22__孤独な魔王様の当惑(ただし 幸せそうです)
すーんごくお久しぶりでございます。
もはや、誰も前話など憶えておられないでしょう。
北の塔で シシィが生きている事を実感したロキと、ロキがそばにいるのに安堵しきれないシシィのお話です。
では、どうぞ。
___視点:〔東の魔王〕- ロキ___
「 …………え〜と、シシィ?」
今、俺の前には シシィがいる。
そして、俺は 両手を挙げた状態だ。
「あのね、何処にも往かないから」
俺は、起きてから何度も言ってる科白を もう1度 言ってみた。
「だからさ、そろそろ放さない?」
言った途端、ぎゅうって抱き付かれた。
俺は、惟わず 天井を仰ぎ見た。
《 駄目か。》
此処は、北の塔のキッチンだ。
俺は、料理をしたいと惟って 此処にいる。
そして、俺の手には 包丁がある。
調理台の上には、食材も出してある。
余談だけど、この食材は リクが準備してくれてた。
俺が駄目ダメ状態で泣き臥してる数日間に 北の塔へ持ち込んでくれてたんだ。
俺が いつ眼寤めて、いつ 料理をしてもいい様に。
だから、材料なら沢山あった。
これだけ揃っていれば、大抵の物は作れる。
作るメニューだって、ちゃんと決めてある。
後は 調理するだけだ。 するだけ、なんだけど……。
《 シシィが離れてくれない。》
本当に悚かったんだね、俺も 悚かったけど。
判るけど………うん、凄く判るんだけどさ。
抱き付きっぱなしは 拙いんじゃない?
ご飯 作るにしても、掃除するにしても、着替える時まで離してくれないのは困るよ。
…………可愛いんだけどね。
うん、凄く可愛い。
可愛いから困るって云うか、さ。
《 こんなの 邪険に出来ない。》
シシィは、正面から 俺に抱き付いてる。
俺の お腹にしがみ付いて 離れてくれない。
だから、俺と調理台の間にいる形になってる訳だ。
包丁 持ってるから危ないって言っても、離れてくれない。
つまり、このままだと 料理が出来ない。
「シシィ、危ないよ?」
ご飯 作るから、ちゃんと 此処にいるから、見える場所にいて いいから。
「だから、ちょっとだけ離れよう?」
包丁を持った手は、当然 自分の頭の上まで挙げてる。
万が一、毛筋程の傷でも シシィに付けちゃったりしたら、俺の精神が保たないし。
そんな訳で、空いた左手で シシィの頭を撫でてあげる。
少しでも安心したら放してくれるかな、って惟ったんだ。
でも、シシィの反応は真逆だった。
しっかり服を握って、ぎゅうぎゅう抱き付いてくる。
俺の お腹に、自分の おでこをグリグリ押し付けてる。
一所懸命 擦り寄ってくる仔猫みたいだ。
《 何これ⁈ 何これ⁉︎ ちょ〜可愛い!》
じゃなくて! 包丁 持ってるから、危ないから!
ご飯 作れないから、離れよう?
