142-7 大人しくしていない桜とコスプレな警備陣
御花見は大盛況で、凄い賑わいだ。
グランバースト公爵家とは何の関わり合いもない一般市民の人でいっぱいだった。
うちで勝手に、市が管理するスペースを強引に間借りしているだけなので。
今年は桜の足が早かったので、まだ花見をし足りない人も多かったようだ。
生憎な事に普通の屋台は戻ってこないのだが。
彼ら屋台をやっている業者さんにも、気温を含む天気予報などと首っ引きで立てた仕事の予定があるのだ。
いきなり桜が咲き戻ったって屋台だけは戻らない。
実際の話はよくわからないのだが、彼らは桜前線と共にどこかへ移っていくのだろう。
もう、この街に屋台関係者は一人も残っていないはずだ。
地元の元締めみたいな、おかしな連中だけはいたけどな。
ネットでは「コスプレ桜祭り開催中!」という感じにガンガンと情報が流れているようだ。
ケーブルテレビの市内専門チャンネルが取材に来ていた。
物見高い四つ足の奴らが映りにいっているようだ。
まあそのような物は我が家には関係ない。
一応、表向きは市役所が主催している『花見の二次会』という事になっているのだから。
「この犬、すっごく可愛い~」
「手触りも最高だよー」
「素敵ー、うちの子になってほしいくらいよー」
「きゃはははは、この子犬懐っこい~」
子供達に大人気の子犬軍団。
その様子がテレビで配信されている。
ミニョンママは、そんな人気者である子供達の姿をジョニーと一緒にビデオに撮っている。
御花見イベなのに、何故かガンマン風の格好をした男がいるのを不思議そうな顔で見ている人達もいたのだが。
うちの桜の木どもには前もって言っておいた。
「テレビも来ているんだから、絶対に正体を現さないようにな」
「じゃあ、枝とかを折らせないようにしてくれる。
うちらって性質のよくない酔っ払いが出たら追いかける、桜の本能のようなものがあるみたい」
うーん、桜の本能?
お前らって、桜を始めたのはつい最近だよな。
花見の習慣すらない異世界のドライアドに、いつの間にそのような本能が生まれたものか。
というわけなので、新選組に警備を申し付けた。
ダンダラ模様の着物に刀を差して連中もテレビに映っていたし、花見客に写真を撮られたり一緒に記念写真を撮ったりとかしている。
「愛知県なのに、なんで新選組なのかしらね。
あれって京都のお話でしょう」
「まあ新選組は全国的に人気あるんだし、和風なイベントだもの。
それに知ってる?
この街には、新撰組ファンの間では有名な新撰組局長の首塚があるんだよ」
ふふ、実はそういう御縁で俺が始めた異世界新撰組だったのだよ。
そして、おばちゃん達が桜の木を撫でながら、こんな事を言っている。
「確か、こんなところに桜の木は無かったわよねえ」
「ねえ。
こんな立派な桜になるには何年かかる事やら」
年齢が高めの人達って疑り深いよな。
おばちゃんは女子高生のように簡単には騙されてはくれないようだった。
「うひひひ、そんなに撫でないでー。
くすぐったいから」
思わず漏れたドライアドの声を聞いて、顔を見合わせるおばちゃん達。
「今、何か言った?」
「えー、別に。
でも何か聞こえたような気もするわね」
俺は慌てて近寄ると、小声でそっと、そいつに申し付けた。
「こ、こら。
静かにしてろよ」
「だって、くすぐったいんだもの」
仕方がないな。
俺は近くにいたエドに目配せして合図した。
「あー、すみません。
御客様方。
こちらの桜には御手を触れないように御願いいたします」
「あらすみません。
まあ、いい男ね」
「ほんと、ほんと。
その格好も素敵だわ。
まるでハリウッドかどこかの俳優さんみたいじゃないの。
外人さん、どこの国の人?
