第74話 大物政治家と対談してみた⑦
満身創痍の身体を引きずり、サリスと常里さんの間に割り込んだ。
僕は胴体を叩き斬られて膝をつく。
無理に庇ったせいで身体が分離しそうだ。
背骨と筋肉で辛うじてくっ付いている状態だった。
僕は深く息を吐いてサリスを見上げる。
「口封じですね。そう来ると思いましたよ」
「……なぜ動ける」
「ただのやせ我慢です」
喋りながら【魔力糸C】と【縫合術A】を使って肉体を繋ぎ止める。
応急処置にも満たない荒療治だが十分だ。
僕は床に手をついてキックを放つ。
サリスは素早く反応し、剣の腹でガードした。
そこから横薙ぎに刃を振るってきたので、僕は斬られながらも殴りかかる。
『すげー』
『超スピード』
『カメラが追い切れてない』
『頂上決戦かよ』
『常里が放置で草』
一瞬の油断も許されない攻防が展開される。
サリスが回転しながら後方へ飛び退いた時、僕の肉体損傷はさらに悪化していた。
あちこちが切り裂かれて骨や内臓が露出している。
手足の指も一部が欠損していた。
トレードマークの狐面もヒビが入ってしまっている。
それでも僕は痛がりもしない。
こういうダメージには慣れ切っている。
僕はサリスの持つ剣を指差して指摘した。
「魔剣スヴィア……凶悪な性能の魔術武器ですよね。再生阻害、猛毒、防御貫通、生命力の吸収でしたっけ。良い装備じゃないですか。公安警察の経費で買ったんです?」
「…………」
サリスは答えない。
代わりに魔力の斬撃を飛ばしてきた。
僕は片手を突き出して受け止める。
高熱の斬撃で腕の半分以上が炭化したが、後ろにいる常里さんを守ることはできた。
僕は消し炭になった肉を払い落として文句を言う。
「危ないじゃないですか。やめてくださいよ」
「俺の【超人化A】は機能している。肉弾戦で対抗できるはずがない。今のもそうだ。魔力の斬撃は生身で止められる威力ではなかった」
サリスは警戒心を露わに述べる。
基本的に自分のペースで話すらしく、円滑なコミュニケーションは期待できそうにない。
それでも現在は配信中なので、僕には受け答えする義務があった。
炭化した腕に魔力の糸をギプスのように巻きながら応じる。
「単純な話です。複数のスキルの乗算で互角以上の身体能力になればいいだけですから」
僕は何気ない動作で前進する。
眼前には驚愕した表情のサリスがいた。
慌てて魔剣を振るってくるも、その速度は呆れるほどに遅い。
「――ここが配信のピークです。あっさり死なないでくださいね?」
僕はギプスを巻いた腕で正拳突きを放った。