初めまして世界
ふと、急に意識が戻る感覚に、目を開ける。
慣れないなぁこの感覚、と思いながら体を起こす。
取り敢えずめっちゃファンタジー感満載な部屋に、テンションが上がった。
起きたら大木をくり抜いて作ったような部屋なのだ。丸い窓から入る光は緑や黄色、暖かい色味がキラキラと煌めいて、あちこちの壁から生える枝には可愛い葉や、白い小花が咲いている。
ゆっくり見回しながら感動を味わう。マジでファンタジーだ!
ガバっ!
と、急な物音に思わずビクリと肩が跳ねた。
音の元を見ると、転移の間で一緒だった男の子だった。男の子っても僕より背は高かったけど、たぶん高校生くらいだから男の子だ。
男の子は一瞬前の僕と同じようにキョロキョロと周りを見回すと、ピタリと止まったと思うと、顔が興奮したように笑顔を浮かべた。わかるよ、その気持ち!
同志を見つけた気分で僕も思わず笑顔になる。
すると男の子がこちらを視界に捉えた。
「っこ、これ、ヤバくない!?」
語彙どこやった。と思わなくわないが、気持ちはわかるので、僕は更に笑みを深くして沢山頷く。
僕も人の事は言えないくらい興奮してる。
「めっちゃ、ファンタジーだよね!」
僕の言葉に男の子も同じく沢山頷く。
興奮からか男の子は頬が蒸気している。
僕達はお互いに改めて笑い合うと、男の子が右手を差し出してきて、僕もそれに答えるように右手で握り返した。
「俺、ジグベルト・サイアス!ジグって呼んでくれ」
「僕は、間野 優一郎。長いからユウでいいよー」
「ユウな。同じ世界を選んだ縁だし、その、仲良くしような!」
ジグが照れたように言うのに僕は笑顔で頷く。
「取り敢えずこの世界について知らなきゃね。神様が言ってた協力者?がいる筈だから探してみる?」
「そうだな!」
僕達は取り敢えずその場から立ち上がると、部屋の外、丸っこいドアの向こうからバタバタという音と、何か叫んでる声が聞こえてきた。
ジグと顔を見合わせる。音がだんだんと近付いてきたと思ったら、外側からドアが思い切り開かれた。
「転移者様は!こちらですか!?」
金色の長い髪をした眼鏡っ娘美女が、慌てた様子で部屋に転がりこんできた。
「あー、はい、たぶん僕達が転移者ですねー」
急な美女さんの乱入に驚いたのか、ジグが僕の後ろに咄嗟に下がる。……目付き悪いのに意外と怖がりさんらしい。
僕の言葉に美女さんは肩で息をしながらこちらを見て、勢いよく頭を下げた。
「ももももも申し訳ございません!!お待たせしましたよね!?よね!?転移者様が来られるとの神託があったのですが、何処に降臨されるのか分からず、探すのに手間取ってしまいましてーっ!!ほんっとーにっ!申し訳っございまぜんっっ!!」
怒涛の勢いで謝り倒す美女さんに、呆気にとられる。
「いや、全然大丈夫なんで、そんな頭下げないでください!」
美女さんに頭下げられるとかいう誰得展開は僕苦手なんで!
床に額を擦り付けんばかりに謝る美女さんに必死に声を掛けると、美女さんは半泣きの顔を上げてくれた。
「僕はこの世界で平和に生きていければそれでいいんですよー」
僕は眉尻を下げて苦笑しながら告げる。
実際、この世界を選んだのは、僕の理想の平和がある世界だったからだし。
「あの、俺も、その…、この世界の暮らしが良いなって思って来たから、色々教えてくれたら、それでいいって、ゆーか……」
ジグも俺の後ろから手をもじもじさせながら、視線もキョロキョロと落ち着かないながらも美女さんに告げる。
「ジグは恥ずかしがり屋さんなんだねー」
見た目僕よりデカくて吊り目のちょっと強面イケメン君なのに、何だか可愛らしくて微笑ましくて、思わずポロリと言ってしまう。
「っは、ちっ、ちがうし!?っえと、やぱ、ちがくなく、て、……女の子と、喋るの苦手で……」
最初は否定しようとするために目を吊り上げたジグだが、直ぐに何か思い直したのか、しどろもどろに言い直した。
「そっかぁ、じゃあ、これから少しずつ慣れていこうか。色んな人と、ジグがちゃんと話せるようになったら、きっとジグの世界がいっぱい広がるよー」
会話は大切だからね、沢山の人と話すのは自分の視野思考を広げるきっかけになるからね。
思ったことをそのまま伝えると、ジグは目を一瞬見開いて、でも直ぐに嬉しそうにハニカムように笑った。
「おう、頑張るわ…」
若者よ、頑張れ!っても、僕も別におじさんではないけどねー。
「あの、ありがとうございます…。私、まだまだ新米巫女なので、未熟ですが、転移者様方を頑張ってサポートさせてもらいますね!」
グッと両手を握り気合いを入れる美女さん。
「ほどほどで大丈夫ですからねー。先に自己紹介しときますね。僕は、間野 優一郎です。長いからユウでお願いします。で、こっちが」
「じ、ジグベルト・サイアス、です。ジグで、おなしゃ…す」
ぎこちないながらもジグも挨拶すると、美女は嬉しそうに笑顔で頷く。
「ユウ様、ジグ様ですね!私はシャーナ・リムです!シャーナとお呼び下さい!先ずは、この世界を選んでくれてありがとうございます!」
美女、シャーナさんは笑顔で一礼すると、タタッともう一つの両開きの扉に駆けて行って、扉に手を掛けると一度こちらを振り向く。
「神様達はくれた名は、ウェヌストピア。この世界はあなた方お二人を歓迎します!」
言葉と共に開け放たれた扉の向こう。
見えた世界は、絵で見たような空想の世界が実在していた。
僕もジグも、吸い寄せられるように扉から外に出ると、視界いっぱいに広がるのは大樹から溢れる木漏れ日をいっぱいに受ける木々、緑や白ピンク黄色の沢山の植物と、上手く共存するようにある家や歩道、木と木を繋ぐ橋、笑顔で行き交う人々や、見たこともない生き物達。
何処を見ても感じられる、生命の息吹。
肌を撫でる風は、美味しい空気を運んだ。
「ウェヌス、トピア…」
「すっげ…」
視界いっぱいに広がる広大な世界の一部に、僕とジグの心は、きっと同じくらい高揚しているだろう。
ここから始まる、僕の、ジグの、新しい世界。
「初めまして、ウェヌストピア」