第98話 真実を告白してみた⑦
千波が組織の説明を続ける。
「メイソウには専門のお医者さんがいて、移植用の小型ダンジョンもたくさんストックしてあるよ。加入条件を満たす友達がいれば、一緒に所属してもらうことも可能だね。たとえばあの遺品商のおじさんとか」
「ボブですか?」
「そうそう。こっちは人手不足だから、強いメンバーが増えると助かるの」
楽しそうに語る千波から嘘の気配は感じない。
僕が人員として求められているのは間違いないようだった。
千波は上目遣いで僕に確認する。
「どうかな。佐藤さんにとって悪い話じゃないと思うけど」
「お断りします」
「え?」
「メイソウへの勧誘をお断りします」
はっきり答えると、場の空気に剣呑な色が混ざってくる。
先ほどから無言のメンバーのうち数人は、今にも飛び出して攻撃してきそうだ。
喧嘩っ早いはずなのに手を出してこないのは、会長のアビスの教育が行き届いている証拠だろう。
そのアビスが残念そうに尋ねてくる。
「……理由を、聞きた、い、ですね。な、ぜ……でしょ、う」
「メイソウの目的に賛同できないからです」
僕は両手を広げて言った。
巨大スクリーンがちゃんと配信を継続しているのを確かめつつ、また新たな真実を明かす。
「あなた達は世界からダンジョンを根絶するつもりですよね。そして選ばれた者だけが迷宮人間となり、補正を剥奪された一般人を支配するわけです。そのために各地のダンジョンを小型化して持ち去っているのも知ってます」
「佐、藤さん…………あな、たは一体、どこか、ら、その、情報、を…………?」
「それはどうでもいいじゃないですか。大切なのは、僕がメイソウに加入しないということです」
僕は涼しい顔で言ってのける。
顔を曇らせた千波が、こちらを責める口調で言う。
「メイソウの理念は"国家の安全と繁栄"だよ。日本を陸続きにしようとする国を防いでるし、ゾンビウイルスも吸血鬼菌も人狼病もメイソウが未然に撲滅したの」
「ダンジョ、ンの恩恵……は、インフレー、ションを、起こし、て……いま、す。人、類の自滅を、避け、るに、は、隔離と管、理が必須、なのです……」
アビスと千波の話を聞きながら……いや、聞き流しながら僕はニヤニヤと笑う。
そして、メイソウの面々に向けて言い放つ。
「偉大なる使命を背負う皆さんに一つ提案をします。すべて放り出して自殺しちゃうのはどうでしょう。そうすれば、つまらない悩みとか問題が吹っ飛びますよ」