第86話 賞金首になってみた⑥
虹田による質問コーナーは続く。
『組織のオフィスに戻るって言ったけど、それってダンジョンの外でしょ。補正が消えたら佐藤が死なない?』
「あー、問題ない。使って薬はダンジョン外も有効なのさ。そういう違法薬物が出回って事件になってたりするだろ。まあ、外に出たことで効果は落ちるがね」
僕は初回配信を思い出す。
あの時は違法薬物の栽培をする犯罪者を殺していた。
『そういえばダンジョン産のヤク問題あるよな』
『スキルとかレベルの補正は消えるのに、なんでヤクは有効なの?』
『教えてえらいひと』
『虹田が知ってるんじゃない?』
車が急に旋回した。
遠心力に引かれて全身を強打する。
中途半端に再生した肉体に痛みが響く。
一方、虹田は平然と運転していた。
「まずダンジョンの内外では法則が異なるんだよねー。だから外に出ると補正が無くなるわけ。でも、このルールを無視する研究も進んでるんだよー。ダンジョンの境界線を曖昧にする抜け道とか裏技だね」
『へー、初耳』
『調べたけど出てこない』
『また極秘情報かもしれない』
『虹田、情報漏洩でリストラされそう』
そんなことまで話していいのか。
少なくとも世間にもたらす混乱を考慮していないのは間違いなかった。
こちらの懸念をよそに、虹田は饒舌に語り続ける。
「俺っちもよく分からねえけど、ダンジョンの内外を混ぜる技術があるらしいよー。馴染んでバランスが取れると、どこでも使えるアイテムが完成するんだってさ。すげーよなー」
『大発明すぎる』
『ダンジョン産の薬物はバランスが取れた成功例ってことか』
『何気にスクープじゃね?』
『視聴者数がやばいくらい伸びてる』
虹田がスマホに顔を近づける。
どうやらリスナーの数を見て喜んでいるようだった。
これだけ秘匿された話をすれば、注目度は嫌でも跳ね上がるだろう。
配信が人気になるのはありがたいものの、その要因が虹田というのは少し面白くない。
ただ、彼の暴露に話題性があるのも確かなので全否定できないのが悔しいところだった。
虹田は手を叩いて笑う。
「おー、おー、大人気だな。これで金が儲かるなんて最高じゃねえか。どうせ佐藤が死ぬなら、いっそこのアカウントを俺っちが引き継いで――」
「乗っ取り、は困りま、すよ……せめてコラボ、配信ま……でに留めて、ください……」
後部座席から這い上がった僕は、運転中の虹田にしがみついた。