第8話 ダンジョンのヤクザと対決してみた①
時刻は夜の九時。
寂びれた公園の片隅で、僕は配信を開始した。
トレードマークにする予定の狐面を被り、三脚付きスマホに向かってハイテンションな挨拶をする。
「こんにちはー! 佐藤キツネでーす」
配信の日時を予告していたおかげで、閲覧数はガンガン伸びていく。
リスナー達は早くもボルテージを上げてコメントしている。
『来た』
『佐藤ーーーーーー!!』
『待ってたよ!』
『初見です』
『ここが聖地か』
配信の成否はコメント欄を見れば分かるという。
その理論でいくなら、スタートの時点で大成功と言えよう。
シーソーにまたがる僕は、小刻みに飛び跳ねながら語る。
「先日はありがとうございました。おかげさまでチャンネル登録も五万人を突破して、再生回数も伸びまくっています。ライバーとして上々の滑り出しですね。本当に感謝しております」
『おめでとう~』
『謙遜すんな、お前の努力だよ』
『前回の配信よかった』
『まとめサイトにも載ってたよ』
『SNSでも拡散される』
『当然の結果だね』
初配信から五日が経過し、佐藤キツネの名はネット上で大きく広まっていた。
あちこちのサイトで話題となり、配信の一部を切り抜いた動画が拡散され続けている。
僕の素性を特定しようとする者まで出てくる始末で、予想を超えた反響が生じていた。
配信業で一儲けしたかった僕としては嬉しい誤算である。
『今から何するの?』
「なんとですね、第二回の企画は…………ダンジョンのヤクザと対決してみた!」
ノリノリで宣言した僕とは対照的に、コメント欄は戸惑いと不安に満ちていた。
肯定的な言葉もあるものの、多数派の言葉にかき消されている。
『ヤクザ?』
『マジか』
『大丈夫なの』
『消されそう』
『やめた方がいいよ』
ダンジョンが発生するこの時代において、ヤクザはとても恐れられている。
荒事に慣れ親しんだ彼らは総じてレベルが高めで、戦闘スキルを多く所持する傾向にあるからだ。
山賊紛いの蛮行に走る者も珍しくなく、ダンジョンで鉢合わせた日には殺し合いを覚悟しなければならなかった。
色々と法整備が進んでいるとはいえ、無法地帯と化したダンジョンは少なくない。
以上の理由からヤクザという存在は前時代よりも恐れられている。
配信のネタにして面白半分に関わってはいけないのだ。