出発
あれから一度勇者と別れクエストの準備をする為家へ帰ってきた。
俺と勇者が一時的とは言えパーティを組むとなりギルドに居た周囲の人間からは好奇の目が向けられザワザワとしていた。受付の人なんて「こんな場面に立ち会えるなんて受付冥利に尽きます!」といつも以上の素早さでクエスト受注の手続きを済ませてくれた。
どうやら勇者は俺が思っている以上に有名で注目されているらしい。あんな場面で「やっぱり辞めます」というような度胸は残念ながら持ち合わせていない。
……嫌だな逃げたいなぁ。
いや、そんな事したら多くの人に迷惑がかかる。それに考え方によっては良いチャンスじゃないか、勇者にカフカとの関係を聞こう!勇者率いるパーティがハーレムなんてのはあくまで噂じゃないか!……でも、どうやって?急に聞くのは変だよな…てか道中そもそも何話せばいいんだよ……。と、言うか勇者の口からハッキリ言われたら立ち直れ無いかもしれない。
結局俺はどんよりとした気持ちを抱えつつ勇者との待ち合わせの南門の前に行く。
ん?なんだあれ、めっちゃ人だかりが出来てる。もしかして…人だかりに近づいてみる。中心では案の定と言うべきか待ち合わせの相手の勇者が囲まれている。
「ハッハッハッ!焦らなくても大丈夫さ!順番に相手してあげるからね僕の愛しいファンのみんな!」
勇者は周囲のファンに笑顔でサインや握手をしている。しかしそんな丁寧な対応のせいかなかなか人だかりは解消されない。俺はどうしたものかと眺めていると勇者と目が合う。
「あ、ごめんね!ファンに囲まれちゃって、ちょっと待っててくれるかな?」
急に話しかけられてビクッとしてしまったが何とか頭を縦に振り了承の意を伝える。しかし、そんなやり取りを見た周囲のファンはザワザワと何か話しながら波が引くように去っていく。
「おいS級冒険者のジルだぞ」「あの噂ほんとだったんだ!」「言ったろ?俺は見たんだよ2人のS級が組む瞬間を!」「やっぱり怖え、でもオーラやべぇな」「ね、もう行こお二人の邪魔になってるわ」
……断片的にしか聞こえなかったけど怖いとか邪魔とか言われてなかったか今。
「もう良いのかいみんな?それじゃあ、お待たせ。と、いうか自己紹介がまだだったね!僕の名前はレイス・ノーレス!女神様に選ばれた勇者さ!よろしく!」
過ぎ去るファンや落ち込む俺を特に気にした様子もなく勇者…もといレイスが自己紹介をする。
「…俺はジル。一応S級冒険者だ。」
言葉に詰まりながらも何とか自己紹介を返す。言った瞬間にぶっきらぼう過ぎたかと思うが、レイスは「なるほど只者じゃないとは思っていたが…」と何やらこちらには聞こえない声量でブツブツいいながら、こちらを興味ありげに見てくるだけだった。
「そ、そろそろ行かないと日が暮れるんじゃないか?」
「そうだね、今回限りの即席パーティだがよろしく頼むよ!さぁ出発と行こうか!」
……こうして、何の縁が分からない俺と勇者の冒険が今始まった。




