理想的世界 1
「先ずは、私達の世界についてご説明させて頂きたいのですが、お二人がご存知の事を教えてもらってよろしいですか?」
シャーナがフワリと指を振ると、光の粒子が部屋の真ん中で渦を巻くと、何もなかった部屋にテーブルと椅子が出てきた。
初めて見る魔法に目を輝かせながら、ジグと隣り合って切り株風の椅子に腰掛けると、早速とシャーナが聞いてきた。
おおまかにで大丈夫ですよ。というシャーナ。
「たぶん知ってることは同じだと思うし、ユウから話してもらえるか?」
ジグはそういうのは苦手だろうとは思ったので、僕は頷く。
この転移の間で世界を選ぶ時点で知り得た情報と、転移する時に脳内に勝手に追加されているという、不思議な状態を整理するのも兼ねて話していく。
先ずこの世界は科学と魔法、どちらも合わさった世界であるということ。
魔法が使える種族と使えない種族があり、それぞれが独自の発展を遂げ、更にお互いを認め合うことで技術や知識、能力を合わせた結果だそうだ。
そして種族。
魔法が使えるのは主に魔族、妖精族、精霊族だ。
そして科学や技術は人間族と獣人族。
各種族で特徴はあり、太古の昔は争いもあったらしいが、仲の良い種族どうしで上手くやり取りをし、今では全種族が何の隔たりもなく仲良しなんだとか。今では大半が混血であるそうだ。
どう仲良くなったかというと、獣人族を人間族は嫌っていたが、妖精族と仲が良かった。だが妖精族は獣人族とも仲が良くて、獣人族の良いところを人間族に言って聞かせたお陰で、人間族と獣人族も仲良くなった。
その妖精族と精霊族は歪みあっていたが、どちらとも仲が良かった人間族がそれを悲しみ、妖精族と精霊族との仲を取り持った。
更に妖精族と精霊族は魔族を恐れていたが、魔族は見た目は確かに怖いかもしれないが、一際繊細で優しい存在であった。
ただこの世界の闇を一身に背負う種族であることで、呪いのように見目が醜く、周囲を遠ざけてしまっていのだと、人間族と獣人族が解き明かした事のだ。
世界の不遇を背負っていた魔族は、妖精族と精霊族の加護を与えられ、世界の闇からは完全には解放されはしないものの、そこから始まる呪いのようなモノからは解放された。
これにより不遇であった魔族までもをこの世界の種族達は手を取り合うことができたのだ。…というのが大まかな歴史である。
そして更に他にも生物がおり、精獣や魔獣、水獣等数多の生物が存在するが、この世界では当たり前のように共存が成立している。
国についてだが、基本国境はあってないようなものらしい。
ちゃんと国家も国境もあるのだが、各国々が気軽に交流できるように入国出国の手続きは不要。
もし犯罪が起きたとしても、手続きという手間を省いたことで各国の情報伝達速度や機動力の速さから直ぐに解決するらしい。
だが各国の特色や文化はしっかり大切にされているため、種族間の仲が良くとも母国に留まる愛国心者は多いのだ。
だが他国の文化や特色が気に入って他国に出る者も普通にいるので、世界各国多種族共存が当たり前になったのがこの世界だ。
そして言語は基本共通語だが、各種族独自の言語も存在するが、僕達転移者にはオプション上問題はない。
「…ていう感じでいいかな?」
大方を話し終えてジグとシャーナに聞く。
「うん、やっぱり同じ内容だわ」
「なるほど、お二人とも情報は同等ということですね。では、何か聞きたいことはありますか?」
また指をくるりと回し振ったシャーナの指先から光の粒子がテーブルの上を踊るように回ると、次は可愛らしいティーカップとポットが出てきた。
シャーナはポットを持つと、人数分のティーカップにお茶を注いで渡してくれる。
ジグとお礼を言うとさっそくお茶を口にする。
アールグレイと同じ風味だが、僕の世界のより優しい甘さがあり美味しい。ホッと一息ついてから聞いてみる。
「この魔法についても気になるけど…」
ジグも一番知りたいのはそこだろうしね。僕の言葉にジグの目が輝きを増した。
「何となく察しはついてるから、使い方含めて後で聞くとして」
次は分かりやすくジグの顔がガッカリした。素直で面白い。
「まず、僕はこの世界を自分の目で見て感じるのが目的なんだ。のんびり僕の気分で世界を見て周って、それで最終的には一番気に入った国に根を下ろして残りの生涯を過ごす」
簡単に言うと自由気ままに旅したいということ。