魔族の俺は兎も角、シシィは ご飯 喰べなきゃ駄目だから。
「此処にいるよ、ご飯 作るだけだから」
そう言っても、シシィは離れてくれない。
余計に しがみ付いてくる。
…………うう〜っ、可愛いィィ。
こんなの、絶対 邪険に出来ない。
《 で、でも、ご飯は必須……。》
眼が寤めて シシィを見た時には気付かなかったけど、シシィは 随分 痩せた。
元々、赤ちゃんだった時も シシィは痩せてた、と惟う。
標準の赤ちゃんが どんなモンか良く判らないから、想像でしかないけど。
それに、初めて会った時 俺の願いのせいで急に大きくなっちゃったから、成長したシシィは 幼児体型には程遠い スレンダーな幼児だった。
それが、今や 窶れて見えるくらいになってる。
《 たぶん、碌に食事を摂ってないんだ。》
だって、細くなってるもん。 腕とか、首とか。
血色が良くないのは 大怪我のせいだとしても、絶対に いい状態じゃない。
俺もショックで酷い状態だったから、あれから どのくらい時間が経ったのか判らないけど。
でも、あんなに酷い怪我だったんだ。
リク達が治癒の倆を使っても、生死の境を彷徨うくらいの怪我だった。
ひょっとしたら、ついさっきまで意識が戻らなかったのかもしれない。
なら、今のシシィの状態にも 説明が付く。
それもこれも全部、俺がシシィを独りにしたせいで……。
《 余計に 邪険に出来ない。》
俺は、すぐ下にある黒髪を瞰した。
いつの間にか成長してた俺だけど、まだ そんなに大きくなった訳じゃない。
人間にしたら、6〜7歳くらいだ。
シシィよりは大きくなったから 手を伸ばせば調理台には届くけど、シシィを挟んで漸くって攸だ。
怪我させない様に料理するなんて、出来っこない。
だから、離れてほしかったんだけど。
「シシィ、ね?」
優しく『放して』って お願いしてみたけど、やっぱり駄目だった。
終始 無言のシシィだけど、感情が伝わってくるから 言いたい事は 大体 判る。
シシィは、俺の お腹に おでこを付けたまま 全力で拒否してる。
伝わってくるのは、主に 恐怖だ。
残される恐怖、会えなくなる恐怖、独りぼっちになる恐怖。
そう云う感情が、一緒くたになって流れ込んで来る。
そりゃそうだ、俺だって悚かった。
また 独りになるかも、って惟ったら 凄く。
シシィだって、同じ思いをしたんだ。
産まれたばかりのシシィが………。
《 悚かったよね、判るよ。 判る、けど……。》
〔愛し子〕って云っても、元々 人間なシシィには ご飯が必要だ。 絶対に必要なんだ。
幾ら 特殊でも人間なんだから、いろいろエネルギー使っちゃった筈なんだから、沢山 喰べなきゃ駄目なんだ。
駄目なんだよ?
「お腹 空いたでしょ?」
そう訊いてみても、シシィの反応は変わらない。
勿論、伝わってくる感情の波も 変わらなかった。
《 駄目だな、こりゃ。》
説得は、時間の無駄だな。
仕方ない、シシィが落ち着くまで 料理は諦めよう。
「 …………リクに連絡しないとな」
俺は 包丁を持った右手を挙げたまま、溜息を咐いた。
でも、こんなのポーズだ。
だって、さっきから 嬉しくて仕方ないんだ。
いや、困ってるんだけどね。
ちゃんと本当に困ってるんだけどね。
でも、何でか 顔が綯んじゃうんだ。
口許が、頬っぺたが、勝手に 笑っちゃうんだよね。
「判ったよ、傍にいるから」
左手で シシィの頭を撫でながら、精一杯 右手を伸ばして調理台へ包丁を置いた。
《 もうちょっと大きくなってたら、もっと楽に手が届くんだけど。》
そう、俺は 15センチくらい成長してた。
たぶん、あの朝には もう成長してたんだと惟う。
着替える時 服が拮く感じたのも、そうだと惟うし。
すぐに気付かなかった俺も どうかと惟うけど。
まぁ、数10年ぶりの事だったし、仕方ないよね。
だけど、大きくなったって云っても 前と較べて、だ。
元々 幼児サイズだったから、児童サイズになった攸で そんなに手足が長くなった訳じゃない。
こうやって お腹に しがみ付かれてたら、流石に 料理なんて出来ないし。
《 ………でも。》
俺は、ずっと 抱き付いてるシシィを瞰した。
同じ身長だったのに、今は 俺のほうが頭-1ッ分くらい大きい。
だから、上から シシィの黒髪を瞰せる様になった。
