第95話 真実を告白してみた④
風圧で頭が半回転し、ちょうど地上が一望できる角度になる。
ビルの並ぶ大都市が広がっている。
その只中で、黒い塊が蠢いて一か所に集まろうとしていた。
(何かのモンスターかな?)
怪訝に思った僕は、自分の予想が違うことに気付く。
黒い塊は影だった。
近隣一帯の影が、それぞれの物体から独立して集結しているのだ。
生物も建物も無差別に影を失って異様な光景を作っていた。
やがて影は球状で静止した。
不自然に浮かぶそれは、さながらブラックホールのようだった。
影が唐突に弾けて拡散し、僕達のいる上空へと伸び上がってくる。
触手のように伸びながらも隙間はなく、僕達を包み込むように変形していった。
虹田と千波は落ち着き払っている。
むしろ勝ち誇って僕を見下ろしていた。
なるほど、どうやらこれも彼らの策らしい。
影を操る能力で僕を閉じ込めるのが狙いだったようだ。
僕は回避行動を取ろうとして、首から下が丸ごと無くなっていることを知る。
自爆ですべて吹き飛んでしまったらしい。
さすがに無茶をしすぎた。
日光が遮られて周囲が暗黒に染まる中、僕は自嘲気味に反省した。
影だけの光景は一瞬だった。
空間が歪む不快感を挟み、周囲は野球場へと変貌する。
漆黒の空は夜ではなく影で覆い尽くされているのだろう。
(強制的にワープさせられたのか)
考察する間に、首から下の部位が徐々に生えてくる。
迷宮人間になった恩恵により、基礎的な身体機能が底上げされているのだ。
僕の場合は再生力が顕著で、致命的な状態からでもすぐに復帰できる。
手術を担当した医師からは「ダンジョンの修復力を活かした特性」だと聞いている。
最低限の筋肉と骨格が再生したところで、僕はアイテムボックスから取り出したジャージを着た。
狐面は真っ二つに裂けているが、顔面の傷口と癒着してしまっている。
せっかくのトレードマークだからこのままでいいか。
顔バレを防ぐのは配信者の基本だ。
立ち上がった僕の前方には、十数人の男女が並んでいる。
ビキニ姿にマフラー、内部から燃え上がる西洋甲冑、木刀を持ったカウボーイ、水玉模様のパジャマ姿など個性豊かで統一感がない。
そこには千波と虹田も混ざっていた。
ちなみに虹田はちゃんと胴体があった。
首の部分に縫合跡が残っているので、再生したのではなく回収した胴体を繋げたようだ。