺は思わずジョニーをガン見した。

 兄貴が王族なんだと!


「じゃあ、お前は?」


 すると奴は恭しく礼をして名乗った。


「俺の名はジョニー・ザ・ストライカー。

 現プリティドッグ国王の第三王子だ。

 国に居る一番上の兄貴が王太子なのさ」


「そんな話は聞いていないんだが」

「言ってないからな」


「なんで王子様が放浪してやがるんだよ」

「プリティドッグとは、そういうものなのだが」


「確かにそうなんだが、俺的には納得がいかんぞ」


 どうみても流れのガンマンにしか見えないような、その風体。

 いつもニヤニヤしている、その顔。

 なんだかなあ。

 やっぱり納得がいかん。


「お前の奥さんは?」


「あれも公爵家の姫だった。

 幼馴染だったし」


「そうだったのか」

「ふふ、今でもラブラブなんだぜ」


 それは知っている。

 その御蔭で、うちには常時可愛い子犬が溢れ返っていて、貴族達から憧れの的なのだ。

 離宮の素晴らしさも相まって訪問客は引きも切らない。

 犬が会ってくれるかどうかは奴らの気分と御土産の内容次第だがな。


 そういや、こいつらって長生きするらしいからなあ。


 プリティドッグの王国か。

 気になるなあ。

 こいつは調査の必要があるかもしれない。

 いや、個人的にちょっとな。


 あと、あのおばはんが聞きつけでもしようものなら。


「それは本当なの、ジョニー!」


 振り向いたら、うちのおばはんがいた!

 あちゃあ。


「あんた、なんでここにいるんだよ。

 公務はどうした」


「何故だか知らないけれど、公務どころではないような気がして!」


 プリティドッグに関しては異常な感覚が働くようだ。

 そして陛下にも止められなかったんだな。


「いや、それにしても実際のところはどうなんだい?」

「ジョニー、王国は存在するのね?」


「ふ」


 くそ、さすがに勿体をつけるな。

 きっと、別に絶対言ってはならないわけではなくて、単に勿体をつけて焦らして楽しみまくる算段なのに違いない。


「ジョニー~。

 私とあなたの仲じゃないのー」


「ふふ。

 どうしようかな~」


 それを聞いて地団太を踏む犬王妃様。


「そうだわ、こうしましょう!

 あなた方もケモミミハイム王国とは仲がよかったのですわよね!

『我が国の公爵家の姫』を我が国からの正式な親善大使としてプリティドッグの王国へ派遣したく思いますわ!

 それならいいですわよね。


 何よりも、あの子はケモミミハイム王家の血を引く、あの国の王女の娘。

 あのネコミミとオッドアイが何よりのその証。

 必要であれば、ケモミミハイム王国のシュテルン公爵閣下を通して申し込みます」


 おいおい、おばはん。

 いきなり正式にと言われてもなあ。

 まあ最近はあの子も、少しは公務のようなものも、なんとかこなすようにはなってはきたのだがね。


「はっはっは、そう来たかよ。

 それでこそ我らがロッテ様だな。

 まあそれにしても、両兄上が何と言うかねえ」


「それはいいんだけれども、その前に俺が先に視察するぞ。

 いくらなんでも、うちの子をいきなり派遣するのは、ちょっと憚れるからな」


「それは構わないがな。

 正式な親善大使の件は国の方で許可が下りないと難しいぞ。

 王国がある事さえ、あんまり言ってはならないのだからな」


 つまり俺達は、こいつらからよほど気に入られているっていう事だな。

 しかし国の手続き的には別というわけか。


「では、ジョニー。

 その旨を印した親書を書きますので、ケモミミハイムの兄上様に届けてくださいな」


「そりゃあ構わないぜ」


 そして、その場にてピッピッという感じに超速で《したた》認めた親書をジョニーに突き付ける御義母様。

 あれだよ、時代劇なんかで懐から取り出した墨を満たした筒に入った筆で何かの帳面に書き付ける、あの感じで。


 あのおばはんときたら、プリティドッグが絡むと、いつもこの神速なんだからなあ。

 そしてジョニーの奴も、この上なく楽しそうな笑みを浮かべながら転移魔法を発動していった。


 こうしてまたジョニーの御楽しみが始まった。

 結局は、そういう事なんだよな。


今明かされる、プリティドッグとジョニーの秘密。

いざ行かん、犬の王国へ。


おっと、本日は書籍5巻の正式な販売日でした。

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