第88話 賞金首になってみた⑧
車が無茶な運転でどこまでも加速していく。
外では破裂音と衝撃波が絶えず渦巻いていた。
とんでもない超スピードだ。
車体が大破しないのが不思議である。
ここまで頑丈だと、どんな技術で作っているか興味が湧いた。
たぶん彼の所属する組織が製造しているのだろう。
(……まあ、今はそれどころじゃないけど)
僕は虹田の首を絞める。
かなり苦しいはずなのに、それでも虹田は運転を止めない。
握ったハンドルが曲がり、アクセルが陥没するほどの力で運転を強行していた。
虹田の目がぎらついている。
強烈な意志が宿っている目だ。
先ほどまでの焦りが消えていた。
何か作戦があるようだが、ここからどう覆すつもりなのか。
数秒後、分厚い岩壁をぶち抜いて車が地上に出た。
車は速度をほとんど落とさず、そのまま豪快なドリフトを披露しながら空中を爆走する。
物理法則を超越しているのは明白だった。
虹田は窒息寸前の青い顔で大笑いする。
勝利を確信した表情だった。
「はっはっはっは! ダンジョンの外に出たぞ! これでお前の補正は無くなった!」
そう言って虹田が片手で僕の腕を掴む。
万力のようなパワーで指がめり込み、僕の骨と筋肉が悲鳴を上げていた。
噴き出した血が虹色のスーツを染めていくが、彼は気にしない。
今度は空中をドライブしながら、虹田は不敵に鼻を鳴らす。
「俺っちは特別なんでな。外でもある程度は補正を残せるのさ。ただの人間には負けねえよ」
虹田の作戦はこれだったらしい。
ダンジョンの外に出ることで僕の補正を消すのが狙いだったのだ。
確かにシンプルかつ確実性の高い案である。
彼自身や車の補正が継続するというアドバンテージを加味すると、これほど合理的な作戦もあるまい。
勝ち誇る虹田に対し、僕はあっさりと告げる。
「どこでも補正が消えない存在……迷宮人間ですよね。知ってますよ」
「えっ」
虹田がぽかんとした顔をする。
刹那、僕は渾身の力で彼の首を折り砕いた。
そのまま後ろに全体重をかけて勢いよく引っ張る。
ぶちぶちっ、と音がした。
後部座席にひっくり返った僕の手には、千切れた虹田の生首があった。
断面から頸椎の一部がはみ出している。
顔は壮絶な苦痛と驚愕を示したまま固まっていた。
一度だけ僕を睨んだ後、虹田の生首は動かなくなった。