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序 My cousin~従兄

 ――物心ついた時には、側に居た。

居るのが、当たり前だった。



 幼稚園年中の頃。

先生がお話をしているのにもかかわらず、何かにつけては席を離れてちょろちょろする美矢よしやを、その都度追いかけて

『だめでしょ、もお!よっちゃんはゆんのよこにいなさい!』

腕を引っ張って、隣の席まで引きずって来て、座らせていた。


 『隣の席に座っている子を、わざわざどかしていたのよ?よっちゃんの席に座ってろって』

『そうそう!しまいに先生がゆんちゃんとよっちゃんの席は必ず並べるようにしたのよね!』

ずっと後に、お母さんと絹子伯母さん――美矢のお母さんが、笑いながら話してくれた。

……そこまでは、覚えていなかったけれど。



 小学校二年生の頃。

四年生の蒼汰そうた君に、美矢がいいようにからかわれていた所に、たまたま行きあった。

半分泣きそうな顔で、美矢が拳を握りしめて黙って立っているのを見て、突然頭がかぁっとなって。

『四年生のくせに何で二年生いじめてんのよ!』

『はあ?おまえカンケーないだろ!女はひっこんでろよ』

『うるっさいっ!』

叫ぶと同時に、ぱあん!と。

派手な音を立てて、蒼汰君を思いっきり引っぱたいていた。

突然の事にびっくりした蒼汰君は反撃するどころか泣き出し、先生がすっ飛んできて、お母さんが学校に呼び出され、ちょっとした騒ぎになってしまった。

先生にもお母さんにも、叩いたのはいけない事だから蒼汰君に謝れって散々言われたけれど

『弱いものいじめするのはゆるせないの!』

の一点張りで意地を張り通してしまった。


 『弱いもの』呼ばわりされた上に、家に帰ってから事の顛末を聞いた本家のおじいちゃんに

宮江みやえの総領息子が女の子に庇われるなんて情けないと思わんのか!』

と、ものすごく見当外れな事で怒られた美矢は、恥ずかしかったのか腹が立ったのかしばらく口をきいてくれなかった。

……でも、いつの間にかまた仲良くなっていた。



 小学校四年生の夏休み最後の日。

どうしても読書感想文が書けなかったから、代わりに書いてくれないかと美矢に泣きつかれた。

『自分で読んで書かなくちゃ意味ないでしょ?ばっかじゃないの?』

冗談じゃない、と思ったけれど、何とか助けてくれと頼みに頼みこまれて。

しょうがないな、と思いながら、書いてやった。もともと作文は大好きだし、課題図書は面白くて全部読んでいたから、自分が感想を書いたのとは違う本で、ささっと書いた。

ところが美矢ときたら何を考えていたのか……多分何も考えていなかったからなんだろうけれど、それを自分の字で清書せずにそのまま提出した。

当然、筆跡で代筆が先生にばれた。


 ふたり並んで叱られて、先生が『自分で読んで書かなければ意味がない』と仰った時

『ゆんちゃんは先生と同じ事を言ったけど僕が無理矢理頼みました!だから悪いのは僕です!』

それまで泣きそうな顔で黙っていた美矢が、きっと顔を上げて、そう言った。

だからわたしも、先生の顔をまっすぐに見て、言った。

『それがわかっていて引き受けて書いたのはわたしだから、わたしも悪いです』

……悪いのは一緒。だから、怒られるのも、一緒。



 それから、少し後の事。

堀之内のばば様――お母さんのお母さんに

『おまえが宮江の一の姫なんだよ』

と、言われた。


 うちはこの島――宮江島みやえじまに、ずっと昔から住んでいて、この辺り一帯の海を支配していた時期もあった水軍の一族・宮江氏の末裔。

その直系の、たったひとりの総領息子が美矢。

そしてわたしは、美矢とはお父さん同士が兄弟で、お母さん同士が姉妹の、二重の従兄妹。

本家の総領息子に姉妹がいない場合、本家筋の従姉妹うちでいちばん年上のわたしは、昔だったら『斎姫いつきひめ』として氏神様に仕え、一族と総領の護り神となった『一の姫』なのだと。


 それを聞いた時……色々な事が、すとんと腑に落ちた。


 氏神様の御神木の楠の下で。

遊ぶ約束をして待ち合わせていた美矢に、早速、ばば様から聞いたばかりの『斎姫』の話をした。


 『いつきひめ?それって、偉いのか?』

『そりゃ、偉いよお?宮江の一族の護り神だよ?本家の総領より偉いよ。だからよっちゃんより偉いんだよ、だ』

『何だよそれ!ふざけた事言うなよ!』

『何怒ってんのよ?』

『ふつう、怒るぞ!だいたい何でおまえがそこでいばるんだっ!』

『怒んないでよ?……だからぁ、弓佳ゆみかが、よっちゃん護ってあげるんだから』

『ゆんちゃんが?俺を護るって?何で?』

『だって今は弓佳が、宮江の一の姫だもん!』


 そう。

わたしは、美矢を護るために、生まれてきたんだ。

『一の姫』として。

『斎姫』として。

いずれ『総領』となる美矢を、護るために――。


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