第89話 賞金首になってみた⑨
首無しの死体をドアを開けて車外に蹴り落とす。
生首は助手席に置いて、僕は運転席へと移ってハンドルを握った。
明らかに空中を走っているが、基本的な操作は変わらないようである。
見慣れないボタンやレバーは空中走行や超加速の機能だろう。
変に弄っておかしなことになっても困るので、今は触らずに飛行を続ける。
僕の肉体はボロボロで、まだ穴だらけだった。
過剰に打ち込まれた薬のせいで、神経も内臓もやられている。
まあ、それらはスキルを使えば補強できるため、大した問題ではなかった。
スマホ画面に付いた血を拭ってコメント欄を確認する。
『虹田~~~~~~!!!!』
『首ちぎった』
『グロすぎて草』
『なんであの状況から勝てるんだよ』
『舐めプ疑惑』
『ここまで来たら舐めプとかどうでもいい』
『俺は勝つと信じてたぜ佐藤!!』
とてつもなく盛り上がっている。
劇的な逆転が良かったのか。
さすがに今回ばかりは僕が死ぬと思っていた者も多かったようだ。
一方で疑問を持つリスナーも少なくなかった。
『今ってダンジョンの外だよな。補正が消えてなくね?』
『車の効果とか?』
『たぶん佐藤自身の対策だと思う』
『さっき言ってた迷宮人間って何?』
『気になる』
確かに現在地はダンジョンの外だ。
眼下には普通の住宅街が延々と広がっている。
当然ながら補正関連はとっくに消えてないとおかしい。
それなのに僕は不死身のままで、スキルやステータスの効果を維持している。
おまけに「迷宮人間」なんて聞き慣れない言葉まで使ったら、問いただしたくなるのも仕方あるまい。
「皆さんが気になっている迷宮人間ですが、体内に小型ダンジョンを移植した人のことです。その人間がダンジョンという判定となり、どこでも各種補正を受けられるようになるのです。一般的には知られていない実験の産物ですね」
『なんで佐藤が知ってるの?』
「完璧な機密情報なんて存在しませんからね。それを知る人間とコミュニケーションを取れば、自然と教えてくれるものですよ」
『絶対に拷問じゃん……』
『佐藤なら余裕でやる』
『むしろ真っ当に情報を手に入れたら偽者を疑うね』
『配信中に政治家を拷問するからなぁ……』
具体的な経緯を話していないのに、コメント欄は訓練されたように意見が統一されていた。
僕への信頼は非常に厚いようである。