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悲劇になれない話

作者: 蜜ハチ


お貴族様の夜のお遊び――社交

頭にはかぶれない帽子をくっつけ男は代わり映えのないタキシードに身を包む。




(流した愛は元に戻るか それとも覆水盆に戻らずとして終わるか)


風でドレスの裾が揺れる、彼の為に新調したものが忌々しい




愛していたと思っていた、愛されていると感じていたのは私だけだったのか。

センは知らず零れている涙が頬を伝いその存在が分かるまで、自分の感情がわからなかった。

怒りや嫉妬や絶望感、悲しみといった負の感情が己の中を渦巻いているのを苦しいと感じていた。

この渦をなんだ、と言われても一言では到底納めようがなかった。


眼前で行われている、男女の紡ぎから目が離せない。

もちろん驚愕ではない、否それも含まれているのだろうが、もっとセンには深いものがあった。


おせん、と後ろで呼ぶ声がしてびくりと体を震わせる。

その声は目の前のそう遠くない距離にいた二人にも聞こえたようで――ー顔を上げる。



見間違いではなかった。

目の前にいる男は、自分の婚約者であった。



















後日の話である。




「ねえおせんさん?いい加減許してあげたら~?」

「なんえっ」

「はいはい泣かないよ~おせんはいいこだよ~」

「NO thank you!Fuck you!」




ぐずぐずという泣き声がベッドの中から聞こえる。

もっと言えばこんもりと盛り上がったシーツの中からだ。


「あら、英語だなんて元気じゃない~、心配して損したわ~」

「おせんは泣いててもこんな感じなのよ、全くなんて面倒な…」

「酷い酷い酷い…」


しくしくしく・・・グズッとまた泣き始める、それを女友の二人はどうしたもんかと、ため息をついた。

まったく、人が慰めに来てやったというのに泣いてでてきやしない。

こんな餓鬼みたいな真似して、せっかく来てやった友人に顔を出さないだなんてなんて恩知らずなのだろう。

こーんな心の声をおせんが聞いていればさらに「頼んでないもんんんん」とぐずぐず泣くだろう。


さて、ここはおせんの寝室である。

おせんは一応お貴族の端くれであるため目立った調度品はないが一応見れる室内である。

ほとんどが茶色で統一されぱっとはしないところがおせんらしいのだが、まあもっと女の子の部屋だもの、夢とか可愛らしさとかピンク色な何かがあってもいいのではないか。

そんな感想が出てきそうな出てくる室内の、奥に置かれたベッド横のテーブルで二人は優雅にティータイムをくつろいでいた。

もう一度言おう、く つ ろ い で い た 。


慰めに、という二人だが一向にそんな気配は見せずに二人できゃっきゃうふふではないが談笑をまぜつつ、これが最後だみんなで言おう、くつろいでいた。



「あんたらあああなんなのよおお」


なんて正直なお言葉だろうか。


「え~?なぐさめにねえ~」

「ほほほ、もっと私たちを敬っていいのよ」


これが本当に慰めなのだろうか、その定義がわからない、彼女たちの気持ちが理解できない。



「まあ冗談はともかく」



ごほん、と二人は目を見合わせて居住まいを正す。

これで何も言わなければ見直すところだが「あんたもよっ不公平でしょう」と蛇足がついた。


仕方なしにすっぽりと顔だけシーツから出すと二人は口を覆う。よよよ。


「きたないわあ~人に見せられないわ~」

「あんた本当におんな?」


そろそろ怒ってもいいのだろうか、何しに来たんだ本当にこの二人は。


テーブルに座る二人を見る人はまず「どっちがいいかな」と思うだろう、二人は個性が分かれていた。

ほわっほわの飴色の髪をした見てて和む、笑顔にハートをぶち抜かれる美少女マイリー。

ゴージャスな金髪に青い目に赤い唇、憂鬱な表情のに会う魅惑的な女性エレーン。


さて、しかし驚くなかれ先ほどから語尾が伸びてマイペースそうなのがエレーン。

そしてずばずばと口をはさむのがマイリーなのである。


