第81話 賞金首になってみた①
学生服を着た少年が半泣きで逃げる。
しきりに振り返る少年は、僕との距離を気にしているようだった。
全力で走りながら一心不乱に叫んでいる。
「うわあああああああああっ! やめてくれえええええええッ!」
少年の手足には無数の傷があった。
釘を打ち込んだ痕だったり、ノコギリで抉った傷だったり、電動ドリルで開けた穴など種類は多様だ。
いずれも僕が刻み込んでもので、少年の恐怖は当然である。
やがて体力の限界に達した少年が転んだ。
僕はその背中を踏み付けて動きを封じると、持っていた肉切り包丁で滅多打ちにする。
少年はしばらく痙攣したが、すぐに動かなくなってしまった。
肉切り包丁を捨てた僕は死体を蹴り転がして微笑む。
「さて、これで標的は死にました。依頼者の学生さんに平和な日常が戻りましたね」
『お~~~』
『さすが』
『めでたしめでたし』
『もっと苦しめてほしかったなー』
殺したのはいじめ加害者の学生だ。
僕のSNSのアカウントに依頼があり、復讐企画を行うことになったのである。
事前調査で複数の証拠が挙がっており、この学生が悪質なサディストであるのは確定していた。
だから僕は夜間のうちに加害者の学生を拉致し、ダンジョンの放り込んで惨殺したのだ。
不祥事の揉み消しが得意な父親もついでに殺しておいたので、依頼者が報復に怯える必要もないはずだ。
満足感に浸っていると、首筋に鋭い痛みを覚えた。
いつの間にかそばに黒ずくめの人間が佇み、僕に剣を刺していた。
「おっと、危ないですねえ」
僕は首に剣が刺さったまま跳びかかり、相手を殴り倒す。
そのまま前腕で首を圧迫して意識を奪いつつ、さらに力を込めて頸椎をへし折った。
首の剣を抜いた僕はスマホに苦笑を見せる。
「ギリギリセーフでした」
『余裕でアウト』
『わざとやってる?』
『恒例イベントになってきたな』
『暗殺者の出現率高すぎ。ピックアップイベントかよ』
常里さんとの対談企画から半年が経過し、僕の日常は大きく変貌した。
どこからともなく命を狙われるようになってしまい、おかげで全国各地を巡りながらの配信活動を強いられている。
表向きには指名手配なんてされていないというのに迷惑なものだ。
『佐藤の首っていくらなの?』
『大手闇サイトで二兆円』
『今見たら二兆三千億まで増えてた』
『ひえっ』
『恨み買いすぎ~』
当初は大いに盛り上がったリスナー達も、今ではこの状況に慣れている。
まあ、他人事なのでこんなものだろう。
僕は気さくなテンションで提案する。
「僕が死んだら配当が貰えるサイトもあるので、皆さんもよければご検討くださいね」
『それ自分で宣伝する……?』
『さすがに草』
『ホンモノじゃん』
『狂ってやがる』
『配当ほしいな……』
暗殺者に命を狙われながら配信をこなす。
これが現在の僕の日常だった。