第87話 賞金首になってみた⑦
僕は両腕に力を込めていく。
ちょうど虹田の首を圧迫する掴み方をしていた。
ぎょっとした様子の虹田は、運転を続けながら喚き散らす。
「うおっ!? なんで動けるんだよぉっ!」
「僕は【薬物耐性B】を持っています……強力な薬でも効果は薄れますし、時間経過で無効化できるのですよ」
「それでも肉体のダメージは半端ないだろうがっ!」
「簡単な話です。魔力の糸を神経代わりに繋げば、筋肉が弛緩しようと骨が砕けようと行動可能ですねえ」
他にもスキルを使っているが、わざわざ説明してやる義理もない。
その時、座席越しに飛び出した剣が僕の腹を貫通した。
虹田が咄嗟に反撃してきたのだ。
神経を引き裂く激烈な痛みが全身を巡る。
どうやら痛覚を刺激する効果が付与されているらしい。
バックミラーに映る虹田の目は不敵に笑っていた。
「放せよ。死ぬほど痛いだろ」
「平気ですよ。慣れてますので」
僕は腕の力をさらに強めた。
虹田の表情がだんだんと引き攣っていく。
顔色が悪いのは、おそらく心境的な部分も含まれているだろう。
『佐藤!?!?!?!?』
『普通に反撃してる』
『不死身すぎるでしょ……』
『どうやって死ぬの????』
『シンプルにこわい』
動いたおかげでスマホの配信画面がよく見える。
僕と虹田のツーショットが全世界に届けられていた。
リスナー達は新たな展開に沸き立っている。
喜ぶ彼らと対照的に、当事者の虹田は赤い泡を噴いていた。
「グッ、が…………ッ!?」
「非力ですねえ。ステータスはそれなりに高いようですが、スキル構成が射撃や運転に偏っている感じですか。そんなパワーじゃ僕は引き剥がせませんよー」
超近距離戦なら僕が有利だ。
満身創痍でも関係ない。
虹田はギリギリで耐えているが、その悪あがきも長くは続かないだろう。
視界の端に何かが浮いている。
七色の二丁拳銃が僕を狙っていた。
しかし発砲はせず、ただ浮遊するだけである。
僕は虹田の耳元で囁く。
「視認した武器を操縦するスキル……ナイフを奪われた時に見破りましたよ。遠慮なく撃ってください。自分にも当たる覚悟ができたらの話ですが」
「……っ」
虹田が悔しげな顔をする。
当初の余裕ぶりは消え失せて、どうすればこの状況を脱することができるか必死に考えているようだった。
僕達の乗る車はダンジョン内を音速並みのスピードで突き進む。
たまに魔物や探索者にぶつかっているが、速すぎて区別が付かなかった。