日本語上手いわねえ」
「ありがとうございます。
ええ、アルバトロス国から参りました」
にこにこして大人の対応をしてくれるエド。
腕輪の機能で日本語もバッチリなエド達警備陣。
コスプレ祭りという事なので、彼らもそのまま冒険者スタイルで警備させている。
まあ、冒険者だってハリウッド映画にはチラっとは出たんだけどな。
ジョゼママ映画に関しては身内枠での出演みたいなものだから、あれは参考外なのだが。
向こうではテレビの生放送でのインタビューをやっていた。
「こちらは突如始まった市役所主催のコスプレ桜祭りの会場です。
主催者の市長さんに、御話を御伺いしたいと思います」
「あー、どうも。
いや、今年は桜も足が早いなと思っていたのですが、案外と頑張ってくれているようでして。
思わず新企画として急遽延長いたしました。
あははは」
いや、悪いねえ。
自分の政治的なバックである総理からの頼みは、彼も絶対に断れないしね。
ちょっと苦しい言い訳を手早くしながら、残りの時間は自分の実績みたいなのをいろいろと喋って、選挙の対策に余念がないようだ。
どうして、ああいう市長なんて面倒な仕事をやりたがるのかねえ。
大変なだけで、あまりいい事はなさそうなんだけど。
リベートとかは貰えるんじゃないかと思うが、そういうのもバレたら、ただじゃ済まないんだし。
ああいうのって、捕まってテレビなどで報道されるのは、大概は目を疑うほどの凄い少額なんだよな。
俺の知る限りでは、どんな市長(市長選の他の立候補者含む)でもそういう事をやっているはずなのだが、何故か捕まるのは一部の僅かな人達だし。
選挙の買収事件なんかもそうだよな。
選挙でバラまくために金が要るのかしらないが、収賄事件は捕まった時、絶対割に合っていないはず。
あれって身内の政党から背中を撃たれる事もあるから油断大敵なんだよな。
政治家という人種こそ、背中を見られる目を用意しておかなくっちゃ。
俺は持っているよ、そういうスキル。
むしろ、何か不祥事なんかあった時に市長を突き上げる議員の役の方が楽しそう。
あの役だけ俺に代わってくれないかしら。
すると、市長の後ろでテレビに映っていた子供がうっかりと風船を手放してしまった。
そういや、さっき沖田ちゃん達が風船を配っていたな。
風船には異世界風のデザインの奴もあった。
そのゴブリン軍団が剽軽に描かれた風船は桜の木に引っ掛かって止まった。
「ねえ、市長さん。
風船さんが飛んでいっちゃった。
とってえ」
「ああ、ごめんよ。
桜の木は登っちゃ駄目だからね。
もう一回貰っておいで。
今日は無料で何回でも貰えるからねえ」
そう言って子供の頭を優しく撫でる市長。
地元ケーブルテレビ局のリポーターも俺も、良い絵が撮れたので、その姿をにこやかに見ていたのだが……そこで桜の木の枝が突然に、にゅうっと伸びた。
「あ、あの馬鹿。
何をするつもりだ」
そして奴はテレビの生放送で映っている前で風船を取り、子供の前に差し出して言った。
「どうぞ、坊や」
「あ、あ、ありがとう」
子供は風船を受け取ると、びっくりして走っていってしまった。
市長とリポーターはその様子をガン見していた。
そして当然のように市長はリポーターから追及された。
「あのう、市長。
い、今のは、一体何だったのでしょうか」
「はて、今何かありましたかな」
「え」
「我々は何も見なかった。
ここでは何も無かった。
ね!」
手を後ろで組み、笑顔で胸を張って言う市長に、思わず沈黙して呆れているリポーター。
さすがは、この辺りの与党のボスだな。
面の皮の厚さを武器にした見事な力押しだった。
テレビにもちゃんと映ってしまったというのに。
その辺のゲスゴミなんかじゃなくて、市役所も出資していて市政関係も放映されるローカルなケーブルテレビのチャンネルなのだがなあ。
まあ、これくらい図々しくないと政治家なんていう職業は務まらないんだな。
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