第85話 賞金首になってみた⑤
「せっかくだし質問コーナーでもやるかー。配信ってそういう感じなんだろ?」
虹田は気ままに運転しながらリスナーに語りかける。
ちなみにハンドル捌きはかなり粗く、先ほどから頭をぶつけまくっている。
生け捕りが目的ならもう少し丁寧に扱ってほしい。
『虹田って何者?』
「んー、どっかの秘密組織のメンバーだよ。佐藤キツネを生け捕りにしたら給料アップと聞いてやってきたのさ。意外と簡単な仕事だったなー」
虹田が飄々と喋る。
僕の位置からでは見えないが、リスナーの質問に応じているらしい。
『秘密組織について詳しく』
「公安の上司みたいなもんだよ。あっちをスケープゴートにしながら活動してるんだってさ。あ、言ってよかったのかなこれ」
虹田は髪を掻きながら呟く。
別に焦っている様子はなかった。
明かしたところで問題がないのか、或いはそもそも深く考えていないのだろう。
おそらく後者だとは思うのだが。
『めっちゃ素直に答えてくれる』
『守秘義務ゼロで草』
『虹田がアホなのはわかった』
『同じ組織の人間が頭抱えてそう』
車外から魔物の声が聞こえたが、一瞬の衝突音によってすぐに消える。
タイヤが骨や肉を轢き潰す音がしたので、真正面から突進して排除したのだろう。
この車の馬力は凄まじい。
たぶん何らかの形でダンジョンの補正や技術が使われているのは間違いなかった。
『これからどこに行くんだ?』
「組織のオフィスに戻って佐藤を預ける。その後は決めてねーよ。腹減ったから牛丼でも食いに行くかなー」
『服は派手でもメシは庶民派』
『俺はチーズ牛丼』
『おろしポン酢もいいぞ』
『紅しょうが爆盛りこそ至高』
虹田は気楽な調子で運転している。
僕には目もくれない。
もはや興味の範疇にはないのだろう。
『佐藤は強かった?』
「えっ、普通にザコだろ。不死身に頼るタイプは回避しねえから楽なんだよな。再生できないダメージを与えるだけで沈んでくれるし。これで昇給していいのかなーって感じ」
『ズバズバ言っちゃうね』
『でも正論よな』
『佐藤は別に強くない』
『いつも満身創痍だよな』
『運が良かっただけ』
随分と酷い言われようである。
挑発的な言葉にムッとするも、今の僕はブルーシートに包まれた芋虫状の肉塊だ。
仕方ないので、大人しく配信を聞き続けることにした。