第79話 ドライブデートしてみた②
『常里かわいそう』
『因果応報だけどな』
『俺もそう思う』
『悪いことをしたら罰を受けないと』
僕はグラウンドを軽トラで周回する。
その間、常里さんの悲鳴は絶えず聞こえていた。
僕に対する罵詈雑言も繰り返されている。
まだまだ元気が有り余っているようなのでスピードアップしてあげた。
しばらくすると痛がる声しか発さなくなったので、僕は車外に顔を出して呼びかける。
「常里さーん、早く暴露をお願いしまーす」
「も、もうっ、やめてくれっ! 悪かった! 謝るからっ!」
「謝罪なんて求めてないんですよー。暴露してくれたら良いことがあるかもしれませんよー」
心理的な餌を吊り下げておけば、上手く釣れるかもしれない。
僕は執拗に誘わず、以降は黙々と運転をする。
それから何周かした後、常里さんがヒステリックに喋り出した。
「さ、三年前の〇〇社の不正事件! あれの首謀者は知り合いの〇〇〇〇だ! 証拠なら自宅の金庫に仕舞ってあるぞ! 他にも先月の賄賂疑惑は――」
常里さんの暴露はどんどん続く。
記録している内容を自分でも憶えているようだ。
いざという時に他の政治家や権力者を脅したり従わせるための切り札なのだろう。
『あーあ、暴露しまくりだ』
『スクープだらけで感覚麻痺しそう』
『何人が道連れになるかな……』
『政界がひっくり返るんじゃないか?』
『ここで名前が出なかった人に票を入れよう』
そうして暴露が始まってから二時間後。
満身創痍の常里さんは振り絞るように懇願する。
「そろそろ……止めてくれ! 暴露は十分、だろう! これだけ、貢献したんだから、解放しろぉっ!」
「え? 嫌ですよ」
「なっ……」
常里さんの顔が凍りついた。
僕は満面の笑みで言葉を続ける。
「暴露したら良いことがあるかもしれないと言っただけで確約はしてませんからねえ。このまま死んでもらいます」
「ふざ、けるなあっ!」
「脅しても無駄ですよ。あなたのスキルは完全に封じてますからね。最期までしっかり苦しんでください」
常里さんの呪詛をBGMにのんびり運転を続ける。
ほどなくして声が聞こえなくなったタイミングで、僕は軽トラックから降りて様子を見に行く。
鎖で繋がれた常里さんは原形を失って血肉の塊と化していた。
か細い呼吸音だけ聞こえる。
僕は拳銃を突きつけると、頭部に向かって引き金を引いた。