第75話 大物政治家と対談してみた⑧
サリスが吹っ飛ぶ。
壁を何枚か突き破り、放送機器を蹴散らしながら激しく転がった。
コードに絡まって倒れるサリスは口から血を垂らしている。
ただ、大きな怪我はしていない様子だった。
僕は魔力の糸のギプスをしっかり固定し、スマホのカメラでサリスを映す。
「ほらほら、ぼさっとしてると死んじゃいますよー」
「ありえない……」
「いけませんねえ。なんでも否定から入ると視野が狭まります。もうちょっと前向きになってみては?」
喋りながら飛び蹴りで仕掛ける。
サリスが跳んで回避したので、そこに回転蹴りを見舞った。
腕を交差して防いだサリスは、また壁を破壊しながら別のフロアへと消える。
派手に吹き飛んだが、たぶんそこまでのダメージではないだろう。
こんなもので死ぬほど弱くないのは知っていた。
僕は衝撃で折れた足を引きずって追いかける。
『超人化スキルで劣勢……』
『なんで???』
『佐藤が言ってただろ。強化倍率で勝てばいいって』
『言うのは簡単だけどさあ……』
『実際は無理だよな』
崩壊したフロアの奥からサリスがカメラを投げ付けてきた。
音速を超えるそれを躱しつつ、僕はマシンガンを撃ちまくる。
サリスは銃撃を無視して突っ込んでくるが、被弾箇所の出血に気付いて即座に退避した。
気配が別のフロアへと高速で逃げていく。
『超人化のAランクの効果がわかった』
『教えて!!!!』
『どこ情報?』
『ああ、このサイトは信憑性が高い』
『たぶん本当のやつだね』
誰かの楽屋からサリスが飛び出してきた。
首を掴まれて床に叩きつけられる。
頸椎が粉々になる音を聞きながら、僕はサリスの片目に親指を突き込んだ。
眼球を抉る感触と共に、サリスが猛獣のような声を上げる。
『公表されてる範囲の補正だけど……』
『筋力と魔力が二十倍』
『ダメージカットが八十パーセント』
『高速再生と飛行能力』
『戦闘系スキルの効果二倍』
『魔術の無詠唱化』
『あらゆる魔術耐性を獲得』
『三分に一回、残機が増える』
視界が凄まじい勢いで回っている。
サリスに足首を掴まれた状態で振り回されているのだ。
内臓が千切れるような遠心力と、壁や床に激突する痛みが脳を支配する。
それでも僕の意識は途切れない。
手探りでサリスの鼻を捉え、遠心力を利用してもぎ取った。
『チートガン積みやん』
『反則すぎワロタ』
『ゲームバランスおかしいだろ』
『ますます佐藤が対抗できる理由がわからん』
『まじでどんなスキル持ってるんだ?』
『しかも魔剣スヴィア持ちでしょ。普通は無理ゲーだよ』
『世界の魔術武器百選に入っていたよね』
『あ、テレビで見た気がする』
ひたすら落ちていく。
僕達の戦闘にスタジオが耐え切れず、床がどんどん崩壊しているのだ。
あちこちから悲鳴や怒声が聞こえてくる。
生き埋めになる人も続出するだろう。
もはや放送どころではなかった。