第90話 賞金首になってみた⑩
ハンドルを回したところで、右手首が割れて分離してしまった。
断面からボタボタと血がこぼれる。
まだ再生するには時間がかかりそうだ。
虹田から受けた銃撃のダメージが大きすぎた。
注射された迷宮薬物の回復力が働いているものの、今度は副作用のせいで体調が良くない。
我ながらよく生きているものだと感心する。
手首が取れたままでは運転しづらいので、とりあえず魔力の糸で大雑把に縫合しておく。
放っておけばいずれしっかり繋がるはずだ。
ぎこちなく動く指を見て、僕は満足して頷く。
「あ、そういえば」
シートの上に転がる虹色の二丁拳銃を拾って、ジャージのポケットに押し込む。
穴だらけだが辛うじて収納することができた。
この武器が有能なのは既に分かっている。
せっかくなので貰ってしまおう。
ついで車も僕のものにするつもりだ。
ただし、レインボーカラーは趣味に合わないので塗装し直したい。
虹田のセンスはとても理解できない。
空中を走る車は失速の気配がなく、快調に突き進んでいた。
行き先を決めるまでは惰性で飛び続けるつもりだ。
一箇所に留まるより安全だと思う。
運転中、僕はリスナーからの質問に答える。
『なんで佐藤の補正は消えないの?』
「僕も迷宮人間だからですねえ。場所を問わずステータスやスキルの恩恵を受けられるようになりました」
『前まで外に出たら補正が消えてたよな。いつ移植したんだ?』
「あの対談企画の直後に手術しましたよ。最近の世の中は物騒ですので、自衛手段を増やしてみました。手術費で資金の大半が吹っ飛びましたが後悔はしていません」
体内に移植した小型ダンジョンは六つ。
場所は手足と心臓と脳である。
これらのダンジョンは既に僕の肉体に馴染み、原形を失って溶けていた。
補正の継続機能が少し劣化する代わりに、ダンジョンを破壊されない仕様にしてもらったのだ。
再生能力を持つ僕にぴったりだった。
実を言うと、僕が金儲けをしていた理由の一つがこの手術のためだった。
とにかく馬鹿げた額の手術費と、必要なアイテムを自前で集めなければいけなかったのである。
自分の適性を加味して金儲けをするとなると、必然的にダンジョン配信となったのだ。
手術の時期はもう少し後のつもりだったが、状況的に前倒しすることになった。
まあ、こればかりは仕方あるまい。
急ぎの割増料金をむしられた点以外は問題なかった。