1-2:仲間の喪失と魔女との出会い
かつて帝国に併合される前のラントスには、異教の神々とそれらを敬う先住民らが住んでいた。帝国人がこの地に攻め入った際、先住民らは自分の土地がよそ者の麦畑になるのを遠目に見ながら、安住の地を求めてさまよい歩いた。<黒鉛の森林>はそんな人々が逃げ込んだ場所の一つであり、近年は追放者や犯罪者の隠れ家としても知られている。社会からつま弾きにされた人間が単独で、あるいは束となって暮らしているのだ。
そういう意味では我々も彼らと同じだ——馬の蹄が枝を踏みしだく音を聞きながら、クロトールは一人思考した。帝国人は通常、この森を不穏な場所とみなしているから、中に入ることはおろか、近づくことすらない。通常の帝国人にこの森を訪れる理由はなく、多くはその実態をろくに知らぬまま一生を終える。農民、職人、商人、貴族。身分に関係なく、ほぼ全員がそうだ。
結局何が言いたいかというと、三人がこの地に飛ばされたのには、それなりの理由があるということだ。最年長のファリオンは揺るぎない信仰心によってこの地へやって来たが、一方で彼の余りある熱意は、周囲からいたく煙たがられていた。
ひねくれ者のロナスの方は、組織の決まり事をいくつも破ったことで首都から左遷されている。僻地へ派遣される審問官のほとんどがロナスと同様の事情で首都を離れており、悲しいことに、それはクロトールにも当てはまった。
「それで、新入り。お前は何でここに来たんだ?」
クロトールは、いつの間にかロナスが自分の横を歩いていることに気づいた。せり出す枝葉や羽虫に気を取られていたせいで、彼の接近に気づかなかった。
「”聖人”ファリオンのように崇高な目的で来たのか? それとも向こうで何かやらかしたのか?」
「おそらくあんたと似たような理由だ」
木の枝が顔にあたって落ち着かない馬をなだめながら、クロトールは答えた。
「首都の”同志たち”は私の行動にうんざりして、ついに追い出すことを決めたらしい。彼らは懸命に知恵を出し合って、私という問題児を組織から遠ざけることに成功したんだ」
「あんたに他人を困らせる才能があるとはね。人は見た目によらないな」
ロナスはクロトールの頭頂部からつま先までを眺めて言った。今年で三十七になるクロトールは、額に刻まれた皺と骨ばった頬のせいで、必要以上に厳めしく見えるのだった。
「いったい何をしでかした? 酒か? 女か?」
にやにやと尋ねるロナスを無視することもできたが、クロトールは話を続けることにした。未だ心にくすぶる不満が、言葉にすることで多少は和らぐのではないかと期待したのだ。
「正直、心当たりはいくつかあるが、最終的な決め手となったのは、規則違反だろう。私は真夜中に独断で門を開けて、物乞いの女に薬と飲み水を分け与えた。良かれと思ってやったことだが、翌日に騒ぎになってな。とかく善行と規則の両立は難しい」
ぽかんと口を開けたロナスがこちらを見返す様は、どこか滑稽だった。
「嘘だろ? たったそれだけで?」
「元から気に入らなかった私を追い出すには、十分な理由だ」
とクロトールは答えた。
「さっきも言ったが、私は組織の中で常に腫れ物扱いされていた。周りからは”何を考えているか分からない”とか、”協調性に欠けている”とか、散々言われたな。連中は長らく私を煙たがっていたから、今回は目的のために一致団結したんだろう。彼らの美しい友情が発揮された結果、私がここにいるわけだ」
すると、それまで背を向けていたファリオンが立ち止まり、振り返った。彼は先頭を歩きながらも、後方で展開される話に耳を傾けていたのだ。
「弱者の救済は、信徒の義務の一つだ。それなのにお前の仲間は、お前の善行に見向きもせず罰したのか?」
「おそらくですが、あの物乞いは罠だったのでしょう」
クロトールは少し間を置いた後、答えた。
「後々思えば、女の挙動にはいくつか不自然な点がありました。きっとあの出来事は仕組まれた茶番で、女は私を陥れるために雇われた役者だったのでしょう」
「それならますます許しがたい。君の推測が正しければ、処罰されるべきは君ではなく、同僚の方だ」
ファリオンは拳を握って怒りをあらわにした。ロナスが“聖人ファリオン”と揶揄したように、彼はまさしく正義の権化だった。
「私が首都に戻ることがあれば、君への誤解を解く機会もあろうが——」
「ありがたい言葉ですが、ファリオン、私にはその気持ちだけで十分です」
これは社交儀礼ではなく、本心だった。正直に言えば、物乞いのために門を開けたことは後悔していないし、<黒鉛の森林>に派遣されるのも苦ではなかった。むしろ同僚たちから遠ざかる喜びの方が大きく、清々しささえ感じていた。
「私の今の居場所はここですから。この森では私のような嫌われ者さえ必要とされている。そうでしょう? <黒鉛の森林>を進むなら、仲間は多い方がいい」
「ああ、やる気に満ちた新人が来るのはいいことだな」
ロナスが再び茶化す風に言ったが、前回のような悪意は感じられなかった。新入りの身の上話を聞いた彼の心に、多少の変化が生じたのかもしれない。
「さっそく仕事をたたき込んでやりたいところだが、まずは安全な場所まで移動しないとな。このまま進んで、分かれ道を左に曲がればフェン・エノックという村に着く。案内してやるから、よそ見してはぐれるなよ、新入り」
「勝手にチームを取り仕切るな、ロナス。いつからお前がリーダーになった? 私はこの通り、まだ健在だぞ」
ファリオンがすかさずロナスをたしなめたが、その口元は笑っていて、目じりには柔らかい皺が寄っていた。三人の関係性は以前より穏やかになり、その変化は不気味な<黒鉛の森林>を進む勇気を与えてくれた。
この仲間たちとなら、首都にいた頃より上手くやれるかもしれない。そう思ったクロトールは口元を緩め、ほんの一瞬笑みを浮かべた。それを試みるのはずいぶん久しぶりな気がした。
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