01_彼は万能である
―エリア551―
ざわざわと緑がざわめき、エリア内を治安維持のため見回っている監視カメラから彼を隠した。
ざわめきが大きくなる。緑の奥にいる彼は手のひらを真横に突きだし、小さく呟いた。すると空間が歪み現れたのは一本の剣。刀身は少しばかり弓なりに反れていて、手元の上には繊細な紋様が描かれた鍔。下には鈴のついた紅い飾り紐が風に煽られ揺れている。
ニホンという国のカタナというものに酷似していた。
空間からそれを取り出した張本人はというと、カタナをじっと見つめるとその場に座り込んでしまった。
「あー…出来ちまった。めんどくせえ」
彼の一言は、緑に響き消えていった。
さて、あれから約9年。平均的に成長した彼は現在16歳である。
エリア内の奥まった屋敷に、家族6人で住んでいた。アリシア・フローレン。それが彼の名前であり、彼が産まれる前にすでになくなっていた曾祖母の名前でもあった。物語には特に関係ないが。
そんな可愛らしい女の子の名前を持った彼は、現在ものすごく悩んでいた。
高級感溢れる、しかししつこくないほどの装飾がされた部屋の大きなソファーで唸った。アリシアが長い間隠してきた重大な秘密が家族にバレそうなのだ。
昨夜、軍関係者が自分の屋敷にやってくる光景を見た。これはやばい。アリシアはごくたまにだが、このような未来予知のような能力が発動する。大抵の場合当たるが、コントロールが効かないのでどうしようもない。
だが、昨夜見たのは幸いだったかもしれない。少しは言い訳を考えることが出来る。その秘密はノアとしてはやってはいけない隠し事なのだ。
玄関の前には大きな門がある。その門の鈴が、屋敷に響き渡った。来た。軍関係者がやって来てしまった。
現在屋敷に居るのは上の兄1人に姉が2人。一番上の兄は軍人であった。だからいま屋敷にはいない。
なにより、アリシア自身、一番上の兄、ルーカスは恐怖の対象では無かった。それより、二番目の兄と姉たちがやばい。その恐怖の対象が揃いも揃って今日は家にいる。
部屋を出ようか出まいか迷って、扉付近をうろちょろしていると、ごんごんとけたたましい音で扉を叩かれた。
「ねーアリシアちゃん。いま軍人が屋敷に来たんだけど…。
あんた何かしたの?」
やばい。だらだらと冷や汗が首筋を通りすぎる。扉の向こう側にいる姉が怖い。無言を貫き通していると、またもやガンガンとノックされた。
「出てきなさい。アリシアちゃん」
「はいぃぃぃ!」
「へえ、アリシアちゃんって能力者だったの」
「あら凄いわアリシアちゃん。」
「そんなこと、僕たち、ぜんっぜん聞かなかったなあ…?」
「ひぃぃぃ!」
応接間のソファに向かい合うアリシアとその兄、そして姉たち。ルーカスが居ない今、アリシアを救ってくれる人はいない。
がたがたと震えるアリシアを他所に、軍関係者がピラリとアリシアのまえに書類を置いた。
「アリシア・フローレン。一緒に来てもらおうか。」
平和な日常が崩れ去った瞬間だった。
軍関係者が見せたのは兵役書類(一部では赤札と呼ばれる)だ。これにサインをしてしまうと、二階級特進するか、能力が使い物にならなくなるまで任務をこなさなければならない。ちなみに二階級特進とは戦死のことである。
やりたくねえ!!
アリシアが今まで能力を秘密にしてきたのは、軍人になりたくないが為であった。
しかし兄、ビルはすでにペンを持ってさらさらとサインをしてしまっていた。
「兄ィィィ?!」
「いいじゃないか。お前家にいてもゴロゴロしてるだけだし」
「そうよ。邪魔よ」
「軍服似合いそうだとずっと思ってたの!」
いいのか。一番下の末っ子が軍で馬車馬のように働かせられてもいいと言うのか!
いいのだろう、別に。アリシアは兄たちの発言を聞いて思った。てかオレがニートみたいな言い方すんなよビル!邪魔って何だよニーナ!レイナは前から自分にコスプレをさせる趣味があったから想定内だ。
「明朝、アレイオスで」
サインを受け取った軍関係者は、それだけ言って屋敷を出ていった。