【短編版】スキル【リサイクルショップ】で捨てられた悪役令嬢(英雄)や神器を仕入れて修理したら、いつの間にか最強国家になってました 〜捨てられ貴族の楽しい領地改革〜
本作は短編です。連載版は下記リンク等から。
https://ncode.syosetu.com/n0648lo/
王都にあるサイハーデン伯爵家の屋敷で、わたし――【リオン・サイハーデン】の運命が決まろうとしていた。
「……リ、リオン様のスキルは……【リサイクルショップ】、です」
教会から招かれた老神官が、困惑しきった声でそう告げた。
その瞬間、豪華なシャンデリアが輝く広間が、氷ついたような沈黙に包まれる。
この国には生まれた者が必ず受けなければならない「儀式」がある。
8歳を迎えた日に行われる、【洗礼の儀】だ。
この世界に生まれ落ちた人間は誰しも、創造の神により、固有のスキルを与えられる。
剣術スキルを与えられれば、一夜にして剣の達人となる。
魔法スキルなら、魔法を自在に操れるようになる。
スキルは一度与えられると一生変えられない。それゆえに、なんのスキルを授かるかが、今後の進路を決定づけるといえた。
「……なんだそれは? リサイクル、だと?」
玉座のような椅子に沈み込んでいた父、【クヅチチ・サイハーデン】伯爵が低い声で唸る。
無理もない。この世界に、リサイクルショップなんて言葉は存在しない。
だが、前世の記憶を持つ「転生者」であるわたしには、その意味が痛いほど分かってしまった。
(リサイクルショップ……不用品買取屋さんってこと? 剣と魔法の世界で?)
神官が冷や汗を拭いながら、水晶に浮かんだ詳細を読み上げる。
「ええと、効果は……『ゴミを拾い、あきんどのように売り買いする能力』……のようです」
その言葉が引き金だった。
クヅチチ父様の顔が、湯気を上げるほどの怒りで真っ赤に染まる。
「ゴミ拾いだとぉぉっ!?」
父様の怒声が広間の空気をビリビリと震わせた。
我がサイハーデン家は、代々「剣」と「魔法」で国に尽くしてきた武門の名門だ。一族からは騎士団長や宮廷魔導師を多数輩出している。
そんな名家に、商人でさえ下等とされるこの世界で、「ゴミ拾い」などという訳の分からないスキル持ちが生まれるなど、前代未聞の恥さらしだった。
「ぎゃはははは! 聞いたか兄貴! ゴミ拾いだってよ!」
「傑作だなリオン! 幼い頃は『神童』だの『天才』だのともてはやされていたが、化けの皮が剥がれたな!」
後ろで控えていた双子の兄様たち……【ゴッカニー】と【ミスニー】が、腹を抱えて品のない笑い声を上げた。
わたしは幼少期、前世の知識を使って少し大人びた発言をしていたせいで、周囲から勝手に期待されていたのだ。
ゴッカニー兄様とミスニー兄様はそれが面白くなかったらしく、わたしの転落を見て溜飲を下げている。
(やれやれ……。神童扱いも面倒だったけど、こっちはこっちで騒がしいなぁ)
わたしは内心で大きなため息をついた。
元々、わたしは争いごとや面倒な出世競争が大嫌いだ。
前世でも、休日にふらりとリサイクルショップを巡り、ジャンク品を購入・時に修理してはニヤニヤするような、地味で平穏な生活を愛していた。
だから、この堅苦しい実家の空気には、ずっと息が詰まる思いだったのだ。
「リオン! この恥さらしめ。貴様のような『ゴミ拾い』を置いておく場所など、この屋敷にはない!」
クヅチチ父様はわたしを汚物を見るような目で見下ろし、冷酷に告げた。
「リオン、貴様を本日付けで廃嫡とする! 今日中に荷物をまとめ、辺境にある我が都市『デッドエンド』へ向かえ」
「デッドエンド……あの、二つの魔境と接する不毛の地ですか?」
この国の東の果てにある廃棄都市……デッドエンド。
そこは、荒れ狂う『死滅海』と、塩害によって真っ白に染まる『白骨樹海』に挟まれた、最果ての地だ。
「そうだ。あそこは我が領地の『ゴミ捨て場』のような場所だ。貴様のスキルにはお似合いだろう?」
ゴッカニー、ミスニー兄様たちが「ざまぁねえな!」と囃し立てる。
要するに、厄介払いだ。8歳の子供に、死ぬまで辺境のゴミの中で這いつくばってろという宣告。
普通の子供なら、絶望して泣き崩れる場面だろう。
でも、わたしはこみ上げる笑いを必死に噛み殺していた。
(やった……! やったぁぁ! 面倒な貴族の義務から解放されるじゃあないっ。それに……わたしのもらったスキル……結構良い感じだよ?)
