抽斗の中
頂き物の木箱の中。
ぎっしり詰まった私の宝物があります。
ビー玉が、子どもの頃から好きでした。
まんまるの形。
光を溶かし込んだかのような色彩。
不思議な位に引き付けられるものがありました。
幼い頃はいつも一つ、ポケットの中に入れていたんです。
家にいる時も。
お出かけの時も。
確か透明な色のものだった気がします。
にぎにぎと触っていると、何やら不思議と気持ちが落ち着いたんです。
ある日、母にデパートへ連れて行かれた時のこと。
はしゃいだ私は思いっきり転びました。
そしてその時、運悪く握っていたビー玉を手放してしまい……。
大泣きしました。
棚の下のずっと奥へ入ってしまい、もう拾うことは出来なかったのです。
無くなってしまった。
もう戻って来ない。
その事実が、どうしようもなく気持ちを悲しくさせていました。
大切なものだったんです。
もしかしたら、初めて喪失感を知った瞬間だったかもしれません。
……、まぁ、その後ちゃっかり新しいものを買ってもらっていたのですけれども。
そう言えば、昔姉へのプレゼントにビー玉をあげたことがあります。
あんまり喜んでいなかった気がします。
自分が好きなものが人も好きとは限らない。
そんなことに思い当りもしない様な歳のことでした。
あのビー玉、姉はもう捨ててしまったでしょうか?
まぁ、流石にもう覚えてはいないでしょうが……。
ガラクタと宝物の差って、案外そんなものなのかもしれません。
そんな姉には今子どもがいます。
可愛い可愛い男の子です。
もうじきクリスマスもやってきますので、姉はともかくプレゼントが必要です。
さて、何を用意したものやら……。
あの子はビー玉、好きになるでしょうか?
もっとも、そうだとしても私の宝物はあげられませんが。
抽斗の中には、もう随分と増えたガラスの宝物。
引き出せば今でも、宝石みたいにキラキラと輝いています。
撮影日2015年12月21日