第72話 大物政治家と対談してみた⑤
僕は金鎚を片手に常里さんを観察する。
右の手の甲は骨が砕けて青紫色に変色していた。
顔は脂汗だらけで、掠れた呼吸を繰り返しながら震えている。
僕は涼しい笑みで話しをまとめる。
「なるほど、よく分かりました。あなたの指示ではないが、暗殺についてはあえて黙認した。不都合な人物は傘下の組織が消してきたわけですね?」
「…………」
常里さんは床を見つめたまま動かない。
質問が聞こえなかったなんてことはないだろう。
僕は笑顔でため息を吐く。
「黙ってたら嘘か判断できないじゃないですか。今後は黙秘も罰の対象にします」
「……外道め。貴様はもう終わりだ。ここまで派手なことをしておいて、日常に戻れると思うなよ。すぐに報復が」
常里さんの言葉を遮るように金槌を振るう。
さっきと同じ場所に連続で打撃を浴びせると、常里さんは猛獣のように叫んだ。
その口に金鎚を突っ込み、僕はゆっくりと告げる。
「そういうセリフは、求めてないんですよね。僕が欲しいのは、質問の答えだけです」
『こわい』
『いつもの佐藤より凄みがある……ッ!』
『そこにシビれる憧れるぅ』
『そろそろ放送中止になりそう』
口から金槌を引っ張り出すと、常里さんは露骨に安堵した。
たぶん歯を折られるとでも思ったのだろう。
或いは喉奥まで無理やり金槌を詰め込まれるのを想像したのかもしれない。
そこまでやったら喋りにくくなるのでダメだ。
暴露配信としては致命的である。
こういう過激な展開でも、本題を忘れずに立ち回らねばならない。
「常里さんはどうして警察を自由に動かせるのですか? そういった権限をお持ちではないかと思いますが」
『公安警察との契約で、敷地のダンジョン領域を訓練場として貸し出しているのだ。建前上は敷地の提供だが、実際は私兵として扱うことを許可されている』
常里さんは吐血しない。
今のは本当らしい。
僕は配信中のスマホに向かって呼びかける。
「聞きましたか皆さん。これは大スクープですねえ。政治家が警察を私的利用できる契約が交わされていたそうですよ」
『まじかよ』
『スキルが反応していないから事実』
『警察に問い合わせてみるか』
『すごい暴露やな』
コメント欄のリスナーも驚いている。
今のは非常に良い質問だった。
常里さんがスムーズに答えてくれた点も大きい。
おかげでまた一波乱起きそうだった。