ゴミを拾って、直して、活用する。
それはまさに、わたしが前世で愛してやまなかった趣味そのものだ。
しかも、追放先の「デッドエンド」と言えば、荒海にのまれた船の残骸や、魔物の死体が転がる不毛の大地。
つまり――わたしにとっては『宝の山』だ。
「承知いたしました。お父様、兄様たちも、今までお世話になりました」
わたしは殊勝な態度でペコリと一礼し、心の中でガッツポーズを決めた。
実家という名の檻から脱出成功。
ここからは、誰にも邪魔されない、わたしの楽しいリサイクル・ライフの始まりだ。
◇
数日後。
ガタガタと揺れるボロ馬車から降り立ったわたしを待っていたのは、想像を絶する光景だった。
「……わぁ、ひどいなぁ、こりゃ」
場所は、デッドエンド。白骨樹海の中に建てられた領主の館。
……とは名ばかりで、その建物は屋根が抜け落ちた廃墟だった。
鼻を突くのは、強烈な潮の香りと、何かが腐ったような饐えた臭い。
庭は背丈ほどの雑草が生い茂り、そこかしこに錆びた剣や、壊れた鎧、腐った家具が不法投棄されている。
わたしの到着を聞きつけ集まってきた、近隣の村人たちは痩せ細り、遠巻きにわたしを見ながらヒソヒソと噂していた。
「また新しい領主様か……」
「あんな子供じゃないか。口減らしで捨てられたんだな、可哀想に」
「どうせすぐ死ぬさ。こんなゴミだらけの土地、住めるはずがねえ」
確かに、普通なら絶望するだろう。
でも、わたしの目にはまったく別の景色が映っていた。
「すっごーい……全部『資源』じゃない!」
わたしは誰にも見られないよう、館の裏手へと回った。
足元には、錆びだらけで刃こぼれしたショートソードが転がっている。
わたしは小さな手で震えながらそれを拾い上げた。
念じると、視界に半透明のウィンドウが浮かび上がる。
~~~~~~~
【ユニークスキル:リサイクルショップ】
▼現在の状態
店長:リオン・サイハーデン(8歳)
所持RP:0 RP
▼機能
【買取(売る)】:不用品を回収し、ポイントに変える
【販売(買う)】:ポイントを支払い、修繕・改造などのサービスを受ける
~~~~~~~
「よし、正常に作動してる。……いっちょ、試してみよっか」
わたしは錆びた剣を握りしめ、心の中で念じた。
――【買取(売る)】。
シュンッ!
手の中にあった鉄屑が、光の粒子となって吸い込まれるように消滅した。
同時に、頭の中で小気味よいレジスターの音が響く。
『チャリン♪ 15RPを獲得しました』
ウィンドウの所持ポイントが『0』から『15』に増えた。
「あはっ、本当に売れた! しかも、消えたゴミは亜空間(倉庫)に入ったから、手元もスッキリ!」
興奮したわたしは、目の前にある巨大な粗大ゴミ――半壊した馬車の残骸に手を触れた。
撤去するだけで大人数が必要な厄介物だ。
「【買取】!」
シュバババッ!!
一瞬にして馬車の残骸が消え失せ、更地になった地面が現れる。
『大型粗大ゴミを買取。350RPを獲得しました』
「すごーい! お掃除も運搬もいらないよ。ただ触れて『売る』だけで、環境美化完了、おまけにポイントまで貰えるなんて」
そこからのわたしは、キャッキャと庭中を走り回った。
朽ちた柵を売り、割れたツボを売り、雑草すらも根こそぎ「売却」していく。
みんなが嫌がるゴミの山が、わたしにとってはオモチャ箱にしか見えない。
一時間後。
あれだけ荒れ放題だった屋敷の前は、まるで新築予定地のようにピカピカになっていた。
そして、わたしの所持ポイントは【5800RP】まで膨れ上がっていた。
「ふぅ、いい汗かいたぁ。……さて、次はこの貯まったポイントで『買い物』だね」
わたしは拾っておいた一本の短剣を取り出す。
錆びついて鞘から抜けない、完全なガラクタだ。
でも、わたしには分かってる。これは磨けば光る。
わたしはウィンドウの【販売(買う)】タブを開く。
そこには、稼いだポイントで交換できる「サービス一覧」が並んでいた。
①【市場調査】
②【商品修繕】
③【仕様変更】
「選ぶのは当然、②の『商品修繕』!」
短剣を選択すると、見積もりが表示された。
【修繕費用:300RP】
【実行しますか? YES/NO】
わたしは迷わずYESをポチッ。
直後、短剣が淡い緑色の光に包まれた。
――ヴィィィィン……ピカーッ!
