第97話 真実を告白してみた⑥
メイソウの会長ということは、日本の実質的なトップである。
表向きの権力者なんて端役に過ぎない。
迷宮人間だらけの超人組織に誰が逆らえるというのか。
僕は大げさに喜びながらアビスに話しかける。
「メイソウのトップが出迎えてくれるなんて光栄ですね。これで全員ですか?」
「他の仕、事で不在、なのが、二名……佐藤キツ、ネさんの、攻撃に備えて、表世界に、待機し、ている者が三名……大人しく捕、まった佐藤キツネさん、を不審に思い、行動意、図を探っている、のが一名です」
「ぶっちゃけますねえ。正直者と言われませんか?」
「嘘をつ、けない、性質でして……偽るとい、う行為、が自死、に直結、するの、ですよ」
アビスは嘘か本当か分からない説明を大真面目に語る。
やはり彼の姿は常に変動し、注視しても正体が分からないどころか、余計に認識のズレが大きくなっていく感覚があった。
僕はゆっくりと瞬きをしてからアビスを眺める。
今度は毛むくじゃらのモンスターに見えた。
「佐、藤キツネさん……この状況、は、リアル、タイムで全、世界に配信、しています……あなた、のアカウ、ントをその、まま使ってい、ますので……収益面につ、いてはご安、心ください」
「お気遣いありがとうございます。ちなみに配信のタイトルはどうしましたか? あとタグ付けも気になります。ただ映像を垂れ流しにするのではなく、視聴者を集める工夫をしないともったいないですよ」
「そこ、は失念し、ておりました、申し、訳ない……で、すが、工、夫は不要、だと思いま、すよ。我々のや、り取りは、あら、ゆる勢力が注、目してい……ますから」
アビスが手を叩いて鳴らす。
すると、野球場の大きなスクリーンに見覚えのある配信画面が映った。
視聴者数は六億人。
目を疑う数値である。
感心する僕に千波が補足する。
「ここまでセッティングするの大変だったんだよ。ちゃんとテレビでも放送してるからね。それを合わせたらもっと増えると思うよ」
「素晴らしいですね。本当にありがとうございます。おかげで不自由なく生活できます。ちなみに秘密組織なのに配信なんてして大丈夫ですか?」
「佐藤さんが暴露しまくったせいで、裏の活動に限界が来たからね。メイソウも方針を変更することにしたの」
「それはすみませんね。ご迷惑をかけました」
僕は心を込めずに謝罪する。
配信活動は日本の秘密組織にも影響があったらしい。
千波はアビスを一瞥してから僕に話しかける。
「ボスは喋るのが遅いから、あたしが話を進めるね。佐藤さん、メイソウに所属する気はない?」
「おや、スカウトですか」
「うん。資格を十分に満たしてるからね。ボスの推薦もあるよ」
アビスが静かに頷いた、気がした。