せっかくの異世界転移なのだから楽しむ気満々である。
「それはとても素敵ですね!この国にも冒険者ギルドがあるので、是非登録して下さい。ギルドに登録するとサポートもしっかりしてくれますし、道中で採取した薬草や魔石なんかも換金してくれますし、もしクエストに関するものがあればそちらのクエストクリアとしてくれたりもするので、冒険者は皆さん登録してますよ」
「それはありがたいなぁ、是非登録させてもらうよ」
すごく便利で有難いな冒険者ギルド。
僕の目的はハッキリしてるけど、ジグは?と思い顔を向ける。
「俺は、ユウみたいな目的は特に無いんだ…。ただ自分を変えたくて、この世界は見た目は気にしなさそうだから自分を変えるのにすごくいいなって思ったのと、あと色んな生き物がいて魔法もあって楽しそうだったし、ただ平和に暮らせるならと思ってこの世界にしたんだ」
なるほど、確かにジグはかなり目付きが悪い。黙って見られてたら睨まれてるみたいに見えちゃうし、癖なのだろう考える時に眉間に皺を寄せてしまってるのが睨み付けてるように見えてしまうのだろう。…顔は整ってるのに勿体無いね。
「先ずは眉間の皺をほぐす様にするといいんじゃないか?」
ジグが驚いたように少し俯いてしまっていた顔を上げる。
「だってジグのそれ、癖になってるだろ?考え事してる時になるんじゃないのか?人と話すのに一生懸命考えて話すから会話の時に眉間寄っちゃってるんだよー。あと自身無いのは分かるけど、あんま俯いたら勿体ないよ?全然普通のこと言えてるし、自信持って話して大丈夫だからさ。ここにはジグに怯える人はきっといないよ?僕も怖くないし、シャーナも怖くないからずっとジグを見て話してくれてる。しっかり人を見て、ゆっくりでいいから話してみよう?」
僕の話にジグはゆっくりと瞬きして、やっとシャーナに目を向けると、シャーナは嬉しそうに満面の笑みを浮かべて返した。
「ユウさんの言う通りですよ!ジグさんの目付きくらい、獣人族の方々や魔族の方々と比べると全然です!獣人族も魔族の方々も優しい方々ばかりなので、見た目で人を判断する人はこの世界にはいないです!」
「な?」
ニコニコと話すシャーナの言葉に、ジグを見ると、ジグは嬉し泣きみたいな表情で不器用に笑ってみせた。
「…うん、俺、この世界ならきっと変われる」
「ゆっくりがんばれー」
ゆっくりでいいのだ。ひとつひとつ、一歩づつ。
「俺、ユウの旅についていっていいか?」
スッキリしたような顔をしたジグの言葉に僕は逆に驚く。
「別にそれはいいけど、僕本当に気の向くままにあちこち行くよ?ジグと意見別れたら普通に置いてくし」
「置いて…、いいよそれで。色んな人に出会って色んな体験をするにはユウについてくのが一番いいと思ったから。それに俺優柔不断だから、迷ってたらユウなら俺の手を引っ張ってってくれそうだし」
ニカッと笑っていうジグに、それでいいのか?と思いながら苦笑して頷く。
決めるのはジグだし、さっきまでの迷子みたいな顔をしたジグがいたら、確かに放ってはおけないのは事実だ。
「ふふふっ、まるでお兄さんのユウさんに弟のジグさんが手を引いてもらってるみたいですね」
「お兄さんって、ユウは弟だろ?んで頼りない兄貴の俺」
頼りないって、自分で言うのか…まぁ過剰評価よりいいか。とジグの言葉に呆れ笑う。
「言っとくけど、ジグより僕のが結構年上だよ?」
「そうですよね?私よりユウさん、歳上ですよね?23歳くらいです?」
「まさか、16くらいか、せめて同い年だろ?」
「シャーナが惜しいね、僕これでも25歳。三十路に片足突っ込んでまーす」
「嘘だろ!?」
「見た目お若いですねー!話し方や雰囲気から年上なのはわかってましたけど、見た目は詐欺ですね!」
目を向いて驚くジグは今までされた反応と同じ、シャーナは見事にその後言われるいつもの言葉だが、よく話し方と雰囲気でわかったね。
「因みに失礼だけど、シャーナは何歳?」
「私はピチピチの20歳です!」
「ぴちぴちて…」
この世界でもピチピチっていうんだ、とジグが苦笑する。
脱線したせいで長くなったので2つに分けます。
次でこの世界の大体の設定説明終えたいところ…。
誤字脱字ありましたら優しく教えてくれると有難いです。
早く世界巡り始めたいですけど、もう暫く設定説明にお付き合い下さい。