第78話 ドライブデートしてみた①
僕はクリスマスソングを口ずさみながら軽トラのハンドルを握る。
ノリノリで走るのはスタジオ内の中型グラウンドだ。
運動会の番組でもやっていたのか、学校の校庭っぽい内装になっている。
天井ではなく青空が広がっているのは、幻術を常時展開しているのだろう。
ダンジョンの仕様を上手く利用した設計である。
こういう演出が世間では流行っているらしい。
気分よく運転していると、後ろから情けない叫び声が聞こえた。
「助けてくれぇっ!」
僕はサイドミラーに注目する。
足首に鎖が絡まった常理さんが砂利の敷き詰められた床を無抵抗に引きずられていた。
鎖のもう一端は軽トラの後部に繋がれている。
つまり僕の運転する軽トラが常里さんを引っ張り回しているわけだった。
僕が軽トラを旋回させると、その動きに従って常理さんが回転してカーブを描く。
衣服がズタボロになって皮膚も血だらけだ。
叫び続けたせいで声も掠れつつある。
ちなみに常里さんの首には拡声器が固定されており、それが彼の声を周囲に響かせていた。
遠巻きに見守るスタッフ達は揃って顔面蒼白だった。
僕は配信中のスマホに笑顔を向ける。
「いやー、ドライブデートは楽しいですねえ。このまま外に出たくなっちゃいますよ」
『いやいやいや』
『とんでもないことしてる……』
『やりたい放題すぎるだろ』
『法律が息してない』
リスナー達は相変わらずドン引きしている。
ちなみにサリスを拷問している時もコメント欄が阿鼻叫喚だった。
ただ、視聴者数は際限なく伸び続けているし、投げ銭も絶えず行われている。
つまりコンテンツとしては大成功というわけだ。
これくらいの刺激で良いらしい。
現在、僕は常里さんとの対談企画の最中だ。
サリスを片付けた後、最初のスタジオに取り残された常里さんを回収してここまで持ってきたのである。
他のスタッフに助けられたり、別の口封じ要員に殺されているかもしれないと思ったが意外にも無事だった。
わざわざリスクを冒して彼に関わろうとする者はいなかったようだ。
僕の恨みを買うのが恐ろしかったのだろう。
「いだだだだだだだだだだっ!」
「ほらほら、暴露したら速度を落としてあげますよ。頑張ってくださいねー」
僕はクラクションを鳴らしながら応援する。
常里さんは痛がるばかりで何も言わない。
素直になるまで絞る必要がありそうだ。