光が収まると、そこにあったのは赤錆だらけの鉄屑ではない。
曇りひとつない銀色の刀身。研ぎ澄まされた刃。柄の革も新品のように張りがある。
まるで、今さっき王都の工房から出荷されたばかりの「新品」だ。
「……うん、完璧。新品同様どころか、完全に直ってる」
わたしは蘇った短剣を振り、ヒュンと風を切る音を楽しんだ。
8歳の子供の腕力でも、これなら戦えるかも。
ゴミを拾って(売って)、ポイントを稼ぐ。
そのポイントで、ガラクタを宝物に再生(買って)する。
元手はゼロ。リスクもゼロ。
あるのは、無限の資源と、わたしの好きなようにできる領地だけ。
「これ、追放刑じゃなくて……ただの『ボーナスステージ(楽園行き)』じゃない?」
わたしはニシシッと悪戯っぽく笑うと、次のメニューに指を伸ばした。
拠点の掃除と武器の確保は終わった。
次は①の【市場調査】だ。
わたしは期待を込めて、ウィンドウに表示された①の【市場調査】をタップした。
検索条件は、『この近くに落ちている有望な廃棄物(人材)』だ。
ピロンッ!
軽快な通知音と共に、目の前の空間に周辺の3Dマップが展開される。
すると、館の裏手に広がる『死滅海』の波打ち際に、一つだけ強烈な赤色の光点が点滅していた。
『検出完了。レアリティ【SSR】の廃棄物を発見しました』
「えっ、SSR!? いきなり大当たりじゃない!」
わたしは思わずその場で小躍りした。
SSRなんて、前世のソシャゲでも滅多にお目にかかれない代物だ。
わたしは逸る気持ちを抑えきれず、海の方角へと小さな足を走らせた。
◇
館の裏手に出ると、そこは地獄のような光景が広がっていた。
ズズズゥゥン……バシャァァァン!
鉛色の波が、岩場に激しく叩きつけられている。
ここが、生きとし生けるものを拒む海――『死滅海』だ。
鼻を突くのは、強烈な磯の香りと、鼻の奥がツンとするような薬品の刺激臭。
海面から立ち上る飛沫には微量の呪毒が含まれていて、普通の人間なら吸い込むだけで気分が悪くなるだろう。
「うぅ、臭いなぁ……。でも、お宝のためだもんね」
わたしは鼻をつまみながら、マップが指し示す砂浜へと降り立った。
そこには、波打ち際に打ち上げられた「ボロ雑巾」のような物体が転がっていた。
「うわぁ……」
近づいてみると、それは人間だった。
豪奢なドレスを纏った、長い髪の少女だ。
だが、その状態は悲惨の一言に尽きる。
ドレスは海水を吸って重く張り付き、露出した肌は酸性の海水で赤く爛れている。
何より、顔が怖すぎた。
右半分がどす黒い「あざ」のようなもので覆われ、腐った果実のようにドロドロに溶けかけているのだ。
前世のホラー映画でも、ここまでの惨状は見たことがない。
「ひっ……! こ、これ、死んでるんじゃ……?」
わたしは思わず、その凄惨さに半歩後ずさった。
SSRの反応があったから来たけれど、これはもう手遅れな産業廃棄物(死体)にしか見えない。
でも、もし万が一、まだ息があったら――。
わたしは恐る恐る、彼女の濡れた肩に指先で触れた。
「ね、ねぇ。生きてる?」
ピロンッ♪
その瞬間、軽快な電子音が鳴り響いた。
さっきの【市場調査】のターゲット補足が完了した合図だ。
すると、彼女の上に浮かんでいた赤いマーカーが展開し、詳細な商品情報として勝手にウィンドウが開かれた。
「えっ? うわ、びっくりした……勝手に出るんだ」
わたしは目の前に割り込んできた文字列に目を丸くし――そこに書かれた内容を見て、さらに驚愕することになる。
~~~~~~~
【品名:元公爵令嬢アナスタシア】
【レア度:SSR】
【状態:瀕死、腐食、呪い(美貌の喪失)】
【経緯:冤罪により婚約破棄され、絶望し投身自殺→漂着】
【買取価格:0 RP(ジャンク品のため買取不可)】
~~~~~~~
「……えっ?」
公爵令嬢?
このボロボロの人が?
