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2016年/短編まとめ

安心しきって眠る姿に苛立った

作者: 文崎 美生

静かだ。

特別煩いと感じること自体少ないのは、幼馴染みで集まれば揃いも揃って自由だからだろうけれど、今日はいつになく静かだと思う。


オミは委員会の仕事で図書室に行ったきり帰って来ない。

MIOは美術部の友人にモデルを頼まれたとかで美術室に行っている。

部室にいるのは私と作だけで、その作は何故か人の膝の上で熟睡……意味が分からない。


すぅすぅ、と規則正しい深い寝息をBGMに、私は読み掛けの本に視線を落とす。

集中出来ない……。


半分程も読めていない本に、ブックマーカーを挟んでソファーの傍らに置く。

動いているにも関わらず、人の膝の上で眠っている本人は微動だにしない。

屍のようだ、なんてどこかのゲームを思い出す。


「……重い」


細いとは思うけど、小さいとは思うけど、人間の頭って言うのはその体重の一割ほどを占めるのだ。

重いだろう、そりゃあ重いに決まっている。


長く伸ばされた前髪に手を掛けて掻き上げれば、その奥にある寝顔が顕になった。

陶磁器みたいな白い肌に長い睫毛が伏せられていて、その胸が上下してなかったら死んでると思われても仕方無いだろう。

――それくらいに身じろぎ一つ、寝言一つない。


「死んだように眠ったって、死ねないわよ」


私の声に反応したみたいに、睫毛だけが小さく揺れる。

小さな寝息は途切れていないところを見ると、起きる気配も起きる気もないらしい。

今日の部活はまともな活動じゃないな。

いつものこと、と言われればそうかもしれない、と肯けてしまうけれど。


薄く開いた唇から涎が垂れてきそうで、顎を支えて無理矢理閉じる。

そうした時に白い喉が剥き出しになるのは、ネクタイを外してワイシャツのボタンを三つも外しているからだ。


指先でその喉を撫でれば、ぐるぐると音が聞こえたような気がした。

まぁ、普通に考えて人間の喉が猫のようになるなんてないけれど、あったら多分何かの病気。


喉に唇を近付けてみる。

胸と一緒で僅かに上下運動をしている気がするけれど、唾液でも飲み込んでいるのか。

前歯をその薄い肌に当てて見れば、うぅっ、と聞こえた唸り声。


……。

起きないにも程があるんじゃないだろうか、そっと歯を引っ込めて喉元に溜息を落とす。

擽ったかったのか、身じろぎした体がソファーから転がり落ちそうになる。

それを片手で止めて、今度は歯の代わりにくちびるを押し当てた。




***




「……作ちゃん、そこ、どうしたの?」


つい、とMIOが作の首筋をなぞる。

驚いたように肩を跳ねさせた作は、何が?と首を傾けながら、MIOを見ていた。

それからMIOが差し出した手鏡を受け取って、そこ、と言われた場所を見る。


白い首筋に薄赤の跡を見て「虫刺されかな」と爪で引っ掻く作を眺めていると、横からオミが深い溜息を吐いて「お前さぁ……」なんて言葉と一緒に、ジト目で私を見た。

鼻で笑って、その先に続く言葉を掻き消す。


薬あるよ、有難う、なんて声を聞きながら、あの喉を噛みちぎれなかった、噛み砕けなかった歯を指先で撫でてみた。

嗚呼、アンタが気付かないなら何でも良いか。

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