二人で話しているところを見ると「副音声?」と思う人も、いた。「あれ、言葉が後から・・・」と言う人もいた。

それほど二人はなんだか、でこぼこであった。神様がきっと中身を入れ間違えたのだ。


日常であればお話しに花咲き、ツーと言えばカーと戻ってくる気持ちよい三人であったが、今はなんだか嫌いになってきた。

おせんはわあっと泣いてシーツに顔を伏せる。


「かえってよううう」

「そうね~」

「かえりましょうか」


え、と顔を上げると、本当に椅子から立ち上がる二人。

え、え、え、何しに来たんだこいつら、と驚愕して声をかけられない。



二人はつかつかと簡素な扉から出て行ってしまった。



「え、え、え、え、……うわーーーーんっっっ」


自分で言ったくせになきはじめるのであった。





































「どうでしたどうでしたおせんさんはあああああ?!」

「お~ち~つ~い~て~」

「うるさいのよっ男でしょうにッッ」


二人はうんざりしてマイリーなんぞ男の尻を扇子でぱしりと叩いた。

おとこは頭を抱えてうんうんと唸りだした。それを二人はいたいものを見る目で見ている。



「違うんだおせんさんんんんん…あれは…あれはああああ!!!!!」

「あら私をおせんと間違えてる~?」

「失礼な話ね」



どっちが、という話はさておき。

一人悶々と一人芝居を繰り広げ始める男に対して、二人は口々に、約束のドレスあさってまでにお願いね、など言ったからにはお買いなさいね、など言いたい放題ほくほく顔である。

まあようするにだ、これが買収行為であろう。



「おせんね~聞く耳持ってなかったわよ~」

「泣いてね、全く可哀そうに」


本当にそう思っているのだろうか。


「やはり…!ああ、繊細なおせんさんをぼかぁ、ぼくはあああああ…」

「しにましぇ~ん?やだ、私たち若いからわからないわよ~」

「男はがっしり構えてないといやだわ」


もう一度ぱしり、とお尻を叩く。ひゃんっと声をあげるが二人はスルーした。

さて、この男ゲイルがあの睦言を行ったとされる、おせんの婚約者だ。

顔は整っており、鼻が高く体系もスマートかつがっしりしているからか、男らしい男前ではあるのだが。


「ねえ~私たち帰ってもいいかしら~」

「なんだか馬鹿らしくてやる気がちっとも出てこないし」

「何をおっしゃいますっおふたりがいなければ、私たちはっ…」


言うのも怖いのだろう、最後の言葉は聞こえなかった。

よよよ、と項垂れるゲイルに二人は各々の言葉で思った。


「は~めんど…」

「いっそのことここで別れさせたろうか」

「いやああああああああ!!!!」


男は扉に猛ダッシュで走った、そして叫んだ。おお。



「おせんさん、私です、ゲイルです!!出てきてください!私が好きなのは貴方だけなのです!!!!」



必死の叫びにも扉の中からは何も聞こえない。

ドンドンドン!とこぶしが扉をたたく。



「あれは、あれは事故なんです!あの奥方とぶつかったときにのヒールが折れてしまってっっ

仕方なく、その、運んでいただけなんです!荷物なんです!女性じゃないんです!!」



そう、おせんが見てしまったシーンとはもうオーバー40の奥方をゲイルがいわゆるお姫様だっこしていたところであった。

ゲイルはこんなヘタレであるが一応王国騎士である。目の前で貴婦人を放っておくだなんて騎士の名折れだ。

ということでゲイル曰く運んでいたところを見られてしまったと。

貴婦人を助けたことが騎士の名誉であるならば、今その貴婦人を荷物扱いしていいのか、と二人は思う。

さすがは愛すべき馬鹿である。



「おせんさん…!おせんさん!」

「…」

「愛してるんです、おせんさんだけを!貴方なしでは生きていけないんです!!!」

「「よく言った!」」


二人は拍手を送る、マイリーなぞはひゅーひゅーと口で言った。

いらないやじ馬である。お前はどこのおばちゃん達、否おっさんなんだ。

しかし扉は固く閉じられ物音ひとつしない。

あーあ、何時帰ろうかな~と二人が思った、その時だった。


スラッ


ん?…ゲイルが、剣を出して…?