「何処にも往かないよ?」
見た目よりも柔らかい髪だから、撫でると 手触りが気持ちいい。
少し寝癖の付いた髪を指に絡める様にして ゆっくりと梳いてあげる。
シシィは、相変わらず俺の お腹に顔を擦り付ける様にしてる。
《 可愛い〜ィィ。》
きっと、今の俺はポーズすら出来ないくらい ふにゃふにゃな顔をしてるんだろうな。
▽ ▽ ▽ ▽ ▽
___視点:魔王の側近 - リク___
魔王城の食糧庫にいたリクは、ふと 手を停めた。
そして、手許の野菜から 天井方向へ視線を向ける。
《 おや?》
リクは、昼食と夕食用の食材の吟味をしている最中だった。
勿論、北の塔にいるロキへ届ける食材である。
撰り質の良い食材を、と 選別していたリクは ふわりと漾ってきた魔力に 睛を瞠った。
分厚い壁を擦り抜けて届いた 濃厚な魔力は、緻い光りの粒子群となって煌めいていた。
《 これは、ロキ様の魔力か?》
紛う事なき黄金の光りに対して そんな疑問を持ったのは、その魔力の穏やかさからだった。
今までのロキの魔力は、その総量と性質も相俟って 刃を含むモノだった。
僅かにでも觝れれば、痛烈な痛みを伴うモノだったのだ。
しかし、今 漾ってきた魔力には それがない。
濃厚な魔力-故に 発信元がロキであると疑ってはいないが、余りにも普段と異なる。
一体 何故………そう惟いながら、リクは その黄金色の粒子群に手を伸ばした。
躇いながら觝れてみたが、やはり 痛みは感じない。
黄金に輝いていた光りの粒は、リクの手に綢わり付いた後、ゆっくりと消えていった。
「 –––––––––––––………… 」
直後、リクは 表情を引き締め直し、食糧庫を迹にした。
✳︎ ✳︎ ✳︎ ✳︎ ✳︎
20分後、リクは北の塔へ来ていた。
「ロキ様」
いつもの様に丁寧な礼を執りながら、リクは広いリビングへ入った。
大きく敞かれたままの扉から見えていた光景に ほっとしつつ、ゆったりと礼を執っている。
その手には、大きな盆がある。
「お食事を用意してございます」
「あ、良かった。上手く出来たか心配だったんだ」
『もう1回 連絡しようかと惟ってた』と言って、離れた場所にある3人掛けのソファにいる幼い魔王も ほっとした表情を泛かべた。
どうやら、久しぶりに使った連絡魔法に自信がなかったらしい。
ロキが こう云った事に魔力を使うのは、両親の倆で 大きすぎる魔力を抑えてもらっていた頃-以来だ。
「差し出がましい様ですが、キッチンで温め直しても宜しいでしょうか」
城のキッチンから この北の塔までは、かなりの距離がある。
作りたてを急いで持って来たが、流石に少し冷めてしまっているのだ。
「ありがとう、侑かるよ」
そう答えたロキを凝視したまま、リクは動かない。
自分から温め作業を申し出たと云うのに、だ。
彼の視線は、ロキへ向いていた。
「 ………… 」
言葉もなく竚ち尽くしているリクに気付いたのだろう。
「あぁ、これ?」
ロキは、笑みを深めて 腕の中を瞰した。
ソファに座るロキの膝の間に黒髪の幼女がいて、しっかりと抱き付いているのだ。
そんなシシィの頭を、ロキは飽きる事なく撫で続けている状態だったのである。
「離してくれないんだよ〜 」
困っているのだと言いたげに そう呟いたロキの表情を見て、リクは 複雑な顔を見せる。
《 何て お顔を………。》
リクが泛かべたのは、雍かく微笑もうとして失敗した様な表情だった。
尤も、シシィを瞰していたロキは それに気付かず、腕の中の黒髪を撫で続けている。
「起きてから ずっとこうで、着替えるのも大変で。何度も『すぐ傍にいるから』って言ったんだけど、シシィってば ちょっとも離れてくれないから、ご飯も作れなくて」
不満を陳べているのだが、満面の笑顔だ。
シシィを瞰す瞳が喜色に煕いている。
「そうでしたか」
再び 微笑に失敗したリクは、今度こそ キッチンへ歩き出した。
そして、今度は泣き出しそうな表情になった。
《 何て倖せそうな お顔を。》
ロキから見えない位置だからだろう。
リクは 泪を怺える様に、奥歯を噛み締める。
結果、苦々しい表情になっている事に、彼は気付かなかった。
短めになってしまいました。
そして、次話の予定は未定……。
い、いやっ、頑張ります!
ガンバリマスヨッ⁉︎




