第94話 真実を告白してみた③
頭を分断されながら、僕はポケットに入れた二丁拳銃に手を伸ばす。
手探りでグリップを握り、背後の美女を撃とうとする。
ところが、拳銃が手元でいきなり回転して僕の指で弾いた。
そのままダッシュボードの上を滑って届かない位置に飛んでいってしまう。
「うははははは! ざまあみろっ!」
虹田の生首がケラケラと笑っている。
視線で武器を操るスキルだ。
僕の反撃を見越して使ってきたのである。
先に目を潰しておけばよかった。
そうこうしている間に身体が真っ二つになっていく。
断面を魔力糸で繋ごうとするが、ギターチェーンソーの破壊力に負けてしまう。
背後にいる黒ウェディングの美女は、やんわりとした笑顔で残虐なことをしてくる。
止める兆しは欠片もない。
このまま僕を叩き斬るつもりのようだった。
(仕方ないな)
僕はチェーンソーの軌道上に両腕を割り込ませて、腕力で無理やり止めにかかる。
筋肉が切り裂かれて骨が削られた。
猛烈な痛みが突き抜けて血飛沫が迸る。
ギターチェーンソーを押し込む美女のパワーは想像以上に強い。
華奢な見た目に反した力は、明らかにステータス補正を受けている。
彼女も迷宮人間なのだろう。
『この顔、見たことがある』
『おれも』
『メイク系ライバーの千波だよ』
『チナミ!!若者のカリスマとか呼ばれてるあの美人さんか!』
『なんで千波ちゃんが戦ってるの!?!?』
このままでは埒が明かない。
そう考えた僕は【人間爆弾E】を使用した。
撒き散らされた自分の血肉と臓物を対象にした瞬間、高熱の火炎を伴う大爆発が発生する。
視界が暗転し、首から下の感覚が消失した。
耳鳴り以外に何も聞こえなくなる。
とりあえず落下していることだけは分かった。
僕は片目を再生させて状況を確かめる。
頭上では、爆発でバラバラになった車が飛散するところだった。
絶叫する生首の虹田が回転している。
至近距離で爆破を浴びたせいで、全面が火傷に覆われていた。
車の残骸に張り付くように、黒い液体がたぷたぷと躍っている。
それは音もなく変形し、黒ウェディングの美女になった。
コメント欄の証言を信じるなら、メイク系ライバーの千波だったか。
千波は落下中という状況でも落ち着いた様子で微笑んでいる。
(闇……もしくは影のスキルか。その力で背後に転移してきたのかな)
千波はギターチェーンソーを持っていない。
僕の自爆攻撃で壊れたのだろう。
しかし、武器が無くなっても脅威度が減ったとは言い難い。
爆発で無傷なところを見ると、虹田よりも厄介な能力と見るべきだ。