わたしの頭の中で、そろばんを弾く音が鳴り響く。
公爵令嬢……つまり、超エリート教育を受けた貴族様ってことだ。
領地経営には、計算や書類仕事ができる「事務員」が絶対に必要だ。
でも、こんな辺境に来てくれる文官なんていない。
それが、ここに落ちている。拾えばタダだ。
「問題は、修理費だけど……」
わたしは恐る恐る、彼女を直すための見積もりを出した。
【商品修繕費用:5000 RP】
「ご、5000ッ!?」
わたしは驚愕のあまり、砂浜でのけぞった。
さっき必死にゴミ拾いをして稼いだ全財産が5800RP。
そのほとんどが一瞬で消えてしまう額だ。
普通なら諦めて、そのまま海に返却するところだろう。
でも、わたしはニヤリと口角を吊り上げた。
「高い。高いけど……新品の『公爵令嬢』を雇う契約金だと思えば、破格の安さだよね!」
金は使うためにある。
ここでケチるようなら、最強の領地なんて作れない。
「よし、商談成立(お買い上げ)!」
わたしは少女の、冷たくなったに手をギュッと握りしめた。
そして、ありったけの魔力とポイントを込めて叫ぶ。
「――【商品修繕】ッ!!」
カッッ!!
直後、わたしの手から眩いばかりの光が溢れ出した。
それは慈愛に満ちた聖なる光――ではなく、もっと無機質で、幾何学的なエフェクトの光だ。
ヴィィィィン……!
光が少女の身体をスキャンするように走る。
その軌跡を追うように、奇跡が起きた。
肺に溜まっていた海水が強制的に排出され、酸で焼け爛れた肌が、一瞬で白磁のような滑らかさを取り戻す。
そして、彼女の人生を狂わせた顔面の「呪いのあざ」が、まるでこびりついた泥汚れを洗浄するかのように、パリパリと剥がれ落ちて光の粒へと消えていった。
数秒後。
光が収まった砂浜には、この世の物とは思えないほどの美少女が横たわっていた。
月光のように輝く銀髪。宝石のように整った目鼻立ち。
ボロボロだったドレスまでもが、新品のようにフリルを取り戻し、ふわりと風に揺れている。
「ん……ぁ……?」
少女の長いまつ毛が震え、ゆっくりと瞼が開かれた。
アメジストのような紫色の瞳が、ぼんやりとわたしを捉える。
「わたくし……死んだ、はずじゃ……」
「おはよ、お姉ちゃん。生きてるよ」
わたしは屈託のない笑顔で、彼女の顔を覗き込んだ。
少女はハッとして起き上がり、自分の手や身体を触って確認する。
痛みがない。寒くない。それどころか、体が羽のように軽い。
そして、恐る恐る自分の頬に手を触れ――息を呑んだ。
「あ……嘘……消えている……?」
凸凹していた呪いのあざの感触がない。
指先に触れるのは、ツルツルとした陶器のような肌の感触だけ。
彼女は震える瞳で、目の前に立つ小さなわたしを見つめた。
「貴方様が……治してくださったのですか? こんなどこにも行けない、汚れた私を」
「うん。わたしが直したんだよ」
わたしは胸を張り、リサイクルショップの店長として堂々と宣言した。
「リサイクルショップのルールだよ。捨てられたものは、拾った人のもの。だから――」
わたしは彼女の目の前で、人差し指をビシッと突きつけた。
「今日からお姉ちゃんは、わたしのモノ(部下)ね!」
その言葉を聞いた瞬間、彼女の瞳から大粒の涙が溢れ出した。
絶望の淵で死を選び、誰からも必要とされなかった命。
それを拾い上げ、「自分のものだ」と言い切ってくれたことが、何よりも嬉しかったのだろう。
彼女はその場に跪くと、深く頭を垂れた。
「……はい。我が主」
彼女の声は震えていたが、そこには確固たる意志が込められていた。
「この救われた命と身、すべて貴方様に捧げます。……これよりこのアナスタシア貴方様の剣となり盾となりましょう」
「あ、剣とか盾はいらないから、とりあえず『計算』と『書類整理』をお願いね!」
「……は?」
キョトンとする彼女の手を引き、わたしは歩き出した。
よし、これで優秀な秘書(事務員)ゲットだ。
わたしの領地改革は、まだ始まったばかりである。
【お知らせ】
※12/27(土)
好評につき、連載版、投稿しました!
『【連載版】スキル【リサイクルショップ】で捨てられた悪役令嬢(英雄)や神器を仕入れて修理したら、いつの間にか最強国家になってました 〜捨てられ貴族の楽しい領地改革〜』
https://ncode.syosetu.com/n0648lo/
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