第5話:執念の解析(OSINT)
一方その頃。
都内某所の高級マンションの一室。
部屋の主は、抜け殻のようになっている……わけではなかった。
「……絶対に見つけ出す」
ミナミは、鬼のような形相でマルチモニターに向かっていた。
画面には、波形編集ソフト、地図アプリ、そして膨大な環境音のデータベースが表示されている。
あの日、彼女は泣いた。
図星を突かれた悔しさと、元カレへの未練と、何より――
『現実世界で幸せになれ』
そう言って自ら悪役になったケンタの、不器用すぎる誠実さに心が震えて、泣いたのだ。
「あんなこと言われて、ハイそうですかってサヨナラできるわけないじゃない」
彼女はキーボードを叩く。
「現実を見ろって言うなら、現実のあんたを引きずり出して、御礼を言ってやるわ」
手元にあるのは、ケンタとの通話の録音データのみ。
店側は個人情報を教えてくれない。ならば、自力で特定するまでだ。
彼女の本職はAIコンサルタント。データ解析は十八番だ。
Step 1: 時間と音の絞り込み
「ホストクラブの営業時間は19時から24時。手がかりは、この時間にマイクが拾ったノイズだけ」
彼女は、ケンタが最後に叫んだ「別れのシーン」の音声を再生する。
『……だから、もう来るな!』
その怒鳴り声のバックで、微かに流れているメロディがあった。
「これ……『蛍の光』ね。いや、三拍子だから『別れのワルツ』か」
時刻は23時55分。
「24時閉店の店で、5分前からこの曲を流すチェーン店は……『スーパー〇〇』と『△△マート』だけ」
Step 2: 交差点のシグネチャー
次に、以前の会話ログから、窓を開けていた時に拾った環境音を抽出する。
『ピヨ、ピヨ』『カッコー、カッコー』
「音響信号機の音。これが22時以降も鳴っている場所は、視覚障害者支援のために指定された主要交差点のみ」
地図上で、「24時閉店のスーパー」と「音響信号機のある交差点」が重なるエリアを絞り込む。
都内で3箇所が該当した。
Step 3: 決定打となる「卵」
「最後はこれよ」
彼女は、ケンタが何度もこぼしていた愚痴を思い出す。
『近所のスーパー、木曜だけ卵が98円なんだよ。その行列がうるさくてさ……』
彼女は3つのスーパーの「特売チラシ」アーカイブを検索した。
A店:木曜は「肉の日」。
B店:木曜は「冷凍食品半額」。
C店:木曜は……「卵L玉 1パック98円(お一人様一点限り)」。
「……ビンゴ」
ミナミはニヤリと笑った。
場所は特定した。今日はちょうど木曜日。
「待ってなさい、私のNo.1」