「扉を壊すのかしら~」

「ロマンチックじゃない!やれやれ!!金は払いなさいよ!」



すっかりやじ馬である。



「貴方が出てこないならこの二人を殺します!」



二人の開いた口がふさがらない。



「そして私も死にまう!」

「は?!なんで私たちも巻き込まれなきゃなんないのよ!いい加減にして頂戴!」

「私たち関係ないじゃない~!なんで~?!横暴よ横暴~」

「わたしたちの幸せの為なんですう!」

「うるさい!ばかっ!可愛くない!!なんなのその口調!!」

「ふざけないでよ~~~~!!!」


いや、ゲイルはふざけてはない、混乱しているのだ。

目は爛々と光り、二人を見据え刃物を向ける――ーその姿はまさに。



「あ、悪人面・・・!」



犯罪者である。

二人は素早くシフトを素早く変えて、くるりと顔を扉に向けた。


「ちょっとあんた早くでてらっしゃい!!!あ、鍵しめてる!」

「浮気じゃなかったんだし~こ、こんなに愛されてていいじゃな~い!」

「そ、そうよ、こんな旦那様いないわよ!もったいない!!許すなら今よ!」

「お二人共もっと言って下さい」


立場が変われば言葉も変わる、悲しいかな彼女らにはこれ以上慰めの言葉もほめの言葉も思いつかなかったがやればできるもんである。

考えなくても言葉がすらすらと出てきた。



「あ、あ、あ、あんたのこと愛してるって!すごいわよ、普通こんなにあいされないわよ!」

「羨ましいわ~!絶対この人浮気なんかしないわ~~!だから出てきてちょうだ~い」

「…おせんさん、残念です」


――ー二人は目を見開いた――ー目の前で剣が仰がれる――ー。

この緊張状態で、いやだからなのか、この瞬間は二人とも冷静であった。

状況を、冷静に、第三者の目線としてとらえている自分がいたのだ。



――ーゲイルは泣いていた。もう目は爛々としてはおらず、純粋な目からぽろぽろと涙が零れていた。

廊下にいる男の背後からは場に不釣り合いな光がさしていた。

丸く切り取られた窓から優しい日の光がさして、おとこを照らす。

なんて美しいのだろう、

そう感じずには居られなかった。


…状況が状況でなければ、の話だが。


ゲイルの目がターゲットを絞る――ーエレーンであった。


「ちょ、なんでわたし~…?!」

「よかった!わたしかわいくて!」



私もかわいいじゃないの~!というエレーンに、ゲイルは狙いすまし――ー準備完了、した。

顔色をさっと失ったエレーンがマイリーを目の前に押し出そうとするが、マイリーも負けていなかった。

火事場の馬鹿力と言うのか、押し出そうとするエレーンを逆に押し倒し、なんとゲイルの目の前に倒してしまったのだ!


倒れ、ハッとしたエレーンが見上げるそこで――ー刃が光った。








「いやああああああスプラッタアアアアアアア!!!!」

「いやああああああ!!!!!!てめえらうらんでやるからなあああああ!!!!!」


追い詰められないと出てこない言葉だった





「まって!!!!!!!」





ぴたり、と刃が止まったのは、エレーンの頭すれすれまで来てるところであった。

彼を罪人の道から踏み止ませたのは、ほかでもないこの事件の首謀者…


「おせんさんっっ!!!」

「ごめんなさいゲイルさまあああっっ!」


ひしっと抱き合う二人、日の光は二人を祝福し、遠くからは鳥のさえずりが聞こえ、足元ではエレーンが口から泡を吹いていた。



「ごめんなさいっごめんなさいっ貴方を信じ切られなかった私を許してっっ」

「いいんです…わたしこそあなたをこんなに泣かせてしまって…っ!」


ぐすっぐすっ…

またおせんが泣き始めたのだろう、それを愛しそうに撫でるゲイル。

彼の腕に抱かれ、仲直り…胸一杯、腹いっぱいもういっぱいいっぱいである、マイリーにとっては。




「…私も恋、しよーかなー…」



もはや怒りを通り越して感動してしまった。

そして、その時はこの二人を思う存分巻き込んでやると心に決めたマイリーであった。








...END





某漫画にて「ドン・キホーテ」は喜劇であり悲劇である、みたいなことを聞きまして。

悲劇→喜劇にしてみたくて書きました。


なんだかごっちゃごっちゃになりましたが笑ってもらえればうれしいです。

ではでは!











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[一言] ふ、吹いちゃった! はじめましてこんにちは。 おせんちゃんって言うとどうしても江戸っ子風町娘が頭に浮かんで可愛いなーとか、愉快すぎる婚約者の吹っ飛んだ思考回路とか、その他の細かいネタとか、…
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