第4話:空白のEGGGEST(エッグイスト)
ケンタが姿を消してから、数日が過ぎた。
VRホストクラブ『EGGGEST』のスタッフルーム(といっても、オンライン上のチャットルームだが)は、ある意味で平和を取り戻していた。
「いやあ、せいせいしましたよオーナー!」
店長のアバターが、明るい声で報告した。
「あのケンタって奴、最後まで売上最下位でしたからね。それに最後、客に暴言を吐いて追い出したらしいじゃないですか。トラブルの種が消えて何よりです。これで来月から、完全自動AI化へ移行できます!」
しかし、オーナーのアバター(なぜかサングラスをかけたティラノサウルス)は、葉巻をふかしながら首を振った。
「……お前は何もわかってないな。『EGGGEST』の哲学を」
「はあ?」
「俺たちは『最上級にえぐい』体験を売る店だぞ? 綺麗なだけのAIに、誰が金を払うんだ?」
オーナーは空中にウィンドウを展開し、これまでの「失敗したオペレーターたち」のデータを並べた。
「見ろ。声優志望の男(失敗例A)。自分に酔ってポエムを読み、客を置き去りにした。これは『ナルシスト』だ」
「ゲーマーの男(失敗例B)。効率を求めて会話をスキップした。これは『ロボット』だ」
オーナーは、ケンタの最後のログを指差した。
「だがケンタは違った。あいつは客の財布を本気で心配し、洗濯物と格闘し、最後は……自分の評価を下げてでも、客の未来のために『帰れ』と言った」
ティラノサウルスが、哀愁を帯びた声で唸る。
「あいつは『人間』だったんだよ。AIだらけのこの無機質な世界で、あいつの不器用なノイズこそが、最高の贅沢だった」
「はあ……まあ、研究データとしては面白かったですが」
「逃した魚は大きいぞ。……ま、今さら言っても遅いがな」
店からケンタへの連絡手段は途絶えていた。
ケンタという特異点は、デジタルの海に消えた――はずだった。




